その①
文字数 2,500文字
「逃げる……んですか?」
『歌の守護者』のリーダー、プレリュードはにわかには信じがたい言葉を色部から聞いた。
「聞く話によれば……『惑星機巧軍』が既に帰国した。もうそろそろ、最後の戦いが始まるのだ。それにお前たちを巻き込みたくはない。それに、その戦いが勃発したら、シャイニングアイランドは廃園待ったなし! ここは逃げよう、命より大事なものがあるか?」
そう言われると、頷かざるを得ない。プレリュードだけじゃない。この場に居合わせた『歌の守護者』のメンバー全員が、あることを思い出した。
『太陽の眷属』が、全滅した。全員、命を落としたのだ。それはほとんど事故なのだが、言い方によっては綹羅たちが殺したようにも聞こえる。
「命を奪うのに、躊躇しない連中だった」
と思ってしまう。
「でも、逃げるったって……どこにです?」
エレジーが聞くと、
「それは……まだ決めていない。できるだけ財産を持ち出すが、長い間一か所に留まることは難しいだろう。それでも俺と一緒に来てくれ。命令はしない。シャイニングアイランドに残って戦うというのも選択肢の内の一つだからな…」
しかし色部からすると、『歌の守護者』には側にいて欲しいところだ。何故なら色部の神通力は、記憶と引き換えに子供を神通力者に覚醒させるだけ。もしも綹羅たちや第三者に狙われたら、自分の身を守れないのである。
「……行きます、色部様」
『歌の守護者』の意見は、相談することもなく全員一致。皆が色部について行くと誓った。
「ありがたい。では、行くぞ。怪我から回復できていない者は担いで、一刻も早くシャイニングアイランドからおさらばするのだ!」
率先して、色部はボレロに肩を貸した。
「それにしても、恐ろしい小僧だ……。綹羅……たった一人のガキのせいで、シャイニングアイランドは終焉を迎えようとしている………」
次の日シャイニングアイランドの裏側は困惑……しなかった。色部と『歌の守護者』がいなくなったことは計算外ではあったものの、『惑星機巧軍』が到着したからである。
「寧ろいなくて清々するわ! だって邪魔だもの」
そう言ったのは、リーダーのサンだ。自分たちを神通力者にした色部ですら、彼女らは煩わしいとしか思っていない。その異常性が読み取れる発言だ。
『歌の守護者』と取って代わって、管制室に我が物顔で座りそこの空気を吸う彼女ら。そして今田からの命令を待つ。
綹羅たちには、束の間の平穏が訪れていた。
「ふう。この夏休み、毎日シャイニングアイランドに行っている気がするぜ…」
「勘違いじゃないよ。壮絶なバトルだったからね」
綹羅と環は、学校に来ていた。夏休みでも自習室には来てもいい。だからそこで勉強する。
「…これからどうするの?」
美織が聞いてきた。
「どうって…。俺に聞くなよ。もうシャイニングアイランドとの戦いは終わりだろ? 『太陽の眷属』は、まあその、いなくなったし……。『歌の守護者』は全然顔を見せない」
実は彼らは、『太陽の眷属』を倒した後も二、三日連続でシャイニングアイランドに行った。だが『歌の守護者』は現れることがなかったのだ。
「じゃあ、絢嘉たちの勝ちなの?」
「そうなるな…」
この頃には、泰三と勇宇は復帰できていた。彼らは綹羅に、
「心の方は大丈夫なのか?」
と聞こうとしたが、やめた。綹羅の方に記憶がないのなら、言うのは酷。それに、あの時のことを責める気もない。あれは完全にシャイニングアイランドに非がある。
「まあ、シャイニングアイランドの闇を暴くことが目的ではないんだし…今回はこんな感じで終わりって言うのもありね」
陵湖がそう言うと、一同は納得。当初の目的である環の奪還はでき、その後に生じた厄介ごとも、嫌な形にこそなったが解決できた。
だが、まだ終わっていないことを思い知らされるのだった。綹羅は環からかかってきた電話で朝、目が覚めた。
