その⑤
文字数 1,786文字
「ノ、ノクターンとの通信が途絶えました……」
ボレロは信じられない表情で、そう言った。
「まさか! ノクターンを打ち負かすだと? それはあり得ない! 彼女の神通力はある意味、無敵なんだぞ?」
プレリュードも驚きを隠せない。セレナーデも、そうだそうだと頷く。しかし、
「何も驚愕すべきことではない! 環の方がノクターンよりも上手だっただけだ。相手の神通力を予想し、ノクターンを発見することのできる発想すらも持っているという何よりの証拠だ。これは是非とも、仲間に加えなければな…」
一番激怒したいであろう色部は、冷静に分析していた。
「どうします、色部様? これでは誰も環を追跡できませんよ?」
「問題ない、『歌の守護者』を入場ゲートの方に集めろ。そこからしか園内から外には出れない。残っている者たちに、閉園までゲートを見張るように言え! こちらの被害をこれ以上出さないためにも、今日の園内での監視は終わらせよう」
ボレロはセレナーデと共に、管制室を出る。『歌の守護者』の中でこの場に残ったのはプレリュード一人のみ。
「ホテルコロナに行く様子なら、そう教えろ。いいか、ボレロ、セレナーデ、レクイエム、絶対に環を逃がすなよ? それとソナタ、ララバイ、エレジー…お前らはメヌエットたちを連れて一度戻って来い!」
リーダーとして、プレリュードは迅速かつ的確な判断を下した。色部はそれに文句を言わない。
そしてその日の夕方、レクイエムから連絡があった。それをプレリュードは色部に報告する。
「……そうか、わかった。色部様! やはり二人はホテルコロナに泊まるつもりだそうです。本日のホテルの空は十分なので、確実に宿泊できるはず。これで逃がすことはありえません。我々はいつ、向かいますか?」
「そうだな……。今日は確か、ホテルのロビーでピアノのコンサートがあったな? その時でいい。きっと二人も来るだろう。もし来なければ、明日の朝食の時にでも」
「了解しました」
綹羅は緊張していた。今日一日ではとても回りきれないことは知っていたが、環がホテルに泊まってまで明日も一緒にいてくれるかどうかはわからないのだ。だが、天は彼の味方だった。
(何も、ないよな…?)
ここで下心を出したら、一発で嫌われるだろう。それを思うと、変なことはできない。
「環さん、ロビーでピアノコンサートがあるみたいだぜ? 行ってみないか?」
「いいよ! 面白そうだね!」
二人はシャワーで疲れを流して体を洗った後。その会場に向かった。
ロビーは広いが、宿泊客が多くて混んでいる。ピアノの前には小柄の女の子が立っている。彼女は客に向かって挨拶をすると、席に座ってピアノを演奏し始めた。聞いていると、心が安らぐ。そんな音色だった。
二曲演奏すると、休憩のために立ち上がった。そしてこのつかの間のタイミングで、
「おっと、済まない…」
綹羅は後ろから、ある人物にぶつかった。
「あ、すみません…」
「気にするな。混んでいるのだから仕方がない。それよりも次の曲を楽しもうじゃないか?」
男性は綹羅を咎めなかった。それどころか、
「お熱いねえ、二人かい?」
人懐っこく、環にも話しかけるのだ。
「はい。今日はデートで…。でも、一日じゃとても回れなくて…」
「そうだろうな。ここは大きすぎる……。設計者は何を考えていたんだか…。まあ、明日も存分に楽しみなさい」
と言うと、すぐに去っていった。もちろんこの人物は色部である。
色部は客の群れから離れてプレリュードと合流した。
「セレナーデは今日も調子がいいようですね。ところで、問題の人物はどうでしたか?」
「別に、異常な雰囲気はない。神通力者ではあるが普通の女子高生……と言ったところか? そんな人物がどうして『歌の守護者』を三人も退けられたのか、疑問だが…」
とにかく、この場での目的は達成できた。が、色部は特別な感想は一切抱いていない。
(この目で確かめる意味は、あまりなかったか…? まあ、無駄足になったがそれでも構わない。いずれ味方につけるんだからな!)
