その②
文字数 2,480文字
『太陽の眷属』との戦いを終えて陵湖たちは園内を歩く。もちろん敵の接近にも気を配るが、誰も来ない。
「おや…?」
最初に異変に気がついたのは、絢嘉だ。
「何であんなところに、木が伸びてるの? ていうかシャイニングアイランドのアトラクションコーナーに木って生えてる? 何、あれもアトラクションの一部なの?」
当然、違う。それは綹羅が生み出した樹木。しかもそれが何の前触れもなく、倒れたのだ。
「何かあるわこれは! 行きましょう!」
陵湖たちはそう直感し、急いだ。
「………ちょっと待って」
美織が言った。彼女の携帯に電話がかかってきたのだ。相手は環。一体何の用だろうか?
植物の根は水を吸ってしまう。だから泰三の神通力は綹羅に届きにくい。その事実を覆す術がなければ、泰三には勝ち目はない。
(やってみせる…!)
泰三の心は前向きだ。
「うおおおおりゃあああああ!」
そして手のひらから水をウォーターカッターのように勢いよく噴射し、綹羅に切りかかる。
「無駄だ」
だがこの一撃も、凄まじいスピードで地面から伸びてきた根に阻まれてしまうのだ。少しは切れ目を入れられたのだが、吸収されることには変わりはない。
「貴様の神通力では、この俺を倒すことはできん!」
「俺の意見は違う…。やってみせようじゃないか!」
今度は頭上に大きな水の塊を繰り出した。
「これが全部、吸い上げられるか!」
泰三が手を振り下ろすと、それは綹羅に向かって動き出した。
「下らん行為だ」
綹羅はそう言うと、植物の根で壁を作る。
「やはり、そう来るか!」
その壁を、水の塊は越えられそうにない。だがそれでいいのだ。泰三は綹羅がそうやって来るだろうということを予想していた。
(壁の向こう側は、アイツには見えない。だから今がチャンス…!)
そして向きを変えて走る。今のうちに綹羅の背中に回り込むのだ。
「いない…?」
思惑通り、綹羅は泰三を見失った。今彼は、物陰に隠れている。そして時期を待っている。
(俺の水を綹羅に通すのなら、多少汚いが不意打ちしかない…。今はまだだ、決定的な隙を必ず綹羅は見せる! そこを突くんだ…)
キョロキョロしているが、ということは綹羅は泰三を見つけられていないという証拠。だから機会がある。
ついに綹羅は、泰三に背中を向けた。
(今だ…!)
彼は忍び足で、でも素早く駆けた。一気に綹羅との距離を縮めると、ハンドボールサイズの水の球を繰り出して綹羅の頭目掛けて投げる。これが当たったら、ただでは済まされないほどの威力が出る。
はずだった。
「貴様…。自分の見たいようにしか周りが見えていないのか?」
「な、何っ!」
背を向けたままそう言う綹羅に泰三は驚いた。
次の瞬間、綹羅の背中から植物が生え花が咲いたと思うと、それはまるで怪物の口のように花びらを大きく開いて泰三の水の球を一飲みした。
「こ、こんなバカな?」
しかも、その直後の綹羅の動きも速い。瞬時に泰三の横に回り込むと、脇腹を蹴り飛ばした。
「あ、ああぐうあああわ!」
地面に倒れこむ泰三。顔を綹羅に向けると、彼は冷たい目をこちらに向けている。
「白痴だな…考えが浅すぎる。貴様、そんな程度でこの俺に勝とうとしたのか?」
それは綹羅の作戦だった。
実はこの時、泰三の背中側の地面にある花が咲いていた。その花は果実の代わりに、動物の目玉を実らせた。それは一つではない。先ほど泰三が隠れていた物陰も見えるように、咲いていたのだ。だから泰三がどの方向に動くのか、全て見られていた。キメラ植物の恐ろしいところは、絶対にあり得ない性質を持たせることが可能である点。それを可能にしてしまえる綹羅の神通力及びセンスは、驚異的としか言いようがない。
泰三の水も、植物に吸収されてしまうことが不運だ。そうされると植物は急成長を遂げることができ、一気に伸びる。だから綹羅は泰三から少し離れたところに花を咲かせることも、光合成もこの天気でも可能なので水を飲み込んだ際に加速することもできた。
「か、か、か、敵わない……のか………。俺では…………」
泰三の心の中に、絶望が芽生えた瞬間だった。そしてその心境を見抜いた綹羅は声をかける。
「どうした、さっきまでの威勢はもう地平線の彼方か? 所詮貴様は器じゃないということだ。この俺に勝つことができる人材ではない……凡人め」
言い返すことすらできない泰三。逃げると言う選択はできない。環との約束を破ってしまうし、そもそも逃走しても植物に捕まってしまう。
(俺では、勝てないのか…? いいや、何かできるはずだ! 綹羅が闇に染まった理由さえわかれば、どうにかできるはず…!)