「それは本当か、た、環!」
昨夜未明、何者かが綹羅たちの通う学校の体育館を丸々爆破したのだ。幸いにも、死者は出なかった様子である。
「ほ、本当だよ! 私もさっき知って驚いてるんだけど……」
そして一番興味深いのは、犯行現場に残された一文だ。
「太陽の舞台に来い。そういう文章が残されていたらしいよ…」
一度電話を切って、環は泰三からもらった写真を綹羅に送る。それを確認したらもう一度綹羅は環に電話をかける。
「この、『惑星機巧軍』って何だ? まさかシャイニングアイランドの新手の神通力者集団か?」
「そ、そうかもね…」
そしてある結論にたどり着く。
「真実を知るには、シャイニングアイランドに行くしかないのか!」
そして綹羅はすぐに着替えて、シャイニングアイランドに向かった。入場ゲートの前には既に泰三、勇宇、陵湖、絢嘉、美織が揃っている。
「……後は環だけだな」
泰三がそう言った。今日、この入場ゲート前は酷くこざっぱりしている。
「臨時休園ね……。確かシャイニングアイランドって、年中無休じゃないの?」
突然の休園日の発表だ。台風などの災害を除けば、開園以来一日も休んだことがないのに、今日に限って。これはかなり怪しい。
「おまたせ!」
環が合流したので、一行はいよいよ動く。
園内に入るのは簡単だ。ジャンプでゲートを飛び越える。神通力者ならできて当たり前のこと。
「ひえ~これがあの、シャイニングアイランドか?」
一般客は誰もない。アトラクションも動いていない。完全に静まり返っている園内はまるで廃園のようだ。
「とにかく、『惑星機巧軍』とやらを探そう。どうする泰三? グループに分かれるか?」
「そうだな……。平然と爆破テロをしでかす連中なのなら、警戒するに越したことはない。が、まとまって一気に殲滅されても後悔しか残らん…。ここは分かれて捜索だ」
綹羅は環と、泰三は勇宇と、そして陵湖と絢嘉と美織の三手に分かれる。
『歌の守護者』のリーダー、プレリュードはにわかには信じがたい言葉を色部から聞いた。
「聞く話によれば……『惑星機巧軍』が既に帰国した。もうそろそろ、最後の戦いが始まるのだ。それにお前たちを巻き込みたくはない。それに、その戦いが勃発したら、シャイニングアイランドは廃園待ったなし! ここは逃げよう、命より大事なものがあるか?」
そう言われると、頷かざるを得ない。プレリュードだけじゃない。この場に居合わせた『歌の守護者』のメンバー全員が、あることを思い出した。
『太陽の眷属』が、全滅した。全員、命を落としたのだ。それはほとんど事故なのだが、言い方によっては綹羅たちが殺したようにも聞こえる。
「命を奪うのに、躊躇しない連中だった」
と思ってしまう。
「でも、逃げるったって……どこにです?」
エレジーが聞くと、
「それは……まだ決めていない。できるだけ財産を持ち出すが、長い間一か所に留まることは難しいだろう。それでも俺と一緒に来てくれ。命令はしない。シャイニングアイランドに残って戦うというのも選択肢の内の一つだからな…」
しかし色部からすると、『歌の守護者』には側にいて欲しいところだ。何故なら色部の神通力は、記憶と引き換えに子供を神通力者に覚醒させるだけ。もしも綹羅たちや第三者に狙われたら、自分の身を守れないのである。
「……行きます、色部様」
『歌の守護者』の意見は、相談することもなく全員一致。皆が色部について行くと誓った。
「ありがたい。では、行くぞ。怪我から回復できていない者は担いで、一刻も早くシャイニングアイランドからおさらばするのだ!」
率先して、色部はボレロに肩を貸した。
「それにしても、恐ろしい小僧だ……。綹羅……たった一人のガキのせいで、シャイニングアイランドは終焉を迎えようとしている………」
