その③
文字数 4,026文字
シャイニングアイランドは広い。地下には施設があり、そこで人が働いているのではないかという話もある。もちろんこれはただの都市伝説であり、信じている人は多くはないだろう。
「探すっても、どこを?」
綹羅がぼやいた。事務局に聞いても環のことははぐらかされて終わりだ。それに人を軟禁できそうな場所は、言ってしまえばあるが、それが多すぎる。
「環とは、どこではぐれたんだ?」
「動物園の牧場広場だ」
「じゃあ、そこに行けばいいじゃん!」
「馬鹿言わないでよ絢嘉…。いつまでもその辺にうろついてるわけないでしょ! 迷子じゃないんだから!」
その時、園内に放送が響き渡る。
「ご来場の皆様、良いお知らせがあります! サプライズパレードを開催いたします! 場所は憩いの広場です! 是非、ご覧になってください!」
その放送を聞いた多くの客は、すぐに移動を開始する。さっきまで混雑していたアトラクションコーナーだが、すぐに人が疎らになる。
「まるで、何かを始めようとしている様子だな…」
勇宇が呟いた。確かに今なら、目立つ行為もできるだろう。
「あ、アイツは!」
急に綹羅が大きな声を出した。
「どうした?」
「見たことのある顔だ、アイツは! えっと確か……ボサノバ?」
視線の先の少女は、ボサノバで間違いない。天気を変える神通力を持つ者。憩いの広場で遭遇したその顔を、綹羅は覚えていた。
「もしかして!」
急に目を閉じる綹羅。それを見ていた陵湖は、何をやっている、と怒鳴ったが、
「目を瞑らないと見えないノクターンとかいうヤツもいるんだ! ソイツが近くに来てたら……」
そのまま三百六十度回転したが、それらしき人物はいない。安心して綹羅は目を開く。
目の前の光景は、少し変わっていた。
「面白い面白い、私の力を見せてあげようではないか…! お客さんお客さん、舐めていると死ぬぞ?」
ボサノバは完全にやる気であり、既に分厚い雲が上空を漂っている。
「フンっ! ここは一思いに俺が…」
そう言って前に出ようとした泰三を、綹羅は手で制した。
「いいや、俺がやるぜ! さっきから行き場のない衝動と責任感が、ウザったらしく心の中でぐるぐる回ってんだ!」
「ならば一緒にやるか?」
「それもいい! ここは俺一人で何とかする、いや、してみせる!」
綹羅は勇敢な戦意を見せた。自分の神通力がどこまで相手に通じるか、そして自分はどこまで行けるのか…。それを見極めたいのだ。その相手が神通力の内容を前もって把握できているボサノバであるなら、なお良い。
「綹羅、気をつけてね…。絢嘉、心配だよ…!」
「大丈夫よ絢嘉。綹羅は負けない」
陵湖はそう言いながら、絢嘉の頭を撫でた。
「でも、神通力者になったばかりだよ?」
絢嘉の心配の種はそれだ。
「もし綹羅がここで負けるようなヤツだったら、そもそも神通力者になれてないわ! 彼が神通力者になったのには理由がある! それは、環を取り返すため!」
その心配を、陵湖は自信を持って打ち砕いた。
「おやおや? 一人で戦う気かい? しかもしかも、見たことのある顔…」
ボサノバも綹羅の顔を見て思い出した。
(環の金魚のフンに負ける私ではない!)
相手も自信満々。両者は睨み合う。
「まもなく、パレードが始まります!」
その園内アナウンスが流れた瞬間、それを合図に二人は動き出した。
(速い…!)
