その①
文字数 2,577文字
泰三は次の朝に、綹羅を学校に呼び出した。夏休み中でも自主勉という名目であれば、学校には自由に出入りできる。
「お、おっす…」
教室にいたのは、泰三だけではない。勇宇や絢嘉、美織、そして違うクラスの細宙 陵湖 。
「早いな綹羅! 俺の方でメンバーを集めておいた」
「というと?」
ここにいる五人は全員、神通力者であるということだ。
まず綹羅は、昨日一昨日で一体何が起きたのかを説明する。
「環さんが誘拐されたんだ、間違いない! 神通力者が何人かシャイニングアイランドにいて、そこでさらわれた…。俺は止められなかった…!」
その無念さは、泰三たちにも痛いほどわかる。
「気に病むな、綹羅…。お前は普通の人なんだ、神通力者が相手じゃ敵うはずがない。寧ろ無事に戻って来れたのが驚きだ…」
泰三はそう言い、綹羅を慰める。
一方で陵湖は、
「やっぱりね。怪しいと思ってたんだよあそこは」
と言う。
「どういう意味だ、陵湖?」
「噂を聞いたことがあるんだ。シャイニングアイランドに行った子供はごくまれに、行方不明になるって。それも決まって十五歳以下の子供だけ。何も無いと考える方が無理ね」
彼女は疑いを持っていた。シャイニングアイランドのフレアパスの怪しさ。どうして十五歳以下という中途半端な制限があるのか。そして、
「多分、拉致した子供を使って何か悪だくみをしてるんだよ!」
「ねえ陵湖、どうしてそんなに自信満々なの?」
絢嘉が聞いた。にわかには信じられない話を陵湖が展開しているからだ。
「親戚の友人の話だよ。私からすると完全に赤の他人なんだけど、家族で行って、子供だけがいなくなったって。今も見つかってないんだ、その子。だから私の一族は、絶対にシャイニングアイランドには行かないって決めてる」
それがどれほどの説得力を持っているかは、不明だ。だが環が『歌の守護者』という謎の集団にさらわれたこともあってか、彼らは無関係な噂話と切り捨てることができない。
「くっそー! 俺のせいで!」
綹羅は悔しさのあまり、机をドンと叩いた。その時、信じがたいことが起きる。
なんと綹羅の触れた机から、植物の根やつるが伸び始めた。
「うわっ! 何だこりゃ!」
叩いた本人が驚いて、転げ落ちた。
「もしや……神通力か?」
泰三は言う。そして推測する。環と長時間一緒にいたために、神通力が綹羅にも生じたのではないかと。それが正しい話かどうかは、ここではわからない。神通力は完全に後天的で、発現するキッカケすらわかっていないからだ。
「これが、神通力なのか…? じゃあ俺は、神通力者…?」
まだ信じられない様子の綹羅。当然だ。ある日突然目覚めたから、そうだ…と言われてすぐに受け入れられる人間はいない。
「決まりだな…。ならシャイニングアイランドに行って、その謎集団とドンパチして環を取り戻そうぜ!」
勇宇が言った。
「できるか? ここの人数だけで?」
綹羅を入れても六人にしかならない。そんな少人数で、どのくらいの規模かわかっていない相手に喧嘩を売る。無謀すぎる。だから泰三は慎重に考えようとする。
だが、綹羅は賛成する。
「そうだ、環さんを取り戻さないと! ここで腐ってるよりも行動した方がいいぜ!」
守れなかった責任感もあるのだろう。そしてたった今自分が神通力者であることがわかった故に見えた希望が、背中を押す。
「綹羅が行くなら私は賛成よ!」
元からシャイニングアイランドに良い考えを持っていない陵湖も賛同。それにつられて、
「じゃあ、絢嘉も行こうかな~」
呑気なことを絢嘉は言った。美織も無言で頷き、否定はしない。
「そうか…。ならば行くしかあるまい!」
泰三も、ここで反対意見を言うほど馬鹿ではない。
「だが、変に思いあがるなよ綹羅…。俺はお前の悔しさなんぞどうでもいい。が! 幼馴染を誘拐するような輩が許せんだけだ!」
