その④
文字数 2,601文字
泰三と勇宇は会話をしながら園内を歩いていた。
「綹羅には、あの時の記憶はないみたいだが……」
別に今更文句を言いたいのではない。気になることが一つあるのだ。
「その記憶がなければ、キメラ植物は使えないみたいだな」
実はこの数日、彼らは綹羅の神通力を改めて見せてもらっていた。しかしあの日生み出した、この世に存在しない植物は出せない様子なのだ。
「神通力が記憶や精神状態に左右されるのか? それは初耳だぞ?」
「可能性はある。あの時の綹羅は普通じゃなかった。完全に負に染まった心を俺は見た。そんな状態だからこそ為せる業なのかもしれない……」
会話はまだ続きそうだったが、目の前に二人の人物が現れたので途切れた。
「俺はヴィーナス! 『惑星機巧軍』のメンバーだ!」
「僕はムーンと言う。君たちの命を奪いに来た!」
ご丁寧な自己紹介を受けて泰三は、
「惑星と名乗る割には、衛星にちなんだコードネームがあるのか」
「そういう文句は勝ってからにしな!」
「では、そうさせてもらおうか…!」
と言って泰三が前に出ようとしたその瞬間、何者かに足を掴まれた。
「ん……? お、お前は…!」
何と、彼の足を掴んでいるのは直希だ。間違いない、見たことのある顔だからだ。だが彼は、綹羅との戦闘中に死亡したはず。
「困惑してるだろうから最初に教えてやるよ、俺の神通力……それは! 死者を一日限り蘇生させること!」
早く言ってしまえば、死者蘇生だ。ヴィーナスにはそれができる。ただし、四十九が過ぎた人物は蘇らせることは不可能。それに神通力者であっても、それを再現することもできない。死者の国境を越えることも無理だ。ただ頭数を増やすことに特化した神通力。
「でもさ、こういう盤面では死ぬほど役に立つんだよ。死者を蘇らせ! 自らの手駒として使う! 死人なんて毎日腐るほど出てるんだ、資源には何も困らない……!」
得意気になって語るヴィーナスの目の前で、泰三は、
(直希は確かに死んだはず……。となると足元にいるのは、その恰好をした別の何者か! 躊躇っている暇はない!)
水を使って、その手足を切断してやった。
「オオオ…」
さらに胴体に特大の水球を撃ち込む。すると直希の体は弾けた。
「おいおい、仲間にも情けなしかよ? 血も涙もないんだな、お前?」
「コイツは言ってしまえば仲間ではなかった……。それに本人は既に死んでいる。迷う暇などいらん!」
泰三は、裏切ったとはいえ直希のことを乱暴に扱ったヴィーナスに怒りを向けた。
「怖いなあ? じゃああと三人にも同じことができる?」
手を挙げると、地面を割ってその下から百深、遥、果叶が這い出た。
「コイツ……!」
ヴィーナスの狙いは精神攻撃だ。ワザと泰三たちの知人を蘇らせ、攻撃させることで動揺を誘う作戦。
「汚いことをしやがるな…」
勇宇は剣を生み出すと、その体を切り裂いた。最初の果叶は素早く切れたが、次の遥の時は突っかかった。それでも切り倒したのだが、最後の百深の時は明らかにスピードが落ちており、手で挟んで止められてしまった。
「効いてるねえ、お前には」
「卑劣な…ことを!」
「何とでも言ってろ。戦場では勝った方のセリフしか採用されないし、何なら敗者の言葉はいくらでも捏造できる」
冷たく言い捨てられると同時に、勇宇は百深に突き飛ばされた。剣を取り上げられてしまい、かなり焦る。
「勇宇! 俺がこの腐った野郎を仕留める。お前はムーンの方を頼むぞ」
「わ、わかった…!」
代わると同時に、泰三は勢いよく水を噴射して百深の体を引き裂いた。地面に落ちた剣はヴィーナスが拾って、
「お前が俺の相手か? まあ、やってみよう。どこまで非情になり切れるかな…?」
天に掲げると、大勢の死者が蘇る。地獄のようだ。だが泰三はもう驚かない。
「うるさい。死人に口はない!」
水で刃を作ると、死者の首をそれで切り裂く。勇宇とは違い、スピードは全く落ちない。
「おおっと、これは意外だぜ? もっと死者は大切に扱えよ」
「お前が言えたことではないだろう!」
泰三は素早くヴィーナスの前まで進んだ。
(もらった! コイツの神通力は死者を蘇らせることだけ! この攻撃を防ぐ手段はない!)