それは二人とも、同時に思った。綹羅は今までの自分では出せない初速度で駆けれたことに、ボサノバは目の前の人物が通常ではあり得ないスピードを出したことに、それぞれ驚いたのである。神通力者共通の、身体能力の向上。それが綹羅により素早い移動を可能にしたのだ。
「だがだが! 私の神通力を使えば…!」
ボサノバも前に出ようとした、その時だ。突然足が何かに引っかかり、転んだ。
「どわどわっ! 一体なんだ?」
足元には、植物が生えている。しかも輪っかを作っており、彼女の足を引っかけているのだ。これでボサノバは転んだ。
「ええええ? こんなところに雑草が生えてるわけ! ない!」
そうだ。ここは整備が行き届いた園内。植物は生える前に除去されるはず。
「どうだ! その自信を転がしてやったぜ!」
綹羅が神通力を使ったのだ。それでボサノバの足元に植物を根付かせ、緑色の罠を瞬時に作ったのである。
彼の行為は通常、それほど驚くに値しない。神通力者がその力を使うことは当たり前で、使いこなせない方がおかしいのである。だが、彼はつい最近まで普通の人だった。それなのに、いきなり実戦で神通力を応用して見せたのだ。何というセンスだろうか。彼にはおそらく、神通力者としての才能があるのだ。
出遅れたボサノバは体勢を整えようと、まず起き上がる。だが、地面から伸びてきたつるに腕を取られ、立ち上がれない。
「このこの! コイツ、この前は一般人だったくせに! どうして神通力が?」
「知らないぜ! でも、環さんのために使わせてもらう!」
綹羅が地面に手を突いた。するとそこから植物が一気に生え広がり、あっという間に茂みに変わっていく。
「でもでも、何をしても私の上を行くことはない! 天気を変えればお前なんて私の敵じゃないんだ!」
ボサノバも神通力を使う。突然雨が降り始めた。しかも激しい。しかし綹羅も怯まない。
「あの神通力は…」
冷静に相手を分析する。
(アイツの神通力は天気を変えること。環さんは雲を散らせたけれど、俺に同じことはできない。だとしたら、本人を直接叩く! それが一番手っ取り早い攻略法だ!)
けれどもその作戦には危険も伴う。
(来い来い! 来たらそれで最後だ、間抜け!)
ボサノバは、降り注ぐ雨で綹羅を撃退できるとは思っていない。彼女の真の目的は、雷だ。天気を雨に変え、いつでも落雷できる状態にする。相手が濡れているならなお良い。さらに、前に顔を合わせた時は使えなかった戦法ゆえに、綹羅が途中でそれに気づく可能性も低い。
「フンフン!」
強引に腕を引っ張ると、巻き付いていたつるは千切れた。だが、すぐに新しいつるが生えてきて、今度は胴体に巻き付く。
「逃がさないぜ、ボサノバ!」
綹羅が迫る。
(ちっちっちっち、逃げるつもりはないんだよ、はじめから!)
落雷の制度はあまり高いとは言えない。しかし、それを必中で当てる方法がボサノバにはある。
それは、自分に落とすことだ。自分になら絶対に間違わずに落とせるし、彼女の神通力は、自分は変えた天気の悪影響を受けない。だから雷に打たれるのは、綹羅だけ。
「うおおお!」
動けないボサノバに、綹羅は突っ込む。
(よしよし! 今がチャ……)
だが、突然綹羅は止まった。
「どうしたどうした? 何故来ない?」
ボサノバの頬に、嫌な汗が流れ出る。
(まさかまさか、気づいた…のか?)
