その⑥

文字数 2,841文字

 そしてまず美織が実行する。口喧嘩の間に下にいた陵湖にさっき落とした銃を拾ってもらい、パスしてもらった。そして自分を拘束する指にゼロ距離で撃つ。

「おおおわああああああ!」

 これには耐えられず、ジュピターは手を放した。

「あ、馬鹿! 逃げるぞあの女が!」
「待ってくれよ~」

 大きな体で追いかけられては、すぐに捕まる。そこで絢嘉の神通力だ。煙を全開にして、相手の視界を遮った。

「馬鹿馬鹿! お前のせいで逃げられたぞ!」
「俺のせいじゃないよ? アースが遅いからだろ?」
「んだとこの……!」

 煙を利用して追撃を逃れた陵湖たちは建物の中に隠れて作戦を練る。そこはレストラン、黒点だった。大量のテーブルをどかして奥に入り込む。

「あの、武器を生み出す男はどうする? アースとかいうヤツだ…」

 陵湖はアースとはあまり戦いたくはない。あの神通力の相手は自分が一番であることは承知している。だが、

「私がアイツの相手をするなら、確実に殺してしまうわ…。だって対抗するにはこっちも武器を使わないといけないんだもん。流石にそれはできない…」

 と言って、持っていたナイフを床に投げ捨てた。

「じゃあジュピターとかいう巨人の相手をするの?」

 美織が言うと、陵湖は頷いた。

「あれは図体だけの見掛け倒しよ! 私と美織が共闘すればすぐ倒せる。問題は絢嘉一人でアースを倒せるかどうかだけど…」

 二人が絢嘉の顔を覗き込むと、

「ちょっと! それは絢嘉のこと舐めすぎだよー! 私だって立派に戦えるから!」

 と主張するのだが、どうにも信用ならないのだ。自分でもできると言わんばかりにナイフを拾ったが、持ち方からして素人丸出し。

「まずはここに隠れて様子を伺って、先に目の前に現れた方に対処する、いい? 多分アースはさっきみたいに隠れながら…」

 行動しているはず、と続く予定だった陵湖のセリフは急に途絶える。その時、バキバキと大きな音を立ててレストランの天井が剥がされたのだ。ジュピターの仕業だ。その肩にはアースも腰を掛けている。

「見つけたぞ! やっぱりここだ! さあもっと掘り進め!」

 ジュピターは三人の姿を確認すると、さらに建物を壊しながら手を伸ばした。

「シャイニングアイランドの建物なのに、自分から壊すってそんなのあり?」

 戸惑っていると、陵湖はすぐにポケットに手を突っ込んだ。だが、中々取り出せない。巨大化したジュピターには、拳銃程度の攻撃は効かない。きっとナイフも折れてしまうだろう。だとすると、有効打が思いつかないのだ。

「ならこれ…」

 仕方なく取り出したのは、化学薬品のビンだ。

「美織、パス!」

 それを美織に回す。

「これは……」

 ラベルを見て美織はすぐにその危険性に気がついた。

(これで行けばいいのね、陵湖…)

 そしてワザとジュピターの前に出る。

「おお、また会えて嬉しいよ! さあ捕まえた捕まえた…」

 伸びてくる指に、思いっきりビンを叩きつける。

「うぎゃああああああああああああああああああ!」

 ビンは皮膚の厚さに負けて割れた。ので、中身がジュピターの指にかかる。いくら皮が厚くても、化学変化には敵わないらしい。

「濃硫酸だって。これは流石に耐えられないみたいね、無駄じゃないわ」

 さらに美織、陵湖から次の品を受け取る。

「……水酸化カリウムね。これは強い」

 そして何の迷いもなく、ジュピターの指にかける。

「うご、おおおおお!」

 暴れ出し、さらに建物を破壊するジュピター。

「うわ、急に動くな馬鹿!」

 肩から落ちそうになったアースは、何とか彼の肩にしがみついた。だがすぐに絢嘉がジャンプしてアースのことを蹴り落とす。

「こっちこっち!」
「うぜえな、コイツ。死ねよ死ね死ね!」

 マシンガンを構えるも、絢嘉の体は煙の中にすぐに溶けて消える。アースは撃ち続けたが、既に絢嘉は彼の後ろに回り込んでいる。

「うりゃ!」

 ナイフの絵の部分でアースのことを殴った。

「うっ?」

 すると彼はその場に倒れた。

「ようし、やっつけたよ!」

 ちょうど同じタイミングで、陵湖と美織はジュピターに最後の攻撃を仕掛けようとする。

「殺さない程度なら、これが一番だわ!」

 次の品は、なんと注射器。

「これ、大丈夫なの?」

 美織のその問いかけに、陵湖は首を振って答える。それを信じて美織はジュピターに向かってジャンプし、肩に思いっきりそれを突き刺した。

「何をする!」

 そして中身の薬品を注射した。

「おい、聞いてるのか?」

 ジュピターの無事な方の手で美織は掴まれた。

「いくら可愛い子ちゃんでも、やっていいことと悪いことがあるぞ! 教えてあげようか!」

 と言って力を入れて美織を握りしめる。

「……んぐ…!」

 美織はもがいたが、抜け出せない。どうやら力も十倍に跳ね上がっているらしいのだ。しかし、段々力が引いていくのを感じた。

「効いてきたわね、麻酔が!」

 そして指が完全に緩むと美織は脱出し、同時にジュピターの体は元のサイズに戻りながらその場に倒れこんだ。

「よし、これで大丈夫!」

 絢嘉が言うと、陵湖も美織も頷いた。

 だがまだ終わりではない。実はこの時、アースが目を覚ましたのだ。賢いことに彼は三人にバレないようにマシンガンの銃口を向け、トリガーを引く機会を待った。しかも砂煙も起きているので、彼の動きはバレにくい。

(殺す! 絶対に逃がさんぞ!)

 幸いにも、ジュピターが建物を壊してくれたおかげで周りはゴミだらけ。いつでも神通力を使ってこの状況を挽回できる。
 しかし、

「動かないことだね。命が惜しいならジッとしてて!」

 絢嘉は気づいていたのだ。

(な、何でわかる? 背中に目でも付いてんのかこの女?)

 焦りがアースに嫌な汗をかかせた。

「あ、今汗出したでしょ!」

 それすらも絢嘉には筒抜けだ。

「わかるよ? だってこの煙、絢嘉のだもん!」

 彼女の言う通り。この砂煙は建物が壊れて生じたものではない。彼女が自分の神通力で引き起こしたものだ。だからそれに紛れて隠れているつもりのアースの動きが手に取れる。

(…はっ?)

 絢嘉ばかりに気を取られて、アースは陵湖のことを見失った。

(ど、どこに行きやがった…? 二人しかいないぞ…?)

 頭を動かそうとした瞬間、こめかみに銃口を突き付けられる。陵湖は彼のすぐ横にいるのだ。

(え、じ、銃…? まさかそんな…)

「終わりね!」

 パン、という銃声がするとアースの体は崩れた。

「空砲だけど、本当に撃たれたと思って意識が飛んだみたい。これで完璧! 完全に攻略できたわ」

 三人は半壊したレストラン黒点から出た。
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