この日はピアノコンサートが終わると、イベント関係はそれで終了。綹羅は環と共に部屋に戻ると、園内で打ち上げられる花火を待った。
ボレロは信じられない表情で、そう言った。
「まさか! ノクターンを打ち負かすだと? それはあり得ない! 彼女の神通力はある意味、無敵なんだぞ?」
プレリュードも驚きを隠せない。セレナーデも、そうだそうだと頷く。しかし、
「何も驚愕すべきことではない! 環の方がノクターンよりも上手だっただけだ。相手の神通力を予想し、ノクターンを発見することのできる発想すらも持っているという何よりの証拠だ。これは是非とも、仲間に加えなければな…」
一番激怒したいであろう色部は、冷静に分析していた。
「どうします、色部様? これでは誰も環を追跡できませんよ?」
「問題ない、『歌の守護者』を入場ゲートの方に集めろ。そこからしか園内から外には出れない。残っている者たちに、閉園までゲートを見張るように言え! こちらの被害をこれ以上出さないためにも、今日の園内での監視は終わらせよう」
ボレロはセレナーデと共に、管制室を出る。『歌の守護者』の中でこの場に残ったのはプレリュード一人のみ。
「ホテルコロナに行く様子なら、そう教えろ。いいか、ボレロ、セレナーデ、レクイエム、絶対に環を逃がすなよ? それとソナタ、ララバイ、エレジー…お前らはメヌエットたちを連れて一度戻って来い!」
リーダーとして、プレリュードは迅速かつ的確な判断を下した。色部はそれに文句を言わない。
そしてその日の夕方、レクイエムから連絡があった。それをプレリュードは色部に報告する。
「……そうか、わかった。色部様! やはり二人はホテルコロナに泊まるつもりだそうです。本日のホテルの空は十分なので、確実に宿泊できるはず。これで逃がすことはありえません。我々はいつ、向かいますか?」
「そうだな……。今日は確か、ホテルのロビーでピアノのコンサートがあったな? その時でいい。きっと二人も来るだろう。もし来なければ、明日の朝食の時にでも」
「了解しました」
綹羅は緊張していた。今日一日ではとても回りきれないことは知っていたが、環がホテルに泊まってまで明日も一緒にいてくれるかどうかはわからないのだ。だが、天は彼の味方だった。
(何も、ないよな…?)
ここで下心を出したら、一発で嫌われるだろう。それを思うと、変なことはできない。
「環さん、ロビーでピアノコンサートがあるみたいだぜ? 行ってみないか?」
「いいよ! 面白そうだね!」
二人はシャワーで疲れを流して体を洗った後。その会場に向かった。
ロビーは広いが、宿泊客が多くて混んでいる。ピアノの前には小柄の女の子が立っている。彼女は客に向かって挨拶をすると、席に座ってピアノを演奏し始めた。聞いていると、心が安らぐ。そんな音色だった。
二曲演奏すると、休憩のために立ち上がった。そしてこのつかの間のタイミングで、
「おっと、済まない…」
綹羅は後ろから、ある人物にぶつかった。
「あ、すみません…」
「気にするな。混んでいるのだから仕方がない。それよりも次の曲を楽しもうじゃないか?」
男性は綹羅を咎めなかった。それどころか、
「お熱いねえ、二人かい?」
人懐っこく、環にも話しかけるのだ。
「はい。今日はデートで…。でも、一日じゃとても回れなくて…」
「そうだろうな。ここは大きすぎる……。設計者は何を考えていたんだか…。まあ、明日も存分に楽しみなさい」
と言うと、すぐに去っていった。もちろんこの人物は色部である。
色部は客の群れから離れてプレリュードと合流した。
「セレナーデは今日も調子がいいようですね。ところで、問題の人物はどうでしたか?」
「別に、異常な雰囲気はない。神通力者ではあるが普通の女子高生……と言ったところか? そんな人物がどうして『歌の守護者』を三人も退けられたのか、疑問だが…」
とにかく、この場での目的は達成できた。が、色部は特別な感想は一切抱いていない。
(この目で確かめる意味は、あまりなかったか…? まあ、無駄足になったがそれでも構わない。いずれ味方につけるんだからな!)
この日はピアノコンサートが終わると、イベント関係はそれで終了。綹羅は環と共に部屋に戻ると、園内で打ち上げられる花火を待った。