しかし、違った。
「あっれ、おかしいなぁ…」
綹羅は彼自身で、何か思うところがあったようだ。
「何が何がおかしい?」
「いやあ、個人的な疑問なんだ……。俺の神通力、どうやらまだ発展途上みたいでさ、思ったような植物が生み出せないんだよ。キメラ? それはどうやら不可能らしいんだ」
彼は、より強靭な植物を使おうとしていたのだ。だが、それらはイメージできても生まれない。自分で自分の神通力の仕様を、まだ完全に理解できていない。
そう綹羅が語っている時、ボサノバの側である植物が芽吹き、急成長した。
「だったら、こっちで解決するか!」
それは、ウツボカズラ。大きくて丸い捕虫袋がボサノバの目の前で育つ。
「自由に動かせるからな。くらえ!」
突然、捕虫袋が動いてその袋の中の消化液が、ボサノバの目にかかった。
「うわあうわあ!」
この消化液で失明することはないだろうが、大きな隙が生じてしまう。
「今だ!」
さらに大きなつるを地面から生み出すと綹羅は、それでボサノバの体を持ち上げ、放り投げさせた。
「ぶえええ!」
地面を転がるボサノバ。今度は完全に、倒れこんだ姿勢のまま植物に拘束される。
「どうだ?」
「いやいや、まだだ…」
勝敗が決したかに思える状況だが、それでもボサノバは悪足搔きに出る。
瞬間、上空の黒い雲が瞬いた。そして轟音が聞こえるよりも先に稲妻が園内に落ちた。
「どど、どうだ…?」
もし直撃させられたのなら、綹羅は命を失うまではいかなくとも、意識は飛ぶはず。そうなれば神通力は自動的に解かれる。ボサノバはそれを期待して動こうとしたが、植物のつるは力を保っている。
「何だ今の…? 雷か…! 危なかった……」
惜しいことに、雷は外れた。それは綹羅の近くに落ちたのだ。地面が煙を出している。
「クソクソ! 外すなんて!」
悔しさでボサノバは唇を噛んだ。そもそも振り回されて投げ飛ばされた時点で、綹羅の正確な場所を把握できていないのだ。近くに落とせただけでも奇跡に近い。
「侮ってはいけないらしいな、お前の神通力…! すごいモンだぜ!」
そう言って、綹羅は距離を保った。聞きたいことがあるので、ボサノバにトドメは加えない。だが、急に晴れた。
「もしや…!」
そのまさか。ボサノバは勝負を完全に諦めてしまい、意識を失った。綹羅は彼女の体を開放してやったが、何度耳元で叫んで頬を叩いても、目を開けない。
「くっそー! コイツなら環さんがどこにいるのか知ってそうだったのに……。って、あれ? みんなどこ行った?」
そして気がつく。周りに仲間がいないことに。
「探すっても、どこを?」
綹羅がぼやいた。事務局に聞いても環のことははぐらかされて終わりだ。それに人を軟禁できそうな場所は、言ってしまえばあるが、それが多すぎる。
「環とは、どこではぐれたんだ?」
「動物園の牧場広場だ」
「じゃあ、そこに行けばいいじゃん!」
「馬鹿言わないでよ絢嘉…。いつまでもその辺にうろついてるわけないでしょ! 迷子じゃないんだから!」
その時、園内に放送が響き渡る。
「ご来場の皆様、良いお知らせがあります! サプライズパレードを開催いたします! 場所は憩いの広場です! 是非、ご覧になってください!」
その放送を聞いた多くの客は、すぐに移動を開始する。さっきまで混雑していたアトラクションコーナーだが、すぐに人が疎らになる。
「まるで、何かを始めようとしている様子だな…」
勇宇が呟いた。確かに今なら、目立つ行為もできるだろう。
「あ、アイツは!」
急に綹羅が大きな声を出した。
「どうした?」
「見たことのある顔だ、アイツは! えっと確か……ボサノバ?」
視線の先の少女は、ボサノバで間違いない。天気を変える神通力を持つ者。憩いの広場で遭遇したその顔を、綹羅は覚えていた。
「もしかして!」
急に目を閉じる綹羅。それを見ていた陵湖は、何をやっている、と怒鳴ったが、
「目を瞑らないと見えないノクターンとかいうヤツもいるんだ! ソイツが近くに来てたら……」
