その①

文字数 2,762文字

「ひ、ひいいいい」

 切り落とされた腕を何とか回収できたヴィーナスは、逃げ切って園内にいる仲間のところにたどり着けた。

「ぷ、プルート! 頼むぜ!」

 ヴィーナスが頼りにしているその少女は、彼から渡された腕を元通りにくっつけてやった。それがプルートの神通力なのだ。怪我を癒し、病気を治し、健康状態を維持させる。戦闘向きではないが、チームにいることに意味がある人物。

「で、腕の代償は何だ? まさか何の成果もないの…?」

 ああ、とヴィーナスが頷いた途端、プルートは彼の胸に回し蹴りをくらわせる。

「うご!」
「はあ、無能が! それですたこら逃げたって? 面汚しめが、恥を知れ!」
「まあそう怒るな、プルート…。ヴィーナス以上の人材がいるだけだろう? 俺らが叩けばそれでいい」

 二人の様子を見ていたこの男は、マーキュリー。激昂するプルートをなだめると、

「では、行こう。ヴィーナスはあっちの道から来た。その方向に猛者がいる」

 彼が歩き始めると、プルートもついて行く。

「ま、待ってくれよ! 今のであばらが一本は折れた! 治してくれよ、プルート!」

 ヴィーナスは叫んだが、聞き入れられなかった。

 そして二人が向かった先にいたのは、泰三と勇宇だ。彼らは適当に園内を歩いていたのだが、プルートが見つけ出した。

「さあ、やってしまおう」
「待て」

 動き出そうとした彼女を手で制するマーキュリー。

「どうしたの?」
「俺が先に行って注意を引く。お前は後ろから不意打ちをしろ」

 と言った。そしてマーキュリーは自分の神通力を使う。彼のそれは、小さくなれること。ジュピターの神通力の逆バージョンだ。しかしあちらとは異なり、こちらには限度がない。また、力は通常の大きさの時のを保っていられるが、それは相手を小さくしても身体能力を無力化できないというデメリットも抱えている。
 その神通力を発揮し、自らの体を虫ほどの大きさにした。後は二人の前に回り込んでから元の大きさに戻るだけだ。

「いいよ。行ってきな、マーキュリー!」

 プルートは物陰に隠れてマーキュリーが行くのを見ていた。小さな体は数メートルも進めば、豆粒ほどの大きさになってしまうので、追跡はできない。

(でも……マーキュリーが元の大きさに戻ったら! それが不意打ちの合図!)

 その時はすぐに来る。

「うわ! 何だコイツいつの間に?」

 勇宇が驚いた。何もない目の前の空間に、突然マーキュリーが現れたのである。

「我ら『惑星機巧軍』は……お前たちを滅ぼすために日本に戻ってきたのだ。さあ相手をしてもらうぞ」

 一方の泰三はあまり驚いていない。

「いいだろう。ここまで色々な神通力者を相手してきたが、みんな骨がない連中だった! お前は違うのだろうな…?」

 逆に挑発する余裕を見せる。

「ほう、面白い。俺を甘く見ているのか…? それは自分が強いから? それとも俺の神通力を暴いたからかな?」
「どっちでもいい、そんなことは。俺は目の前に立ちふさがる敵を倒す……ただそれだけだ! どうにもこのシャイニングアイランドには厄介なネズミが蔓延っているのに駆除されてないらしいからな、俺が潰してやる」

 彼にとって、敵が何人残っているとかそういうことはどうでもよいのだ。ただ、悪事を働く者を放ってはおけない。それに友人を傷つけられた怨みを晴らさずにもいられない。

「素晴らしい闘気だな…。日本の夏は中東に比べれば何ともないが、お前は熱い。これは面白くなりそうだ」

 マーキュリーが構えると、泰三と勇宇も構える。

(来るか!)

 しかし、最初の一撃は彼らの背後から飛んできた。

「後ろにいたのか!」

 前に気を取られていた二人は、プルートの不意打ちに反応できなかった。勇宇が地面に転げ落ち、泰三は手をついた。

「さあ……始めるよ! 残虐の限りをね! マーキュリー、早速アレを!」
「プルート…そう急かすな。デメリットも考えなければいけない」

 プルートが言う残虐とは、マーキュリーが小さくなって相手の体の中に侵入し、そのまま内部を破壊して殺すことだ。一度決まれば相手はまず、手が出せなくなる。だが体内に入るまでが難しい。入り口はほとんどの場合口なのだが、噛み殺される危険性がある。

「では行くぞ!」

 だからマーキュリーはまずは普通に戦闘を行い、そしてその後料理するつもりだ。勇宇に襲い掛かった。

「コイツら、随分と卑怯なことを平気で! プライドはないのか!」

 彼は目の前に鉄板を繰り出した。それにマーキュリーは衝突する。

「うむ、なるほどな。中々の神通力の持ち主。それでこそ『惑星機巧軍』を退けられるってわけか…。これは油断ならない」

 勇宇はその鉄板を前に倒した。だが、手応えがない。

「どこに行った、アイツ? 泰三は見ていたか?」
「………いや、さっきまでそこにいた!」

 けれども二人の前からマーキュリーの姿がなくなったのも事実。

(逃げたね、マーキュリー! 小さくなれば相手は見失うから…攻防に優れた神通力!)

 そして混乱している二人にプルートが一撃を加える。

「この女! ふざけんなよ?」

 泰三が水の弾丸を撃ち込んだ。

「うっく!」

 それはプルートの左胸を貫通した。傷口から血が流れ出る。

(妙だな…?)

 違和感を抱いたのは、それを見ていた勇宇。致命的な攻撃を受けたにも関わらず、顔が全く焦っていないのだ。

(何か、ある!)

 そう確信した時には、既に神通力が使われた後。プルートの胸の傷は瞬くよりも速く塞がっていくのだ。

「コイツは、回復系か!」

 厄介な相手であることを泰三は認識。すると勇宇が、

「俺に任せてくれ! 泰三、お前はもう一人の方を探せ!」
「大丈夫なのか?」

 勇宇には、プルートに対して上手く立ち回れる自信があった。だから泰三の代わりに自分が前に出ると言った。

「行くぞ、うおおおお!」

 すぐに槍を生み出して、それでプルートのことを突く。彼女はそれを避けようとしない。逆に体で受ける。

「痛みは消せないのがこの神通力の欠点だね。でもさあ…」

 胴体に突き刺さった槍を掴んで、

「即死しないなら、ダメージは意味がない! それは良いところ!」

 自分で引き抜いた。傷はもちろん同時に治る。

「だから、意味ないんだよ! お前の攻撃は!」

 さらに勇宇に近づくと拳を連打した。勇宇もそれをただ見ているわけではない。鉄の盾を出して守る。それを見たプルートは、盾ごと勇宇の体を突き飛ばそうと蹴りを入れた。

「つ、強い!」
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