六人は意を決した。疑念が確信に変わったため、同級生を救うため、幼馴染を救うため、そして守れなかったという思いを打破し、大切な人を取り戻すため…。それぞれが戦うに十分な理由を持っている。
突然、教室のドアが開いた。
「おや?」
話を聞いていたのか、同級生が入って来て、
「その話、私たちも混ぜて!」
と言う。それは百深だ。彼女は果叶の親友で、その果叶もいる。後ろには遥と直希も。
「おいおい、お前たちパンピーには無理だぞ?」
「そうじゃないと言ったら?」
遥はそう言うと、前に出た。彼は、いや彼らは何か自信があるようだ。
「もしかして、神通力者……なのか?」
コクンと頷く百深。
「その通り! だから協力できるわよ! 私たちを合わせれば、十人になる。十分だと思わない?」
泰三は指を顎に当てて考え込む。
(確かに百深の言う通りか…? 相手は何人いるか、神通力は何なのかが今のところ不明瞭…。ならばこちらも頭数を増やして抵抗するべき、か…)
そして、
「わかった。お前らも来い」
心地よく迎え入れる。同じ学校にまだ神通力者がいることに一々驚いていては、何も始まらない。それにそこら辺の赤の他人よりも同級生なら、信用できる。
「……はあ、最悪ね…」
ここで初めて、美織が口を開いた。
「何だよ、美織…。僕がいたら嫌だって言うのかい? それは酷いなあ~。僕と君は、同じ中学で学んだ仲じゃないか。まぁあまり関係は発展しなかったけどさ、それは全部僕のせいだって言うの? いくら何でもそれは、見過ごすことも聞き流すこともできないね…」
美織と直希は、高校に入る前の時点でお互いのことを知っている。だがこの時の美織の態度から察するに、あまり良い仲ではないらしい。
「そんなこと気にしてる場合じゃねえだろ! 早くその…誰だっけ?」
「環、ですよ遥…」
「そ、そうだ! 取り返そうぜ!」
十人は、もう一度改めて意思表示をする。もし行きたくない人がいるならば、無理は言わせない。しかし誰も下りようとしない。
そして、この日の内にシャイニングアイランドに向かう。
「お、おっす…」
教室にいたのは、泰三だけではない。勇宇や絢嘉、美織、そして違うクラスの
「早いな綹羅! 俺の方でメンバーを集めておいた」
「というと?」
ここにいる五人は全員、神通力者であるということだ。
まず綹羅は、昨日一昨日で一体何が起きたのかを説明する。
「環さんが誘拐されたんだ、間違いない! 神通力者が何人かシャイニングアイランドにいて、そこでさらわれた…。俺は止められなかった…!」
その無念さは、泰三たちにも痛いほどわかる。
「気に病むな、綹羅…。お前は普通の人なんだ、神通力者が相手じゃ敵うはずがない。寧ろ無事に戻って来れたのが驚きだ…」
泰三はそう言い、綹羅を慰める。
一方で陵湖は、
「やっぱりね。怪しいと思ってたんだよあそこは」
と言う。
「どういう意味だ、陵湖?」
「噂を聞いたことがあるんだ。シャイニングアイランドに行った子供はごくまれに、行方不明になるって。それも決まって十五歳以下の子供だけ。何も無いと考える方が無理ね」
彼女は疑いを持っていた。シャイニングアイランドのフレアパスの怪しさ。どうして十五歳以下という中途半端な制限があるのか。そして、
「多分、拉致した子供を使って何か悪だくみをしてるんだよ!」
「ねえ陵湖、どうしてそんなに自信満々なの?」
絢嘉が聞いた。にわかには信じられない話を陵湖が展開しているからだ。
「親戚の友人の話だよ。私からすると完全に赤の他人なんだけど、家族で行って、子供だけがいなくなったって。今も見つかってないんだ、その子。だから私の一族は、絶対にシャイニングアイランドには行かないって決めてる」
それがどれほどの説得力を持っているかは、不明だ。だが環が『歌の守護者』という謎の集団にさらわれたこともあってか、彼らは無関係な噂話と切り捨てることができない。
「くっそー! 俺のせいで!」