手に持っている剣は、ウォーターカッターで切れる。だから泰三は出力を最大にして切りかかった。
「な、何だコイツは!」
だが、その腕に得体の知れない獣が噛みついてきたのだ。手元が狂ったウォーターカッターは、的外れな方向に動いてしまい、ヴィーナスには当たらなかった。
「来たぜ…ムーンの神通力が!」
泰三が恐る恐る振り向くと、信じられない光景が広がっていた。
「これは一体…?」
そこには、手や顔がいくつもある動物が存在している。
「キメラ動物とでも言おうか、わかりやすく。ムーンの神通力ではそれをいくらでも生み出せる! 遺伝子とかいう地図に頼る必要はない。自分でデザインできるんだからな!」
これは予想外だ。だから泰三は一度勇宇と合流する。
その周りを、死者とキメラ動物が取り囲む。
「マズい、油断した!」
勇宇の腕がプルプル震えている。この状況を作ってしまったことと、囲まれて逃げ場がない故の絶望感を味わっているのだ。
「落ち着け。こんなヤツらは全部始末すればいい!」
一方の泰三は冷静だった。水を一発一発撃ち込んで死者もキメラ動物も倒す。
「何をしている、勇宇! お前の神通力ならもっと簡単にコイツらを黙らせられるだろ!」
「わかっている…!」
ここで勇宇も躊躇いを捨てた。剣をまた生み出して、自分に飛びつこうとしたキメラを切った。
「でも、これじゃあ数が多すぎる…」
「どうやら、ヴィーナスとムーンを直接叩くしかないようだな…」
泰三がジャンプし、そして水の弾丸を撃ち込んだ。だが、
「危ないことするな。でも意味ないぜ?」
死者が前に出て、その弾を遮ったのだ。ヴィーナスは壁には困っていない。
「何て野郎だ、アイツ…」
おそらくムーンに対して遠距離攻撃を仕掛けても同じ結果だろう。かと言って地道に排除していくのでは、日が暮れてしまう。
「綹羅には、あの時の記憶はないみたいだが……」
別に今更文句を言いたいのではない。気になることが一つあるのだ。
「その記憶がなければ、キメラ植物は使えないみたいだな」
実はこの数日、彼らは綹羅の神通力を改めて見せてもらっていた。しかしあの日生み出した、この世に存在しない植物は出せない様子なのだ。
「神通力が記憶や精神状態に左右されるのか? それは初耳だぞ?」
「可能性はある。あの時の綹羅は普通じゃなかった。完全に負に染まった心を俺は見た。そんな状態だからこそ為せる業なのかもしれない……」
会話はまだ続きそうだったが、目の前に二人の人物が現れたので途切れた。
「俺はヴィーナス! 『惑星機巧軍』のメンバーだ!」
「僕はムーンと言う。君たちの命を奪いに来た!」
ご丁寧な自己紹介を受けて泰三は、
「惑星と名乗る割には、衛星にちなんだコードネームがあるのか」
「そういう文句は勝ってからにしな!」
「では、そうさせてもらおうか…!」
と言って泰三が前に出ようとしたその瞬間、何者かに足を掴まれた。
「ん……? お、お前は…!」
何と、彼の足を掴んでいるのは直希だ。間違いない、見たことのある顔だからだ。だが彼は、綹羅との戦闘中に死亡したはず。
「困惑してるだろうから最初に教えてやるよ、俺の神通力……それは! 死者を一日限り蘇生させること!」
早く言ってしまえば、死者蘇生だ。ヴィーナスにはそれができる。ただし、四十九が過ぎた人物は蘇らせることは不可能。それに神通力者であっても、それを再現することもできない。死者の国境を越えることも無理だ。ただ頭数を増やすことに特化した神通力。
「でもさ、こういう盤面では死ぬほど役に立つんだよ。死者を蘇らせ! 自らの手駒として使う! 死人なんて毎日腐るほど出てるんだ、資源には何も困らない……!」
得意気になって語るヴィーナスの目の前で、泰三は、
(直希は確かに死んだはず……。となると足元にいるのは、その恰好をした別の何者か! 躊躇っている暇はない!)