そのまま三百六十度回転したが、それらしき人物はいない。安心して綹羅は目を開く。
目の前の光景は、少し変わっていた。
「面白い面白い、私の力を見せてあげようではないか…! お客さんお客さん、舐めていると死ぬぞ?」
ボサノバは完全にやる気であり、既に分厚い雲が上空を漂っている。
「フンっ! ここは一思いに俺が…」
そう言って前に出ようとした泰三を、綹羅は手で制した。
「いいや、俺がやるぜ! さっきから行き場のない衝動と責任感が、ウザったらしく心の中でぐるぐる回ってんだ!」
「ならば一緒にやるか?」
「それもいい! ここは俺一人で何とかする、いや、してみせる!」
綹羅は勇敢な戦意を見せた。自分の神通力がどこまで相手に通じるか、そして自分はどこまで行けるのか…。それを見極めたいのだ。その相手が神通力の内容を前もって把握できているボサノバであるなら、なお良い。
「綹羅、気をつけてね…。絢嘉、心配だよ…!」
「大丈夫よ絢嘉。綹羅は負けない」
陵湖はそう言いながら、絢嘉の頭を撫でた。
「でも、神通力者になったばかりだよ?」
絢嘉の心配の種はそれだ。
「もし綹羅がここで負けるようなヤツだったら、そもそも神通力者になれてないわ! 彼が神通力者になったのには理由がある! それは、環を取り返すため!」
その心配を、陵湖は自信を持って打ち砕いた。
「おやおや? 一人で戦う気かい? しかもしかも、見たことのある顔…」
ボサノバも綹羅の顔を見て思い出した。
(環の金魚のフンに負ける私ではない!)
相手も自信満々。両者は睨み合う。
「まもなく、パレードが始まります!」
その園内アナウンスが流れた瞬間、それを合図に二人は動き出した。
(速い…!)
それは二人とも、同時に思った。綹羅は今までの自分では出せない初速度で駆けれたことに、ボサノバは目の前の人物が通常ではあり得ないスピードを出したことに、それぞれ驚いたのである。神通力者共通の、身体能力の向上。それが綹羅により素早い移動を可能にしたのだ。
「だがだが! 私の神通力を使えば…!」
ボサノバも前に出ようとした、その時だ。突然足が何かに引っかかり、転んだ。
「どわどわっ! 一体なんだ?」
足元には、植物が生えている。しかも輪っかを作っており、彼女の足を引っかけているのだ。これでボサノバは転んだ。
「ええええ? こんなところに雑草が生えてるわけ! ない!」
そうだ。ここは整備が行き届いた園内。植物は生える前に除去されるはず。
「どうだ! その自信を転がしてやったぜ!」
綹羅が神通力を使ったのだ。それでボサノバの足元に植物を根付かせ、緑色の罠を瞬時に作ったのである。
彼の行為は通常、それほど驚くに値しない。神通力者がその力を使うことは当たり前で、使いこなせない方がおかしいのである。だが、彼はつい最近まで普通の人だった。それなのに、いきなり実戦で神通力を応用して見せたのだ。何というセンスだろうか。彼にはおそらく、神通力者としての才能があるのだ。
出遅れたボサノバは体勢を整えようと、まず起き上がる。だが、地面から伸びてきたつるに腕を取られ、立ち上がれない。
「このこの! コイツ、この前は一般人だったくせに! どうして神通力が?」
「知らないぜ! でも、環さんのために使わせてもらう!」
綹羅が地面に手を突いた。するとそこから植物が一気に生え広がり、あっという間に茂みに変わっていく。
「でもでも、何をしても私の上を行くことはない! 天気を変えればお前なんて私の敵じゃないんだ!」
ボサノバも神通力を使う。突然雨が降り始めた。しかも激しい。しかし綹羅も怯まない。
「あの神通力は…」
冷静に相手を分析する。
(アイツの神通力は天気を変えること。環さんは雲を散らせたけれど、俺に同じことはできない。だとしたら、本人を直接叩く! それが一番手っ取り早い攻略法だ!)
けれどもその作戦には危険も伴う。
(来い来い! 来たらそれで最後だ、間抜け!)