綹羅は悔しさのあまり、机をドンと叩いた。その時、信じがたいことが起きる。
なんと綹羅の触れた机から、植物の根やつるが伸び始めた。
「うわっ! 何だこりゃ!」
叩いた本人が驚いて、転げ落ちた。
「もしや……神通力か?」
泰三は言う。そして推測する。環と長時間一緒にいたために、神通力が綹羅にも生じたのではないかと。それが正しい話かどうかは、ここではわからない。神通力は完全に後天的で、発現するキッカケすらわかっていないからだ。
「これが、神通力なのか…? じゃあ俺は、神通力者…?」
まだ信じられない様子の綹羅。当然だ。ある日突然目覚めたから、そうだ…と言われてすぐに受け入れられる人間はいない。
「決まりだな…。ならシャイニングアイランドに行って、その謎集団とドンパチして環を取り戻そうぜ!」
勇宇が言った。
「できるか? ここの人数だけで?」
綹羅を入れても六人にしかならない。そんな少人数で、どのくらいの規模かわかっていない相手に喧嘩を売る。無謀すぎる。だから泰三は慎重に考えようとする。
だが、綹羅は賛成する。
「そうだ、環さんを取り戻さないと! ここで腐ってるよりも行動した方がいいぜ!」
守れなかった責任感もあるのだろう。そしてたった今自分が神通力者であることがわかった故に見えた希望が、背中を押す。
「綹羅が行くなら私は賛成よ!」
元からシャイニングアイランドに良い考えを持っていない陵湖も賛同。それにつられて、
「じゃあ、絢嘉も行こうかな~」
呑気なことを絢嘉は言った。美織も無言で頷き、否定はしない。
「そうか…。ならば行くしかあるまい!」
泰三も、ここで反対意見を言うほど馬鹿ではない。
「だが、変に思いあがるなよ綹羅…。俺はお前の悔しさなんぞどうでもいい。が! 幼馴染を誘拐するような輩が許せんだけだ!」
六人は意を決した。疑念が確信に変わったため、同級生を救うため、幼馴染を救うため、そして守れなかったという思いを打破し、大切な人を取り戻すため…。それぞれが戦うに十分な理由を持っている。
突然、教室のドアが開いた。
「おや?」
話を聞いていたのか、同級生が入って来て、
「その話、私たちも混ぜて!」
と言う。それは百深だ。彼女は果叶の親友で、その果叶もいる。後ろには遥と直希も。
「おいおい、お前たちパンピーには無理だぞ?」
「そうじゃないと言ったら?」
遥はそう言うと、前に出た。彼は、いや彼らは何か自信があるようだ。
「もしかして、神通力者……なのか?」
コクンと頷く百深。
「その通り! だから協力できるわよ! 私たちを合わせれば、十人になる。十分だと思わない?」
泰三は指を顎に当てて考え込む。
(確かに百深の言う通りか…? 相手は何人いるか、神通力は何なのかが今のところ不明瞭…。ならばこちらも頭数を増やして抵抗するべき、か…)
そして、
「わかった。お前らも来い」
心地よく迎え入れる。同じ学校にまだ神通力者がいることに一々驚いていては、何も始まらない。それにそこら辺の赤の他人よりも同級生なら、信用できる。
「……はあ、最悪ね…」
ここで初めて、美織が口を開いた。
「何だよ、美織…。僕がいたら嫌だって言うのかい? それは酷いなあ~。僕と君は、同じ中学で学んだ仲じゃないか。まぁあまり関係は発展しなかったけどさ、それは全部僕のせいだって言うの? いくら何でもそれは、見過ごすことも聞き流すこともできないね…」
美織と直希は、高校に入る前の時点でお互いのことを知っている。だがこの時の美織の態度から察するに、あまり良い仲ではないらしい。
「そんなこと気にしてる場合じゃねえだろ! 早くその…誰だっけ?」
「環、ですよ遥…」
「そ、そうだ! 取り返そうぜ!」
十人は、もう一度改めて意思表示をする。もし行きたくない人がいるならば、無理は言わせない。しかし誰も下りようとしない。
そして、この日の内にシャイニングアイランドに向かう。