その④

文字数 2,680文字

 その少し離れた地点では、美織たちの戦いが始まっていた。

「私がアイツに神通力を使わせる。絢嘉はそれを見て、探って」

 美織が囮を買って出た。予め陵湖から受け取っておいたエアガンをテイアに向け、発砲すると同時に神通力を発揮。

「回避」

 しかしそれを信じられない反応速度で避けるテイア。目で追える動きではなかったはずである。

(予知系の神通力? でも違うかな…)

 最初に抱いた発想を絢嘉は自分で否定した。

(もし未来がわかるって言うなら、二対一になることだってわかるはず。改まって言う必要なんてない!)

 まだ観察が足りない。そう思った絢嘉は見の姿勢を崩さない。

「避けるとはね、驚きよ…」

 もう一度同じことをしたが、またテイアにかわされるのだ。三度目は発砲せずにエアガン自体を射出した。しかしこれも当たらない。

「素早い、では片付けられないわね…。何かしらカラクリがあるはず!」

 手元の武器がなくなったのを見ると、今度は自分の番だと言わんばかりにテイアが迫ってくる。そして美織に向けて手を伸ばした。

「攻撃…」

 その動きは速いものの、逃げられないほどではない。後ろに飛んで逃れる美織。

(手を伸ばしたってことは……直接触って作用させる神通力なのかな?)

 そういう発想は間違いではない。現にテイアの相棒のニビルは、触っている物にしか作用しない神通力だ。仲間のテイアだって同じ条件があっても不思議ではないのだ。だがこれでは、先ほどの反射神経の説明ができない。

「絢嘉、どう?」
「まだちょっと! もう少しで見えてくるかも…」

 わかったと答える代わりに首を振って美織は返事をした。借りていたエアガンは一丁だけではない。懐からさらに二丁取り出し、二つともテイアに向ける。

(同時に避けられる…?)

 普通は不可能だろう。だがそれを可能にしてしまうテイア。数発撃ち込まれたが、全て避ける。これには美織も驚きを隠せない。

「今度ハコチラノ攻撃…」

 そう言ったが、彼は手を美織ではなく地面に向け、手を広げて突いた。すると地面に電流が走った。

「こ、これが?」

 それがテイアの神通力の正体だった。自分の体で電気を作り出せ、それを自在に操れるのだ。だが、自分が触れている物にしか電気を流せないという条件付きだ。今、テイアは地面に触れているので、そこに電気を流しているのだ。そして器用に美織にそれが向かう。

「マズいわ…」

 近くに遮蔽物がない。だから美織は焦った。エアガンの弾で抵抗できる相手ではないのだ。
 その時、煙が二人を飲み込んだ。

「異常事態発生! 異常事態発生!」

 何が起きているのかわからず、焦るテイア。一方の美織にはこれが一体何なのかわかっていた。

「良いところで助けに来てくれたわね、絢嘉…」
「見てられないよ、あんなの出されたら!」

 もちろんこれは絢嘉の仕業である。彼女の神通力がテイアに隙を作らせたのだ。

「で、答え合わせしようよ」
「何を言っているの? アイツの神通力は電気。それで決まり……」
「じゃあさっきの動きは何? あれはいくら神通力者であってもできないよ?」

 それは、自分の神通力を一番理解している美織が一番わかっている。彼女の神通力で物を射出したら、凄まじいスピードが出るのでまず避けられないのだ。だがそれを可能にしたテイアには、まだ何か隠されているはず。絢嘉はそう直感する。

「電気…。アイツがロボットだからとか?」
「それはないよ! 人じゃないと神通力者になり得ない! それに今の科学力で、美織の神通力よりも速く動けるロボットが作れる?」
「うーん……。電気の速度を上げても無理ね」
「待って、それじゃない?」

 急に絢嘉が閃いた。どういうことかを聞いてみると、

「人間の神経って、電気がどうのこうのって教科書に書かれてた! アイツはその神経電位をいじれたとしたら?」
「通常よりも速く伝達させているってこと?」

 活動電位の速さが違う。そう考えると確かに、

「そうね…。電気に関する神通力を持っているなら不可能ではなさそう。確かに活性電位の伝わる速さが他人よりも数十倍速かったら、避けられるかもしれないわ」

 美織はそれで納得した。

「では、どうやって倒す? 後はそれだけよ…」
「絢嘉に任せて!」

 ここでバトンタッチしようという提案。

「でも、アイツが二度も同じ手に引っかかるとは思えないわ」
「だけど美織じゃ勝てないじゃん? ここは絢嘉の番だよ!」

 結局美織が折れ、絢嘉に譲ることにした。

「さあテイアとか何とか! 絢嘉が相手だよ!」

 煙が晴れると同時に姿を現したのは、絢嘉である。美織は離れたところに立っている。

「戦闘相手ノ交代ヲ確認。引キ続キ戦闘ヲ行ウ…」

 既に神通力の内容が発覚しているテイアは容赦しない。手を広げて絢嘉に突撃する。それを絢嘉は煙をまき散らし、視界を遮る。それでもテイアは止まらない。その安全か危険かもわからない煙に自ら入っていくのだ。

「…?」

 手応えがないことに彼は気づいた。触れられる距離だったのに、避けられているのだ。

「目標、消失…?」

 じたばたと動いてみるが、それでも何にも当たらない。

「危険!」

 ここでとっさに彼は上を向いた。相手はジャンプして上に逃げた、上から襲って来るに違いない。そう思ったのだ。頭上まで煙に覆われているが、少しでも絢嘉の姿が目に入ったら叩ける。

「とりゃああ!」

 しかし、実際は逆。絢嘉はしゃがんでいたのだ。テイアの足を掴むと、

「これで良し!」

 と言った。

「目標、発見! コレヨリ破壊スル…!」

 テイアが絢嘉に触れ、そして電気を流し込もうとした。

「……?」

 だが、絢嘉は痺れている様子を全く見せないのだ。テイアには何が起きているのか理解できていない。
 煙が晴れると、美織がその姿を狙っていた。

「なるほど、流し込まれる電気をそのままアイツに返してしまうのね。きっと自分の電気では痺れないんだろうけど、そのせいでどうして通じないのかがわからない」

 そして注意が下に行っている彼のことを美織が狙っていることなど知る由もない。

「終わりよ…」

 撃ち出されたエアガンの弾はテイアの額に当たると、一発で彼の意識を撃ち抜いた。

「……」

 無言でその場に倒れたテイア。それをニビルは見ていた。
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