その②

文字数 4,546文字

 その様子を、管制室にいる『惑星機巧軍』のメンバーが見ていた。

「どうやら来たみたいだぜ?」

 今ここにいるメンバーは全員、予備の人物だ。というのも『惑星機巧軍』には新たに入る訓練中のメンバーがいた。彼らは日本で神通力者としての教育を受けた後に『惑星機巧軍』と合流する手筈だったのだが(事実、彼らが十分実践に耐えうるレベルに育っていなかったから、シャイニングアイランドは『太陽の眷属』を仲間として引き入れたのである)、急遽予定が変わって今、モニターの前にいる。

「そうか…。ではマケマケ、サンに連絡を入れて始めさせろ」

 そして、シャイニングアイランドの真の支配者、今田が指示を出した。マケマケというコードネームの少女はマイクに電源を入れると、

「来たよ、馬鹿ども御一考が! 始めちゃってよ。これは命令だから!」

 と叫んだ。

「コイツ等が、あの雑魚の集まり『歌の守護者』を退けたの?」

 エリスという少女が言う。すると隣にいたケレスという少年が、

「僕だったら、一人で全員殺せるや! こんなアホの塊、怖くないやい!」

 と言って胸を叩く。

「おいおい、あまり調子に乗るなよ? それが一番怖いことだ…」

 四人の中では一番訓練が進んでいるハウメアが、そう言った。それに今田は頷いて、

「まあ、そう言うことだ。特にあの綹羅……三番のモニターの人物からは目を背けるなよ?」

 念を押した。


「むっ!」

 誰かが向かいから来ていることに気づき、綹羅は足を止めた。環もそれに気がついた。それは男女の二人組だ。

「あらぁ、誰かと思えば…お客さんじゃないのぉ?」
「馬鹿! 今日は休園日だろ? お前らは文字が読めないのか?」

 いきなり罵られた二人は、一々落ち込んだりはしない。逆に、

「読めるぜ? でも、先に攻撃してきたのはそっちだろう? 俺たちは挑発されたから来ただけ。そもそも来るとわかってて、休むなよ!」

 言い返してやる。

「ほう、中々の強かさだな…。これはテロリストなんかよりも期待できる。そうだろう、マーズ?」

 マーズと言うのは、男の方の名前だ。そして言葉のパスを受けた彼は、

「そうねぇ、楽しそうだわぁ~」

 と、興奮している。

「うっわ…。男のくせに気持ち悪い口調…」
「あれがオカマって人種か」

 綹羅のその言葉に、マーズはキレる。

「あなたぁ、言ってはいけない言葉を呟いたわねぇ…! いいわぁ、ここで殺してあ・げ・るぅ!」

 彼は一歩前に踏み出すと、手を挙げる。彼の構えだ。

「おい待て、マーズ! むやみに…」
「黙っててよぉ、ネプチューン? 私ぃ今すっごく傷ついたのよぉ? それとも何、あなたが代わりにやるってのぉ?」
「………じゃあ女の方は俺が片付ける。マーズ、お前は男を頼んだぞ」

