その②
文字数 2,895文字
時刻はもう十二時を過ぎた。太陽が南の空に登り、熱い光を園内に届けている。
「どうする環? 園内はもうボロボロだ……さっきのサターンのせいだけど。ここまで酷いともう閉園待ったなしだぜ。シャイニングアイランドの神通力者も違う場所を拠点にするしかない」
綹羅はそう言うと歩き出そうとした。彼はシャイニングアイランドにはもう用はないのだろうということと、泰三や陵湖たちのことを考え、一度合流するべきだという発想に至った。
「待って!」
しかしそれを環が止めた。
「どうした?」
彼女は気づいたのだ、自分たちを見ている人物に。ソイツは隠れていない。
「出てきなよ! 誰なの?」
そう叫ぶと、その者の影がゆっくりとこちらに迫る。顔が確認できる距離まで来ると、
「まさか、我ら『惑星機巧軍』を打ち倒すとは驚きだ……。だが、戦い慣れしていない点を考慮すれば当たり前の結果ではあるな。認めよう、お前たちの実力を。だから私が出て来たのだ……『惑星機巧軍』のリーダー、コードネームはサン!」
彼女は仲間がやられたことに腹を立ててはいない。寧ろここまでの実力を発揮した綹羅たちに敬意を表し、その証拠に堂々と目の前にやって来たのである。
「神通力者集団のリーダー? まるでプレリュードみたいだな…」
綹羅は思い出した。確か彼も『歌の守護者』のリーダーだった。その実力の高さは、綹羅が一番よくわかっている。だから、
「てことは……マーズやネプチューン、ウラヌスにサターンよりはできるってことだよな?」
「そうなる。アイツらを束ねる私が実力不足では意味がないからな…」
サンも素直に答える。
「で! ここに来たってことは、やるべきことは一つしかないだろう? そうだよな?」
これにサンは頷く。
「だ、大丈夫なの綹羅……?」
心配そうな眼差しを環は綹羅に送った。彼女はプレリュードに負けたことがあるので、同じような実力者と聞くとあのトラウマが蘇ってしまう。だが綹羅は、
「できるさ…! 俺なら勝てる! だって今まで…わからなくてもここまで来れた。そういう運命なんだこれは! ここまで導かれた俺なら、絶対に負けない!」
自信満々なのだ。
「では始めようじゃないか、綹羅。もちろん覚悟はできているのだろう?」
その言葉に反応し、綹羅は構え、環は離れて瓦礫の上に腰かける。
(サンはどんな神通力を持っているんだ? でも、俺の植物なら上回れる!)
まずは相手に先制させる。その時に、足元に根で輪っかを作っておき、引っ掛けて転ばせる。そして起き上がる前に逆にこちらから一撃を加える。
少なくとも綹羅の頭の中ではそういう作戦が立てられていた。のだが、それが根元から崩壊する。
何とサンは、大きくジャンプしてきたのだ。
「何だと? 輪っかのトラップは…?」
足を確実に絡めとるそれに引っ掛からないわけがないのだ。だがサンは見事にスルーした。
「そんな作戦は通じない。私はウラヌスの様子を見ていた。お前の第一打は、間違いなく小細工。だからこちらも対策をした」
「どうやって…?」
綹羅は接近してくるサンから離れ、そしてサンがさっきまで立っていた場所の地面に目をやる。そこには焦げて切られた植物が。
「強引に、焼き切ったのか!」
彼女の神通力ならそれができるということまで悟る。
「そうだ。消し炭に変えてしまえば、怖くも何ともない。そして綹羅、お前もこうなるのだよ!」
サンが手を突き出した。するとその手のひらが輝く。
「プレリュードと同じタイプの神通力!」
ならば、守る手段はいくらでもある。綹羅は地面から植物を生やし、大きな葉っぱを開かせた。
(光ならこれで吸収でき、俺まで届かない! これでコイツを攻略でき……)
次の瞬間、植物は光に飲み込まれて一瞬で炭と化した。
「え……? 何故?」
目の前で起きたことが、飲み込めていない。植物に光を当てれば、吸収して光合成が行えるはず。なのに実際には、丸焦げにされたのだ。綹羅の神通力で生まれた植物は通常よりも多少頑丈なのだが、それでも一撃だった。
「意味はない。私の神通力はプレリュードの雑魚とは違う…光ではない、プラズマだ! プラズマがお前の生み出した草を瞬時に焼いたのだ」