ボサノバは、降り注ぐ雨で綹羅を撃退できるとは思っていない。彼女の真の目的は、雷だ。天気を雨に変え、いつでも落雷できる状態にする。相手が濡れているならなお良い。さらに、前に顔を合わせた時は使えなかった戦法ゆえに、綹羅が途中でそれに気づく可能性も低い。
「フンフン!」
強引に腕を引っ張ると、巻き付いていたつるは千切れた。だが、すぐに新しいつるが生えてきて、今度は胴体に巻き付く。
「逃がさないぜ、ボサノバ!」
綹羅が迫る。
(ちっちっちっち、逃げるつもりはないんだよ、はじめから!)
落雷の制度はあまり高いとは言えない。しかし、それを必中で当てる方法がボサノバにはある。
それは、自分に落とすことだ。自分になら絶対に間違わずに落とせるし、彼女の神通力は、自分は変えた天気の悪影響を受けない。だから雷に打たれるのは、綹羅だけ。
「うおおお!」
動けないボサノバに、綹羅は突っ込む。
(よしよし! 今がチャ……)
だが、突然綹羅は止まった。
「どうしたどうした? 何故来ない?」
ボサノバの頬に、嫌な汗が流れ出る。
(まさかまさか、気づいた…のか?)
しかし、違った。
「あっれ、おかしいなぁ…」
綹羅は彼自身で、何か思うところがあったようだ。
「何が何がおかしい?」
「いやあ、個人的な疑問なんだ……。俺の神通力、どうやらまだ発展途上みたいでさ、思ったような植物が生み出せないんだよ。キメラ? それはどうやら不可能らしいんだ」
彼は、より強靭な植物を使おうとしていたのだ。だが、それらはイメージできても生まれない。自分で自分の神通力の仕様を、まだ完全に理解できていない。
そう綹羅が語っている時、ボサノバの側である植物が芽吹き、急成長した。
「だったら、こっちで解決するか!」
それは、ウツボカズラ。大きくて丸い捕虫袋がボサノバの目の前で育つ。
「自由に動かせるからな。くらえ!」
突然、捕虫袋が動いてその袋の中の消化液が、ボサノバの目にかかった。
「うわあうわあ!」
この消化液で失明することはないだろうが、大きな隙が生じてしまう。
「今だ!」
さらに大きなつるを地面から生み出すと綹羅は、それでボサノバの体を持ち上げ、放り投げさせた。
「ぶえええ!」
地面を転がるボサノバ。今度は完全に、倒れこんだ姿勢のまま植物に拘束される。
「どうだ?」
「いやいや、まだだ…」
勝敗が決したかに思える状況だが、それでもボサノバは悪足搔きに出る。
瞬間、上空の黒い雲が瞬いた。そして轟音が聞こえるよりも先に稲妻が園内に落ちた。
「どど、どうだ…?」
もし直撃させられたのなら、綹羅は命を失うまではいかなくとも、意識は飛ぶはず。そうなれば神通力は自動的に解かれる。ボサノバはそれを期待して動こうとしたが、植物のつるは力を保っている。
「何だ今の…? 雷か…! 危なかった……」
惜しいことに、雷は外れた。それは綹羅の近くに落ちたのだ。地面が煙を出している。
「クソクソ! 外すなんて!」
悔しさでボサノバは唇を噛んだ。そもそも振り回されて投げ飛ばされた時点で、綹羅の正確な場所を把握できていないのだ。近くに落とせただけでも奇跡に近い。
「侮ってはいけないらしいな、お前の神通力…! すごいモンだぜ!」
そう言って、綹羅は距離を保った。聞きたいことがあるので、ボサノバにトドメは加えない。だが、急に晴れた。
「もしや…!」
そのまさか。ボサノバは勝負を完全に諦めてしまい、意識を失った。綹羅は彼女の体を開放してやったが、何度耳元で叫んで頬を叩いても、目を開けない。
「くっそー! コイツなら環さんがどこにいるのか知ってそうだったのに……。って、あれ? みんなどこ行った?」
そして気がつく。周りに仲間がいないことに。