 ネプチューンというコードネームを持つ女が、環の前に立った。マーズは綹羅を睨みつけている。

「じゃあねぇ、ささっとやっちゃうわよぉ?」
「おう! かかって来い、オカマ!」
「あんたねぇ………! いいわぁ、怖いもの知らずってことにしておいてあげるわぁ!」

 マーズは綹羅に手のひらを向けた。するとそこから炎が出た。

「こ、これは…!」

 彼は炎を操り生み出すこともできる神通力者なのだ。だが、『歌の守護者』にいたボレロと異なる点は、その炎が青色…つまりは高温であるということ。

「ヤバい、ヤバヤバ!」

 綹羅はその炎を見るや否や、後ろに逃げた。それでも熱気が迫ってくる。青い炎の熱は、熱いという次元じゃない。

「ほーれ見なさいよぉ? 私のことぉ、舐めてるからこうなるのよ?」

 マーズは既に勝った気でいる。そして前に進もうとした時、躓いて転んだ。

「何よぉ?」

 足元に植物が生えており、それが輪っかを成している。それに引っかかったのだ。綹羅はただ逃げただけではなく、ちゃんと相手を転ばせる一手を打っていた。

「おいどうした、オカマ? さっきまでの威勢はどこ飛んでったんだよ?」
「やるわねぇ、意外とぉ。これは私ぃ、熱くなっちゃうわぁ……!」

 指先から青い炎を出し、その輪っかを燃やし尽くした。
 綹羅は逃げることをやめた。正々堂々と向き合って戦うのだ。

(俺の植物は、アイツに燃やされて終わる……。でもそれは、仕方ないことだ。草は火には勝てない。ゲームと同じか…。だが! 俺はそれを覆して見せる!)

 意気込みは十分。問題は、それを実践することができるかどうか。普通なら相性の悪さに絶望してもいいはずだ。だが綹羅はそう簡単に匙を投げない。

(相手の炎を利用しよう! そうすれば俺でも十分勝てる!)

 まずは植物による攻撃地面からつるや根を伸ばしてマーズの体を拘束しようとしてみる。が、

「意味ないわよぉ?」

 そう言いながら、彼は火炎放射をした。すると生えた植物は瞬く間もなく燃え尽き、灰に変わる。明らかにボレロの神通力よりも火力が高い。しかもマーズ自身は、熱さを感じないし火傷もしない仕様なのだ。

「さあさぁ、嫌というほど逃げ回りなさぁいぃ!」

 そして始まる、全方位火炎放射。これではどこからも手が付けられない。

「まずは距離を取るか!」

 綹羅は飛んで逃げる。これをくらったら一瞬で死ねる。そう確信したのだ。

「あららぁ~? 逃がさないわよぉ~?」

 その姿を見たマーズは、すかさず攻撃する。青い火球を生み出してそれを綹羅に向けて撃ち出した。

「悪いけど……そういう攻撃は俺には通じないと思うぜ?」

 対する綹羅は全く焦っていない。寧ろ落ち着いている。

「どういうことよぉ?」

 すると、綹羅の目の前に樹木が伸びる。火球はそれに当たると燃やし尽くしたが、後ろにいる綹羅までは届いていない。

「障害物。俺の神通力ならいくらでも作れるぜ? 燃えちゃった植物には、ちょっと心が痛むけどな…」
「あらぁ、結構面白い子じゃないのぉ! いいわぁ、お姉さんがトドメを刺してあげるわぁ! 私の胸の中で朽ち果てなさいぃ!」
「だから、お前、男だろ?」
「言ってくれるじゃないのぉ……! 酷い子でもあるわねぇ…!」

 綹羅の発言には何も悪意はない。だがそれが、マーズには気に食わないのだ。

「見てなさいよ、私の! 全てを包み込む青く美しい炎の輝き!」

 確かにその火炎は綺麗である。滑から動きを描きながら燃え盛る青い炎は、太陽にはできない芸当。それがマーズの体から発せられると、一気に綹羅目掛けて津波のように動くのだ。

「でも、速さなら俺の植物も負けてないぜ?」

 綹羅は自分の足元に木を生やした。凄まじいスピードで生える木は、すぐにマーズの頭上を追い越しそして数十メートルに到達。そのてっぺんに綹羅は立っている。

「燃やしてやるわぁ!」

 一度火がついてしまえば、いくら大木と言えど脆い。すぐに火が樹木に走る。灰になると同時に、木が倒れる。

「うおわわわわ…!」

 綹羅はバランスを崩し、傾いた。木が、変な方向に倒れて行こうとしているのだ。

「うふふぅ、逃がさないわよぉ?」

 マーズは綹羅を追い、動いた。着地する瞬間を狙うつもりなのだ。その瞬間なら、誰もが無防備。

「お、来たな…!」

 綹羅も崩れ落ちる木にしがみつきながらマーズの動きを見ていた。

(そっちから来てくれるなら、やりやすいぜ!)

