その②
文字数 2,283文字
「大丈夫なのか、勇宇…?」
それは見ている泰三が一番感じている。少なくとも今、リードしているのは勇宇ではなく綹羅。
だが勇宇もすぐに勝負を諦めない。
「木を切るなら、斧の方がいい!」
言うと同時に、斧を繰り出した。そして樹木の幹を叩き切る。さっきの剣よりは食い込み、そして木が揺れ始めた。もちろん上も警戒するが、綹羅はさっきのような木の実を落としては来ない。
「ちょうどいい、この木に飽きてきたころだ」
何と無情にも、綹羅は木を見捨てた。すると一気に枯れてしまい、樹木の方から倒れた。
「何だよ今のは…?」
勇宇がそう言う。彼の中の綹羅は、そんな無情なヤツではないのだ。
「おい綹羅! お前、完全に心を失っちまったのか!」
「失う? 違うな、俺は成長した。心を闇に、黒く染めることで、自分を縛り付けるしがらみから、自身を解放した」
「そんなの、綹羅じゃない!」
「貴様に決めてもらおうとは思ってはいない! この俺に意見するなら、倒してみろ。この俺よりも強いことを証明してみせろ」
口で言ってしまえば、それは簡単なこと。暗黒に堕ちた綹羅を正気に戻すのは、より強い力を示すだけだ。だがそれが、断崖絶壁を登ることのように難しい。
「やるしか…ない!」
勇宇は迷いを捨てた。ここは最悪、綹羅を病院送りにする気で戦うしかないのだ。彼は斧を握りなおすと、それを掲げて綹羅に突っ込む。
「ぬおおおおお!」
雄叫びと共に振り下ろした。だがその大きな刃は綹羅には届かない。既に地面からつるが伸びており、斧の柄に巻き付いて固定しているのだ。頑丈であり、神通力者の勇宇ですら動かせない。
「な、何だ?」
突然、斧の刃が傾き始めたので勇宇は驚いた。彼は力を入れていないし、柄の部分は動いていないにも関わらず、である。そして次の瞬間、斧の刃だけが取れて地面に落ちた。柄と繋がっていた部分は、煙を出している。
「折れた…? 違う、溶けている! これは…!」
勇宇の神通力を使用して何かしらの物体を生み出した場合、全て鋼で構成されることになる。だから斧は刃も柄も、金属製なのだ。普通は植物には負けないはず。だがそれを負かしたのが、綹羅の神通力。普通ではあり得ない、茎から金属を溶かす酸を分泌する植物を生み出したのである。
「こ、コイツの神通力は! 普通じゃない植物までも…! 何でもありか、コレ!」
通常、綹羅の神通力では自然界に自生していない、いわゆるキメラ植物は生み出せない。しかし今の闇に堕ちた綹羅なら、話は別。その神通力は少し違っており、このような存在しない植物を作り出してしまえるのだ。
地面に落ちた斧の刃は、瞬時に伸びたハエトリグサが捕虫器でそれを挟むと一瞬で溶かしてしまった。
(アレに捕まったら、一巻の終わりだ…)
その光景をわざと見せつけられているからこそ、勇宇は恐怖した。
(近づいて戦うのは、ちょっとマズい…)
そうも思ったために、一旦、距離を取る。逃げられるほど離れることはできないので、後ろにジャンプした。それでも数メートルは稼げる。
(勝負はここからだ…!)