こんな状況でも希望を見い出そうとしている彼の精神力は、賞賛に値するだろう。だが綹羅は、
「貴様は決定的な勘違いをしている。諦めずに粘ることと、敗北をいつまでも認めようとしないことは全く別物だ。今の貴様は、現実を見れていない。自分の負けが決定的…その事実から目を逸らし、自分に言い訳をしている。その先に勝利などありはしない!」
言葉の槍が泰三に突き刺さる。
「う、うるさい! 今のお前には偉そうなこと、何も言われたくない! いつものお前はそんなこと言わないだろ!」
「俺は見つけただけだ、本当の自分を。心が負に染まった時、俺には見えた。神通力者が進むべき道が。それだけではない。血に染まった俺に与えられた、汚れた未来…。もう拒むことはできない。俺はその道を歩む」
綹羅の心は、深淵まで負に染まっている。
(一体何なんだ? 綹羅をここまで追い詰めた出来事は? 誰が、何をしたのだ?)
それさえわかればこの勝負、泰三にも分がある。だがそれが真っ暗で見えてこないのだ。少なくとも綹羅の口から繰り出される雰囲気ではない。彼は過程を言わず、結果だけを述べている。
「おや…?」
最初に異変に気がついたのは、絢嘉だ。
「何であんなところに、木が伸びてるの? ていうかシャイニングアイランドのアトラクションコーナーに木って生えてる? 何、あれもアトラクションの一部なの?」
当然、違う。それは綹羅が生み出した樹木。しかもそれが何の前触れもなく、倒れたのだ。
「何かあるわこれは! 行きましょう!」
陵湖たちはそう直感し、急いだ。
「………ちょっと待って」
美織が言った。彼女の携帯に電話がかかってきたのだ。相手は環。一体何の用だろうか?
植物の根は水を吸ってしまう。だから泰三の神通力は綹羅に届きにくい。その事実を覆す術がなければ、泰三には勝ち目はない。
(やってみせる…!)
泰三の心は前向きだ。
「うおおおおりゃあああああ!」
そして手のひらから水をウォーターカッターのように勢いよく噴射し、綹羅に切りかかる。
「無駄だ」
だがこの一撃も、凄まじいスピードで地面から伸びてきた根に阻まれてしまうのだ。少しは切れ目を入れられたのだが、吸収されることには変わりはない。
「貴様の神通力では、この俺を倒すことはできん!」
「俺の意見は違う…。やってみせようじゃないか!」
今度は頭上に大きな水の塊を繰り出した。
「これが全部、吸い上げられるか!」
泰三が手を振り下ろすと、それは綹羅に向かって動き出した。
「下らん行為だ」
綹羅はそう言うと、植物の根で壁を作る。
「やはり、そう来るか!」
その壁を、水の塊は越えられそうにない。だがそれでいいのだ。泰三は綹羅がそうやって来るだろうということを予想していた。
(壁の向こう側は、アイツには見えない。だから今がチャンス…!)
