その①

文字数 3,037文字

 中東のとある紛争地帯で、彼らは任務に赴いている。まずはテロ組織に高額で武器などを売りつけて戦闘を誘発させる。そして対戦する大義名分を得たら潰しにかかり、残された財産を全て奪い取る。その部隊がしていることは完全なマッチポンプだ。

「………色部の野郎から通信が入った。アースよ、活動中の『惑星機巧軍』を集めろ!」

 彼女は『惑星機巧軍』リーダーのサン。彼女だけは恒星からコードネームを取っている。

「いいのか? まだ仕事の途中だぜ? つってもあの組織一つ潰すのわけないけどなあ」

 アースはこの部隊の要だ。廃材などのゴミから、兵器を生み出せる神通力の持ち主。

「仕方ないだろう? 本部……シャイニングアイランドでどうやら面白いことになっているらしいのだ。戻って来るようにとの命令だ」
「へっ! 僕らをここに寄越したのは、色部のくせに!」

 渋々アースは活動中の仲間の元に行く。
 戦場はそれほど離れてはいない。『惑星機巧軍』が武器を売りつけたテロ組織は今もどこかの軍と交戦中なのだ。

「マイゴッド! これ以上は辛い!」

 軍人が物陰に隠れながら叫んだ。彼の部隊には歩兵しかいないのだが、数十メートル離れたところに戦車が一台。

「誰か対車両兵器を持ってないのか!」
「ありません、インガルス軍曹!」

 戦況は絶望的。たった一台の戦車のせいで、部隊は退かなければいけないのだ。

「どうする…? このままではオブライエン中佐に顔向けができないぞ…」

 インガルス軍曹はスナイパーライフルのスコープを覗いた。戦車の姿がハッキリと見えるのだが、弱点らしい点はなさそうだ。

「んんん?」

 しかし、信じられない光景が、スコープ越しに彼に飛び込んでくる。

 何と、武装もしていない民間人、それも東洋人が数人現れ、戦車を取り囲んだのだ。戦車の乗組員は軍人としてとても優秀なのだろう、突然現れた人物らに驚くことなく冷静に、搭載されている機関銃の銃口を向けて撃った。だが彼らはその一発一発を器用に避ける。
 そして次の瞬間、彼ら…『惑星機巧軍』はその重たい車体を素手でひっくり返したのだ。さらに誰かが戦車に触れると、爆発・炎上。

「何なんだ彼らは…?」

 軍曹は現実から目を背けるように、スコープから目を離した。まるで風邪でも引いた時にうなされるような悪夢を見ているかのようだ。
 今度は肉眼で確認する。すると、彼らの姿はもうない。残されたのはスクラップと化した戦車のみだ。

「……オブライエン中佐に伝えろ、障害が消えた! これより前進する。一応、民間人を見かけたら保護するように…」

 軍曹は部隊に命令を出した。そして自身も安全を確保しながら進む。


「……はっ!」

 環は目を覚ました。周りを見ると、どうやら監禁されていた個室ではないらしい。自分の腕に点滴の管が伸びていることがわかると、いよいよシャイニングアイランドの地下であるとは考えにくいのだ。

「目が覚めたみたいね…!」

 既に時刻は次の日の朝。陵湖が目の前に座っている。

「陵湖じゃない! ここ、どこ?」
「ここは、私の父さんが経営するホテルよ。シャイニングアイランドからはちょっと遠いけど、安全な場所」

 それを聞いて、肩を下ろす環。

「他のみんなは、あなたが目を覚ますかどうかをずーっと付きっ切りで見てくれていたのよ? 感謝なさい?」

 隣の部屋で、疲れてしまったので泰三たちは寝ている。

「そうなの……。ごめん、全然記憶がなくて……」

 環は『歌の守護者』に捕まり、次の日には解放された。覚えていることは、気がついたら暗い部屋に監禁されていたことだけだ。そして目覚めたら、陵湖の父のホテル。入ってくる情報に、頭が追いつかない。

「そうだ、綹羅君は!」
「…それがね、彼、いや彼らは…」

 陵湖は説明した。綹羅だけではない。百深たちの四人組も、連絡が取れない状態なのだ。

「どうしてか、あなただけが園内に放置されていたの。私たちは何とかあなたを見つけ出せたわ。でも、どうして解放されたのか、そして綹羅たちが今どこにいるのかは、全く見当もつかないの…」

 それを聞いていた環は突然、大声を出す。

「シャイニングアイランドだよ!」

 それにビックリした陵湖が、何故だと聞き返すと、

「きっと、アイツらは私の代わりを見つけたから!」
「……何であなたにわかるのよ?」

 言われてみれば、確かに変な話だ。この時の環は、綹羅が神通力者になったことすら知らない。

「わかる…気がするの! だって私は綹羅君と一緒にシャイニングアイランドに行ったんだよ? 心が通じ合ったっていうか、その、スピリチュアルなバカバカしい話ではあるけど…」

 しかしこれには陵湖も頷く。

「確かに……シャイニングアイランドでいなくなったってことは、そこにいるとしか思えないわね。でも……」

 陵湖は言葉を濁そうとしたが、いいフレーズが見つからなかったので率直に言うことにした。

「正直、シャイニングアイランドにはもう関わらない方がいいと思うわ。これは私個人の考えだけど、あなた一人を救出するのに、こっちは五人も失っているのよ? もう、私たちの出る幕じゃない気がす……」
「そんなわけないよ! 私と綹羅君が始めたことなんだから、私たちが終わらせないと!」

 力強く、環はその考えを否定する。

「ん…何だ、もう朝か……って環! 無事だったのか!」

 泰三が目を擦りながら起きてきた。

「泰三! 泰三ならわかるでしょ!」
「な、何が…?」
「綹羅君の居場所だよ! 絶対にシャイニングアイランドにいる。だとしたら、私たちが救わないと!」

 ここで泰三は責任を感じる。

(そう言えば、デートの場所にシャイニングアイランドをオススメしたのは俺だ…)

 言い出せることではない。だから泰三は、

「そ、そうだな…。俺は行くべきだと思う。だが余計な解釈をするな、俺は環と綹羅の関係なんてどうだって…」

 ここで、勇宇や美織、絢嘉も起きてくる。

「え、何? もう一度シャイニングアイランドに行くのかい?」

 勇宇は話を一部聞いていた。

「勇宇君! 協力してよ! 私は綹羅君を助けたいの!」
「何か、最近聞いたような話だね…。絢嘉の記憶違いかな?」

 絢嘉が言うと、美織はその頭にポンと手を置いて、

「そうじゃないわ、絢嘉。環は綹羅と同じ。全く一緒の発想……」

 と言った。

「じゃあ決まりだね! 行こう、シャイニングアイランドに! って、痛たたた…」

 無理に張り切ったせいか、傷が痛む。

「でもそうなら、あなたはお留守番よ?」

 陵湖が言った。

「えぇ、何で?」
「怪我人と一緒に戦えるって意味! 無理でしょうが!」

 それに環は何も言い返せない。彼女が今優先すべきことは、回復だ。

「でも、ここまで来たらまた行くしかなさそうね……シャイニングアイランドに!」

 しかし、陵湖は考えを変えた。

「じゃあ、行くか!」

 泰三がそう言う。今なら、昨日倒した連中は復活できていないだろうという考えだ。

「気をつけてね…!」
「心配されるまでもない…! 必ず綹羅を連れて戻る、ただそれだけだ…!」

 環の見送りの言葉に、背中を向けたまま泰三はそう返した。
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