その①

文字数 2,610文字

「ど、どうなっているんだ?」

 園内全域が揺れている。しかも建物はほとんど崩れ落ち、おまけに先ほど飛行機が墜落した。それを見ていた泰三と勇宇は、ここにいては危険と判断。

「仕方ない。一度入場ゲートに戻るぞ、勇宇! 綹羅や陵湖たちも戻るかもしれん!」

 彼らの判断は正しい。少なくとも何かしらの二次災害の起こり得る園内に留まるべきではないだろう。

 だがそれは、この太陽の下……シャイニングアイランドでは悪手である。

「泰三に勇宇も! 大丈夫だったの?」

 既に陵湖たちが避難していた。

「『惑星機巧軍』の相手をしたが……。この園内で起きている異変は一体何だ? これも誰かの神通力なのか?」
「それは絢嘉にもわかんないよ~。でも、絢嘉たちが倒した人たちにこんなことができるヤツはいなかったよ」
「すると……綹羅と環…」

 泰三は心配そうに園内の方を向いた。二人はまだ、この中にいるのだ。

「駄目ね。今の謎天変地異で電波が乱れているのか、携帯が繋がらないわ」

 美織が無念そうに首を横に振る。

「無事を祈ろう。怪我してなければ自力でここまで来れるはずだ…」

 そう言ったのは、何と泰三である。彼はここにいる五人の中で一番、二人を助け出したい衝動を抱えていた。しかし、今の状況で園内に戻れば、自分たちも危ないかもしれない。仲間をこれ以上危険な目に遭わせられない。冷血だがそう判断した結果だ。

「なあ、誰を倒したんだ?」

 勇宇が美織に聞くと、

「確か、最初がジュピターとアース。その後にニビルとテイアだったわ。そっちはどう?」
「俺らは、ヴィーナスとムーンに、マーキュリーとプルートだ」

『惑星機巧軍』と聞くと、コードネームは天体からとられているのであろうことは勇宇たちでもわかる。全体で何人いるかは不明であるものの、ある程度は察せる。

「だとすると大体の残りは火星、土星、天王星、海王星か…。綹羅と環がその相手をしているんだろうな…」
「じゃあ、残りの『惑星機巧軍』は四人だけ? なら絢嘉でも倒せるよ!」

 その無邪気な発言は普通なら癇に障るだろう。だが今は違う。

「そうだな……綹羅たちが戦って倒してくれているなら、もう『惑星機巧軍』の残りはいないはず。まだかもしれないけど、『惑星機巧軍』の分散具合から想像するに、残りの四人が綹羅と環を襲った可能性は高いと思う」

 これまで、『惑星機巧軍』は必ず二人組で彼らの目の前に現れた。だからなのか、勇宇は残った四人は綹羅たちが相手をしていると直感できた。

「じゃあやっぱり、ここで待っているのが賢明だわ! 綹羅も環も馬鹿じゃないんだから、この状況を察してここに戻って来るはずよ!」

 陵湖がそう言うと、いよいよ入場ゲートで待機する方針に誰も異議を唱えない。

 だが、『惑星機巧軍』の残りは四人ではないのだ。管制室にいるハウメアたちを除いても、まだ出動できる人物がいる。その人物を倒さないで逃げてしまったのは、完全に失敗でしかない。


「聞こえるか、サンよ」

 今田はマイクにそう語り掛ける。

「ギリギリだ。さっきサターンが神通力を使ったのだろう、酷く園内が乱れている。そして次の災害が生じないところを見るに、仕留められなかったに違いないな。アイツは敵を倒した時、必ず祝砲を上げる。それがないということは、そういうことだ」

 管制室のカメラは全て駄目になったので、モニターはさっきから砂嵐だ。

「そうか」

 とだけ今田は返答した。

「だが……サターンのおかげで高い建物はなくなった。これはチャンス。これなら私の神通力を思う存分、使える! 敵の位置はわかるか?」
「さっきまでは、プロミネンスの側にいた」
「それは何だ?」
「ジェットコースターだ。アトラクションコーナーの奥の方にある。そして綹羅はそこにいる。環と共に」
「わかった」

 サンは頷くと、通信を切った。
 すると今田は出撃する準備を始めた。

「どうするのさ?」

 ハウメアが聞くと、

「何故……最強と謳われた『惑星機巧軍』がことごとく敗れたかわかるか?」

 逆に質問で返す。

「さあ? 馬鹿だったんじゃないの?」
「違うな。これはもう仕方のないことだが、神通力者はいつもの相手ではないからだ」
「それ、どういう意味?」

 その会話に、マケマケも加わる。

「『惑星機巧軍』は、海の向こうの戦場で戦っている。だがそれは、武装しているとはいえ相手はただの一般人。言わば勝って当然の相手としか直面したことがない。神通力者同士の戦いとなると、どうしても不慣れな彼らは敗北を喫してしまうのだ。それに対して綹羅たちはどうだ? 『歌の守護者』に『太陽の眷属』…シャイニングアイランドの神通力者を今まで何度も退けてきたヤツらからすれば、『惑星機巧軍』は特別な相手ではなくただの神通力者でしかない。簡単なことだ、考えてみろ。いつもシマウマばかり襲っているライオンが、いきなり戦闘経験豊富なトラと戦って勝てるか? 慣れ……経験というものは時として運命を左右する」

 問題は、そのアドバンテージの差をサンが覆せるかどうかである。それができないことには、

「サンにも勝ち目はない」

 と今田は言う。だから彼は、準備をしているのだ。その時は自分が直接赴いて、そして綹羅たちを撃破するために。

「お前たちを行かせるわけにはいかない。私が直接行き、そしてヤツらを始末する。お前たちは私が戻らなかったら、園内に残されているであろう『惑星機巧軍』の生き残りたちとシャイニングアイランドから脱出するのだ」
「その後は、一体どうしたら?」

 ケレスが聞くと、

「さあな。それは自由だ。『惑星機巧軍』と共に海を越えるのもよし、日本に残るのもありだ」
「今田はどうするの?」

 エリスが尋ねると、

「それも不明だ。私が負ける未来があるかもしれない。冗談みたいな話だが、その場合は私も蒸発するとしよう。『惑星機巧軍』の未来・行き先はお前たちに託す。これから先は自分たちで生き抜くのだ。そういう強さも獲得しなければいけないし、その道にはサンたちが精通している。きっと困ることはないだろう」

 だがそれらは、今田が敗北した場合の話である。

「もっとも……。私は負けんがな」
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