鉄球を手のひらに出すと、それを綹羅に投げつけた。一個だけではなく、数個を。だがそんな小細工に苦戦する綹羅ではない。
「無駄だ…」
地面から生え出た植物が、壁を形成している。そのせいで鉄球が一個も、綹羅の足元にすら転がっていかない。
「なるほどな…。これは厄介だ。嫌でも至近距離で戦わないといけないってか!」
その壁には樹木も含まれる。勇宇は鉄球に混ぜて短剣も飛ばしたのだが、やはり効果がない。遠距離攻撃は全て、緑の壁に遮られるのだ。
だったら、と言わんばかりに勇宇は近づいた。だが壁に攻撃は加えずにジッと待つ。
「どうした?」
壁のせいで、綹羅の方から勇宇の姿は見えない。これを利用するのだ。
攻撃してこない様子なので綹羅は壁を枯らした。するとすぐ目の前に勇宇がいた。
「何だと…!」
「これを待っていた!」
この瞬間、勇宇は動きながらレイピアを繰り出して突き出した。流石の綹羅も対応に遅れ、完全に防げない。植物を伸ばしてガードしようにも、レイピアの剣先はそれを貫いて綹羅に迫る。
「…ぐっ!」
ブスリ、と勇宇の手に肉を貫く感覚が伝わった。
「よ、よし…! 手応えがあったぞ…!」
綹羅が素早く後ろに下がる。だがその軌跡を、流れ出た血が示している。どうやら右胸に刺さったらしく、服が赤く染まっている。
「どうだ綹羅! これでも俺が弱いって言えるか! 一撃をくらわせてやったぜ!」
流れが変わろうとしている。さっきまでは綹羅が戦いを制している様子だった。だが今は、勇宇に傾いている。
「いけるぞ、勇宇!」
泰三も見ていて思った。勇宇はまだ出血に至るダメージを負ってはいない。そして先に綹羅に傷をつけた。これは大きいことだ。
「さあ、これでもまだ戻って来ないって言うんならよ、俺はさらに攻める! うおお!」
レイピアを構え、勇宇はさらに前に進もうとした。流れを掴んだ彼からすれば、ここは攻め時だ。
だが、
「その程度、少し驚いただけだ。児戯に等しいこと!」
そう言って綹羅は傷口に手をやった。すると植物の根が張って、傷を塞いでしまった。
「そういうこともできんのかよ…。だが、俺の方が有利なことに変わりはない!」
「傲慢な考えだな。それは貴様を縛る足枷に過ぎない」
それは見ている泰三が一番感じている。少なくとも今、リードしているのは勇宇ではなく綹羅。
だが勇宇もすぐに勝負を諦めない。
「木を切るなら、斧の方がいい!」
言うと同時に、斧を繰り出した。そして樹木の幹を叩き切る。さっきの剣よりは食い込み、そして木が揺れ始めた。もちろん上も警戒するが、綹羅はさっきのような木の実を落としては来ない。
「ちょうどいい、この木に飽きてきたころだ」
何と無情にも、綹羅は木を見捨てた。すると一気に枯れてしまい、樹木の方から倒れた。
「何だよ今のは…?」
勇宇がそう言う。彼の中の綹羅は、そんな無情なヤツではないのだ。
「おい綹羅! お前、完全に心を失っちまったのか!」
「失う? 違うな、俺は成長した。心を闇に、黒く染めることで、自分を縛り付けるしがらみから、自身を解放した」
「そんなの、綹羅じゃない!」
「貴様に決めてもらおうとは思ってはいない! この俺に意見するなら、倒してみろ。この俺よりも強いことを証明してみせろ」
口で言ってしまえば、それは簡単なこと。暗黒に堕ちた綹羅を正気に戻すのは、より強い力を示すだけだ。だがそれが、断崖絶壁を登ることのように難しい。
「やるしか…ない!」
勇宇は迷いを捨てた。ここは最悪、綹羅を病院送りにする気で戦うしかないのだ。彼は斧を握りなおすと、それを掲げて綹羅に突っ込む。
「ぬおおおおお!」
雄叫びと共に振り下ろした。だがその大きな刃は綹羅には届かない。既に地面からつるが伸びており、斧の柄に巻き付いて固定しているのだ。頑丈であり、神通力者の勇宇ですら動かせない。