水を使って、その手足を切断してやった。
「オオオ…」
さらに胴体に特大の水球を撃ち込む。すると直希の体は弾けた。
「おいおい、仲間にも情けなしかよ? 血も涙もないんだな、お前?」
「コイツは言ってしまえば仲間ではなかった……。それに本人は既に死んでいる。迷う暇などいらん!」
泰三は、裏切ったとはいえ直希のことを乱暴に扱ったヴィーナスに怒りを向けた。
「怖いなあ? じゃああと三人にも同じことができる?」
手を挙げると、地面を割ってその下から百深、遥、果叶が這い出た。
「コイツ……!」
ヴィーナスの狙いは精神攻撃だ。ワザと泰三たちの知人を蘇らせ、攻撃させることで動揺を誘う作戦。
「汚いことをしやがるな…」
勇宇は剣を生み出すと、その体を切り裂いた。最初の果叶は素早く切れたが、次の遥の時は突っかかった。それでも切り倒したのだが、最後の百深の時は明らかにスピードが落ちており、手で挟んで止められてしまった。
「効いてるねえ、お前には」
「卑劣な…ことを!」
「何とでも言ってろ。戦場では勝った方のセリフしか採用されないし、何なら敗者の言葉はいくらでも捏造できる」
冷たく言い捨てられると同時に、勇宇は百深に突き飛ばされた。剣を取り上げられてしまい、かなり焦る。
「勇宇! 俺がこの腐った野郎を仕留める。お前はムーンの方を頼むぞ」
「わ、わかった…!」
代わると同時に、泰三は勢いよく水を噴射して百深の体を引き裂いた。地面に落ちた剣はヴィーナスが拾って、
「お前が俺の相手か? まあ、やってみよう。どこまで非情になり切れるかな…?」
天に掲げると、大勢の死者が蘇る。地獄のようだ。だが泰三はもう驚かない。
「うるさい。死人に口はない!」
水で刃を作ると、死者の首をそれで切り裂く。勇宇とは違い、スピードは全く落ちない。
「おおっと、これは意外だぜ? もっと死者は大切に扱えよ」
「お前が言えたことではないだろう!」
泰三は素早くヴィーナスの前まで進んだ。
(もらった! コイツの神通力は死者を蘇らせることだけ! この攻撃を防ぐ手段はない!)
手に持っている剣は、ウォーターカッターで切れる。だから泰三は出力を最大にして切りかかった。
「な、何だコイツは!」
だが、その腕に得体の知れない獣が噛みついてきたのだ。手元が狂ったウォーターカッターは、的外れな方向に動いてしまい、ヴィーナスには当たらなかった。
「来たぜ…ムーンの神通力が!」
泰三が恐る恐る振り向くと、信じられない光景が広がっていた。
「これは一体…?」
そこには、手や顔がいくつもある動物が存在している。
「キメラ動物とでも言おうか、わかりやすく。ムーンの神通力ではそれをいくらでも生み出せる! 遺伝子とかいう地図に頼る必要はない。自分でデザインできるんだからな!」
これは予想外だ。だから泰三は一度勇宇と合流する。
その周りを、死者とキメラ動物が取り囲む。
「マズい、油断した!」
勇宇の腕がプルプル震えている。この状況を作ってしまったことと、囲まれて逃げ場がない故の絶望感を味わっているのだ。
「落ち着け。こんなヤツらは全部始末すればいい!」
一方の泰三は冷静だった。水を一発一発撃ち込んで死者もキメラ動物も倒す。
「何をしている、勇宇! お前の神通力ならもっと簡単にコイツらを黙らせられるだろ!」
「わかっている…!」
ここで勇宇も躊躇いを捨てた。剣をまた生み出して、自分に飛びつこうとしたキメラを切った。
「でも、これじゃあ数が多すぎる…」
「どうやら、ヴィーナスとムーンを直接叩くしかないようだな…」
泰三がジャンプし、そして水の弾丸を撃ち込んだ。だが、
「危ないことするな。でも意味ないぜ?」
死者が前に出て、その弾を遮ったのだ。ヴィーナスは壁には困っていない。
「何て野郎だ、アイツ…」
おそらくムーンに対して遠距離攻撃を仕掛けても同じ結果だろう。かと言って地道に排除していくのでは、日が暮れてしまう。