そして向きを変えて走る。今のうちに綹羅の背中に回り込むのだ。
「いない…?」
思惑通り、綹羅は泰三を見失った。今彼は、物陰に隠れている。そして時期を待っている。
(俺の水を綹羅に通すのなら、多少汚いが不意打ちしかない…。今はまだだ、決定的な隙を必ず綹羅は見せる! そこを突くんだ…)
キョロキョロしているが、ということは綹羅は泰三を見つけられていないという証拠。だから機会がある。
ついに綹羅は、泰三に背中を向けた。
(今だ…!)
彼は忍び足で、でも素早く駆けた。一気に綹羅との距離を縮めると、ハンドボールサイズの水の球を繰り出して綹羅の頭目掛けて投げる。これが当たったら、ただでは済まされないほどの威力が出る。
はずだった。
「貴様…。自分の見たいようにしか周りが見えていないのか?」
「な、何っ!」
背を向けたままそう言う綹羅に泰三は驚いた。
次の瞬間、綹羅の背中から植物が生え花が咲いたと思うと、それはまるで怪物の口のように花びらを大きく開いて泰三の水の球を一飲みした。
「こ、こんなバカな?」
しかも、その直後の綹羅の動きも速い。瞬時に泰三の横に回り込むと、脇腹を蹴り飛ばした。
「あ、ああぐうあああわ!」
地面に倒れこむ泰三。顔を綹羅に向けると、彼は冷たい目をこちらに向けている。
「白痴だな…考えが浅すぎる。貴様、そんな程度でこの俺に勝とうとしたのか?」
それは綹羅の作戦だった。
実はこの時、泰三の背中側の地面にある花が咲いていた。その花は果実の代わりに、動物の目玉を実らせた。それは一つではない。先ほど泰三が隠れていた物陰も見えるように、咲いていたのだ。だから泰三がどの方向に動くのか、全て見られていた。キメラ植物の恐ろしいところは、絶対にあり得ない性質を持たせることが可能である点。それを可能にしてしまえる綹羅の神通力及びセンスは、驚異的としか言いようがない。
泰三の水も、植物に吸収されてしまうことが不運だ。そうされると植物は急成長を遂げることができ、一気に伸びる。だから綹羅は泰三から少し離れたところに花を咲かせることも、光合成もこの天気でも可能なので水を飲み込んだ際に加速することもできた。
「か、か、か、敵わない……のか………。俺では…………」
泰三の心の中に、絶望が芽生えた瞬間だった。そしてその心境を見抜いた綹羅は声をかける。
「どうした、さっきまでの威勢はもう地平線の彼方か? 所詮貴様は器じゃないということだ。この俺に勝つことができる人材ではない……凡人め」
言い返すことすらできない泰三。逃げると言う選択はできない。環との約束を破ってしまうし、そもそも逃走しても植物に捕まってしまう。
(俺では、勝てないのか…? いいや、何かできるはずだ! 綹羅が闇に染まった理由さえわかれば、どうにかできるはず…!)
こんな状況でも希望を見い出そうとしている彼の精神力は、賞賛に値するだろう。だが綹羅は、
「貴様は決定的な勘違いをしている。諦めずに粘ることと、敗北をいつまでも認めようとしないことは全く別物だ。今の貴様は、現実を見れていない。自分の負けが決定的…その事実から目を逸らし、自分に言い訳をしている。その先に勝利などありはしない!」
言葉の槍が泰三に突き刺さる。
「う、うるさい! 今のお前には偉そうなこと、何も言われたくない! いつものお前はそんなこと言わないだろ!」
「俺は見つけただけだ、本当の自分を。心が負に染まった時、俺には見えた。神通力者が進むべき道が。それだけではない。血に染まった俺に与えられた、汚れた未来…。もう拒むことはできない。俺はその道を歩む」
綹羅の心は、深淵まで負に染まっている。
(一体何なんだ? 綹羅をここまで追い詰めた出来事は? 誰が、何をしたのだ?)
それさえわかればこの勝負、泰三にも分がある。だがそれが真っ暗で見えてこないのだ。少なくとも綹羅の口から繰り出される雰囲気ではない。彼は過程を言わず、結果だけを述べている。