 彼は、ジャンプした。

「それで逃げるつもりぃ?」

 マーズは視線を逸らさない。しっかりと綹羅の動きを目で追い、着地する瞬間に合わせて炎を噴きかけようとする。
 その時、マーズの頭上から何かが落ちてくる。硬い木の実だ。既に綹羅は攻撃の一手を用意していた。

(いいぞ! あのオカマは木の実の存在に気付いてない! このまま行けば…!)

 しかし、上手くはいかなかった。何とマーズは上を見ることをせずに手を振り上げ、そして降ってくる木の実を焼き尽くしたのだ。

「何? ば、バレていた?」
「意外にできると思ったらぁ、結構平凡な手を打ってくるわねぇ。通用すると思うのかしらぁ、私たち『惑星機巧軍』にぃ!」

 彼らは『歌の守護者』とは違う。それは神通力の強力さという側面もあるが、活動の拠点が違うのだ。

「『歌の守護者』は生温い場所でヘラヘラと生きているみたいだけどねぇ、私たち『惑星機巧軍』は毎日が命の取り合いよ? 明日のこの時間に生きているかどうかもわからない……そんな毎日を強いられている側からすればぁ、あなたの手はありふれた凡手だわぁ」

 神通力者と言えど、下手をすれば通常の兵器でも死に至る。そしてそんな血生臭い戦場を駆け抜ける『惑星機巧軍』たちは、相手がとりそうな行動が頭の中に叩きこまれている。

「だ、駄目かあ…」

 綹羅は別の場所から生やした木に着地した。最初から地面に降りるつもりはない。そして今の一撃でマーズを撃破する予定だったのだが、それが狂った。

「降りて来なさいよぉ! すぐに楽にしてあげるわぁ! ……ん?」

 その時、マーズの目に飛び込んできた異様なもの。それは地面から大量に生えている植物。色とりどり花を咲かせている草木が、いつの間にかマーズのことを取り囲んでいるのだ。

「この状況で悪あがきぃ?」

 一瞬迷ったのは、作戦を読まれて打つ手なしになったはずの綹羅が意味不明なことをしてきたからだ。だが、やはり意味のないこととマーズは思った。そして指先に火をつけたその瞬間、周辺の草木が一斉に火を吹いた。

「な、何よこれはぁ!」

 彼は自分の繰り出した火では火傷はしないし、ダメージも受けない。だが、燃焼で生じた煙は守備範囲ではない。彼の周りの植物は勢いよく煙を吐き出したのだ。

「おいおい、危ないところに住んでるんだろ? でも知らないみたいだな、『惑星機巧軍』は? 植物って、自分から可燃性のある油を分泌する種があるんだぜ? それが山火事の原因になったりするんだが、そういう場面には遭遇したことないのか?」

 そうう。この時マーズを取り囲んでいたのは、ゴジアオイやユーカリといった発火する危険性のある種類。それが綹羅の神通力の影響でいつも以上に油を出し、それが揮発していたのだ。

「こ、この…! ご、ゴホゴホ……」

 煙の中では、火は起きない。酸素がないからだ。だからマーズは自慢の炎を繰り出せない。そこに綹羅が参入し、マーズの横顔に、

「うおおおおおおおああああああああああ!」

 渾身の拳をくらわせた。普通なら綹羅も煙のせいで呼吸ができないはず。だがそれは既に対策済み。煙の外に植物を伸ばし、その葉が彼の口の代わりに酸素を体に取り入れてくれている。

「うげええぇ!」

 マーズの体は吹っ飛んで煙から外に出たが、地面に崩れたままだ。

「ふう。危ないヤツだな…性格も神通力も!」

 相性の差を覆した綹羅は、気を失ったマーズの体をつるで縛った。長くは持たないかもしれないが、念のためだ。
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