次の日シャイニングアイランドの裏側は困惑……しなかった。色部と『歌の守護者』がいなくなったことは計算外ではあったものの、『惑星機巧軍』が到着したからである。
「寧ろいなくて清々するわ! だって邪魔だもの」
そう言ったのは、リーダーのサンだ。自分たちを神通力者にした色部ですら、彼女らは煩わしいとしか思っていない。その異常性が読み取れる発言だ。
『歌の守護者』と取って代わって、管制室に我が物顔で座りそこの空気を吸う彼女ら。そして今田からの命令を待つ。
綹羅たちには、束の間の平穏が訪れていた。
「ふう。この夏休み、毎日シャイニングアイランドに行っている気がするぜ…」
「勘違いじゃないよ。壮絶なバトルだったからね」
綹羅と環は、学校に来ていた。夏休みでも自習室には来てもいい。だからそこで勉強する。
「…これからどうするの?」
美織が聞いてきた。
「どうって…。俺に聞くなよ。もうシャイニングアイランドとの戦いは終わりだろ? 『太陽の眷属』は、まあその、いなくなったし……。『歌の守護者』は全然顔を見せない」
実は彼らは、『太陽の眷属』を倒した後も二、三日連続でシャイニングアイランドに行った。だが『歌の守護者』は現れることがなかったのだ。
「じゃあ、絢嘉たちの勝ちなの?」
「そうなるな…」
この頃には、泰三と勇宇は復帰できていた。彼らは綹羅に、
「心の方は大丈夫なのか?」
と聞こうとしたが、やめた。綹羅の方に記憶がないのなら、言うのは酷。それに、あの時のことを責める気もない。あれは完全にシャイニングアイランドに非がある。
「まあ、シャイニングアイランドの闇を暴くことが目的ではないんだし…今回はこんな感じで終わりって言うのもありね」
陵湖がそう言うと、一同は納得。当初の目的である環の奪還はでき、その後に生じた厄介ごとも、嫌な形にこそなったが解決できた。
だが、まだ終わっていないことを思い知らされるのだった。綹羅は環からかかってきた電話で朝、目が覚めた。
「それは本当か、た、環!」
昨夜未明、何者かが綹羅たちの通う学校の体育館を丸々爆破したのだ。幸いにも、死者は出なかった様子である。
「ほ、本当だよ! 私もさっき知って驚いてるんだけど……」
そして一番興味深いのは、犯行現場に残された一文だ。
「太陽の舞台に来い。そういう文章が残されていたらしいよ…」
一度電話を切って、環は泰三からもらった写真を綹羅に送る。それを確認したらもう一度綹羅は環に電話をかける。
「この、『惑星機巧軍』って何だ? まさかシャイニングアイランドの新手の神通力者集団か?」
「そ、そうかもね…」
そしてある結論にたどり着く。
「真実を知るには、シャイニングアイランドに行くしかないのか!」
そして綹羅はすぐに着替えて、シャイニングアイランドに向かった。入場ゲートの前には既に泰三、勇宇、陵湖、絢嘉、美織が揃っている。
「……後は環だけだな」
泰三がそう言った。今日、この入場ゲート前は酷くこざっぱりしている。
「臨時休園ね……。確かシャイニングアイランドって、年中無休じゃないの?」
突然の休園日の発表だ。台風などの災害を除けば、開園以来一日も休んだことがないのに、今日に限って。これはかなり怪しい。
「おまたせ!」
環が合流したので、一行はいよいよ動く。
園内に入るのは簡単だ。ジャンプでゲートを飛び越える。神通力者ならできて当たり前のこと。
「ひえ~これがあの、シャイニングアイランドか?」
一般客は誰もない。アトラクションも動いていない。完全に静まり返っている園内はまるで廃園のようだ。
「とにかく、『惑星機巧軍』とやらを探そう。どうする泰三? グループに分かれるか?」
「そうだな……。平然と爆破テロをしでかす連中なのなら、警戒するに越したことはない。が、まとまって一気に殲滅されても後悔しか残らん…。ここは分かれて捜索だ」
綹羅は環と、泰三は勇宇と、そして陵湖と絢嘉と美織の三手に分かれる。