「な、何だ?」
突然、斧の刃が傾き始めたので勇宇は驚いた。彼は力を入れていないし、柄の部分は動いていないにも関わらず、である。そして次の瞬間、斧の刃だけが取れて地面に落ちた。柄と繋がっていた部分は、煙を出している。
「折れた…? 違う、溶けている! これは…!」
勇宇の神通力を使用して何かしらの物体を生み出した場合、全て鋼で構成されることになる。だから斧は刃も柄も、金属製なのだ。普通は植物には負けないはず。だがそれを負かしたのが、綹羅の神通力。普通ではあり得ない、茎から金属を溶かす酸を分泌する植物を生み出したのである。
「こ、コイツの神通力は! 普通じゃない植物までも…! 何でもありか、コレ!」
通常、綹羅の神通力では自然界に自生していない、いわゆるキメラ植物は生み出せない。しかし今の闇に堕ちた綹羅なら、話は別。その神通力は少し違っており、このような存在しない植物を作り出してしまえるのだ。
地面に落ちた斧の刃は、瞬時に伸びたハエトリグサが捕虫器でそれを挟むと一瞬で溶かしてしまった。
(アレに捕まったら、一巻の終わりだ…)
その光景をわざと見せつけられているからこそ、勇宇は恐怖した。
(近づいて戦うのは、ちょっとマズい…)
そうも思ったために、一旦、距離を取る。逃げられるほど離れることはできないので、後ろにジャンプした。それでも数メートルは稼げる。
(勝負はここからだ…!)
鉄球を手のひらに出すと、それを綹羅に投げつけた。一個だけではなく、数個を。だがそんな小細工に苦戦する綹羅ではない。
「無駄だ…」
地面から生え出た植物が、壁を形成している。そのせいで鉄球が一個も、綹羅の足元にすら転がっていかない。
「なるほどな…。これは厄介だ。嫌でも至近距離で戦わないといけないってか!」
その壁には樹木も含まれる。勇宇は鉄球に混ぜて短剣も飛ばしたのだが、やはり効果がない。遠距離攻撃は全て、緑の壁に遮られるのだ。
だったら、と言わんばかりに勇宇は近づいた。だが壁に攻撃は加えずにジッと待つ。
「どうした?」
壁のせいで、綹羅の方から勇宇の姿は見えない。これを利用するのだ。
攻撃してこない様子なので綹羅は壁を枯らした。するとすぐ目の前に勇宇がいた。
「何だと…!」
「これを待っていた!」
この瞬間、勇宇は動きながらレイピアを繰り出して突き出した。流石の綹羅も対応に遅れ、完全に防げない。植物を伸ばしてガードしようにも、レイピアの剣先はそれを貫いて綹羅に迫る。
「…ぐっ!」
ブスリ、と勇宇の手に肉を貫く感覚が伝わった。
「よ、よし…! 手応えがあったぞ…!」
綹羅が素早く後ろに下がる。だがその軌跡を、流れ出た血が示している。どうやら右胸に刺さったらしく、服が赤く染まっている。
「どうだ綹羅! これでも俺が弱いって言えるか! 一撃をくらわせてやったぜ!」
流れが変わろうとしている。さっきまでは綹羅が戦いを制している様子だった。だが今は、勇宇に傾いている。
「いけるぞ、勇宇!」
泰三も見ていて思った。勇宇はまだ出血に至るダメージを負ってはいない。そして先に綹羅に傷をつけた。これは大きいことだ。
「さあ、これでもまだ戻って来ないって言うんならよ、俺はさらに攻める! うおお!」
レイピアを構え、勇宇はさらに前に進もうとした。流れを掴んだ彼からすれば、ここは攻め時だ。
だが、
「その程度、少し驚いただけだ。児戯に等しいこと!」
そう言って綹羅は傷口に手をやった。すると植物の根が張って、傷を塞いでしまった。
「そういうこともできんのかよ…。だが、俺の方が有利なことに変わりはない!」
「傲慢な考えだな。それは貴様を縛る足枷に過ぎない」