その③

文字数 2,283文字

 陵湖たちの目の前に現れたあからさまな人物たちは、彼女らを睨んでいた。

「んっん~。どうやら君たちのようだね、シャイニングアイランドに蔓延っているネズミとやらは? これは面倒なメスが三匹か。まあ私の敵じゃない」

 その男は二人組だ。相棒へ顔を向けると、

「該当データ、ナシ。所属不明ノ神通力者…。シカシ、作戦変更条件ヲ満タシテイナイ。計画ノ実行ヲ求メル…」

 機械のような喋り方をして答える。

「あんたたちが残りの『惑星機巧軍』?」
「おお、そこまで知っているとは驚きだ……。っていうのは冗談冗談。私が君たちの通う学校の体育館を爆破したんだからね。メッセージも添えたんだ、たどり着けてないとは言わせないよ」
「じゃあ、この人が犯人?」

 絢嘉は驚いた。もっと物騒なテロリストが事件を起こしたと思っていたからだ。しかし実際は、このどこにでもいそうな男が犯人。

「私の名は、ニビル。おっと疑うな、これでも『惑星機巧軍』の正式なメンバーさ」
「コードネーム、テイア。『惑星機巧軍』所属ノ神通力者…」

 その二人は簡単に自己紹介をした。彼らは自分たちのコードネームの意味を理解しており、偽のメンバーと疑われる可能性を考慮したのか、自分たちは『惑星機巧軍』だと言う。陵湖らはその発言を今更疑問視したりしない。

「目の前に現れたからには、倒すまで! さあ始めるわよ!」

 そして陵湖から走り出す。

「元気なお嬢さんだな。まあ悪くはない…。が! 良くもない」

 ニビルは構えた。だがそれは陵湖の攻撃を防ぐポーズではない。逆に捕まえようという感じだ。

(すれ違いざまに、スタンガンよ…!)

 別次元からそれを持って来ると、ニビルに向けて突き付けた。だが、

「危ないな~」

 と言われ、簡単に取り上げられてしまう。

「では……私の神通力を紹介しよう」

 ニビルはそのスタンガンに視線を向けた。するとスタンガンはいきなり爆発。

「これが私の神通力だ…。私は掴んだ物を何でも爆破できる。しかも爆発の程度は自由にコントロール可能で、私自身は絶対に巻き込まれない」

 その神通力は恐ろしいものだ。彼はこれを使って、体育館という大きな施設をも爆破したのだ。

「危ないわね…」

 陵湖は一旦絢嘉と美織の元に戻る。

「どうする? 無駄な動きは避けたいわ…」
「アイツに捕まったら、即死だよ? 絢嘉、怖いな…」
「ならあのニビルは私が相手する。テイアの方はそっちで頼める?」
「いいわ…」

 二手に分かれて迎え撃つ戦法だ。

「おや? 決まったのかね? では早速だが、私たちも忙しいのだ、始めよう」

 ニビルと向き合ったのは陵湖。美織と絢嘉はテイアを睨む。

「戦力差、一対二……多少劣勢。コレヨリ戦闘ヲ開始スル」

 不利とわかっていても文句は言わない。それは自信の表れだろうか。

「アイツは掴んでいる物を何でも爆破できる…。接近戦は不利だわ」

 もちろん陵湖は距離を取る。ニビルが得意であろう近距離戦は避け、自分の神通力で有利に立ち回れる物を持ってくればいいのだ。

「ほほ~う。そうやって距離を稼ぐ作戦か…。悪くない」

 一方のニビルは何と、すぐには追わない。

「しかし! 良くもない! 何故なら……!」

 そして地面に手を当て、神通力を使う。地面の舗装が爆ぜる。その爆発は奇妙なものであり、陵湖の足元とニビルの手元を結ぶ直線状のみで生じた。

「こんな器用な奇怪な!」

 陵湖は爆発の直撃こそ避けられたものの、爆風で少し体が浮いた。

「どうだね? 逃げられないことを察したかな? だいいち、私は体育館を丸ごと爆破しているのだよ? その気になればこんな遊園地、一瞬で灰にできる。でもわざわざ君をピンポイントで爆破するよ。だってそうしないと私に報酬が入らないからね」

 ニビルには特に作戦などない。ただ、相手が逃げられないように追い詰め、そして掴むと同時に爆破させるのみ。目標さえ爆ぜれば過程や方法はどうにでもなる。

「でもこれは、どう処理する気よ?」

 ここで陵湖、拳銃をニビルに向けた。流石に殺すつもりはないので、狙うは足。

「それで私に勝ったつもりとは、お笑いだよ」

 彼はこの状況で、余裕の表情を見せる。それが幻想だと思った陵湖は躊躇なく引き金を引いた。
 ニビルの脛で何かが小さく爆発した。

「な? だからそんなものでは勝てないのさ。私に触れた瞬間! 神通力が発動し! それは爆発して消える! その爆風や衝撃は私を絶対に襲わないのだ。フウウウウ~~!」

 その発言は、近づいて殴ったり蹴ったりしても意味がないことも示していた。

「何ですって…?」
「無敵…という言葉があるだろう? 私はね、ある意味当てはまるのさ。最強を自負するつもりはないが……。だって誰かが私に触れようとしても、爆ぜてしまう。これでは敵を作りようがない。だから敵無し……無敵ということなのだよ」

 これには陵湖も困り果てる。あらゆる攻撃が通じないのであれば、戦いようがない。

(どうやってアイツを倒す? 何かしらの弱点はないのかしら…? まずは観察が先ね)

 とにかく、今はまだ勝負を仕掛けるタイミングではない。そう判断した彼女は一定の距離を保ちつつ、ニビルへ飛び道具を飛ばした。

「フフフ…。いつもだ! いつも私に恐怖した人類は、必ず逃げながら悪あがきを行う。君も既に私に対し、白旗を揚げているようなもの…。これはもらった!」
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