淡々とそう述べるサン。対する綹羅の表情はすぐに曇る。
「そんなことが本当に? 信じらんねえぜ…」
「現実逃避はお前の自由だが、それをしても真実は変わらない。詳しい原理は私も知らんのだがな、私の放つプラズマに物が当たると、消し炭に変わる。そしてそれは、生物も例外ではないのだ」
この神通力のおかげで、サンはニビルとの『惑星機巧軍』リーダー決定戦に勝利できたのだ。それぐらい強力な神通力。
「くっ………!」
足の向きを変えた綹羅に対し、サンは、
「どうした? まさか逃げるつもりではないだろう? 言っておくが私は任務に失敗したことはない……ターゲットは一人も残さず始末してきた。逃がさんぞ」
両手がまた、光に包まれる。プラズマを発射するつもりなのだ。
「ま、まずい!」
植物でガードすることも綹羅は考えたが、さっきと同じ結果…植物だけを消し炭に変えて終わるとは限らない。貫通してこちらに飛んで来る可能性もあるのだ。
「受けてみよ!」
何の躊躇いもなくサンはプラズマを撃ち出した。
「う、うおおお!」
綹羅に迫りくる眩しい光。
プラズマはそのまま直進し、園内に転がっていた瓦礫に当たるとそれを炭化させた。
「避けたか…」
サンはそう断言した。プラズマは消し炭に変えることはできても、対象を蒸発させることまでは不可能なのだ。綹羅の遺体がないということは、当たらなかったとすぐわかる。
「しかし、妙だな? アイツに素早く動くことができたか? いいや、無理だ。かといってガードすることもできないはず……」
この時、綹羅は瓦礫の山の後ろに隠れている。
(何とか、動けたぜ!)
自分の体に植物を生やし、光合成を行った。得られたエネルギーを全て逃げることに使用して、こうして瓦礫の後ろに回り込めたのだ。
(しかし、どうやってサンに勝つ? 今のままではジリ貧だ。アイツのプラズマは避けられないことはないが、俺の植物は消し炭にされちまうしな…。近づいて格闘戦ってのは、あの神通力を考えるとリスクしかない…)
チラリとサンの方を見る。まだ探している様子だ。これなら行けると綹羅は思い、つるを地面に生やした。
(地中に潜り込ませて………)
根が地面の下で蠢く。サンの足元を目指して土を掘り進み、そしてそこに到達すると一気に成長して樹木になる。
「ふん」
なるはずだった。サンが指をちょっと振っただけで、樹木はプラズマに飲み込まれて焼け落ちた。
(おいおい……。アイツ、最強かよ?)
今のが通じないとなると、遠距離からの攻撃も難しい。
「どうする環? 園内はもうボロボロだ……さっきのサターンのせいだけど。ここまで酷いともう閉園待ったなしだぜ。シャイニングアイランドの神通力者も違う場所を拠点にするしかない」
綹羅はそう言うと歩き出そうとした。彼はシャイニングアイランドにはもう用はないのだろうということと、泰三や陵湖たちのことを考え、一度合流するべきだという発想に至った。
「待って!」
しかしそれを環が止めた。
「どうした?」
彼女は気づいたのだ、自分たちを見ている人物に。ソイツは隠れていない。
「出てきなよ! 誰なの?」
そう叫ぶと、その者の影がゆっくりとこちらに迫る。顔が確認できる距離まで来ると、
「まさか、我ら『惑星機巧軍』を打ち倒すとは驚きだ……。だが、戦い慣れしていない点を考慮すれば当たり前の結果ではあるな。認めよう、お前たちの実力を。だから私が出て来たのだ……『惑星機巧軍』のリーダー、コードネームはサン!」
彼女は仲間がやられたことに腹を立ててはいない。寧ろここまでの実力を発揮した綹羅たちに敬意を表し、その証拠に堂々と目の前にやって来たのである。
「神通力者集団のリーダー? まるでプレリュードみたいだな…」
綹羅は思い出した。確か彼も『歌の守護者』のリーダーだった。その実力の高さは、綹羅が一番よくわかっている。だから、
「てことは……マーズやネプチューン、ウラヌスにサターンよりはできるってことだよな?」
「そうなる。アイツらを束ねる私が実力不足では意味がないからな…」
サンも素直に答える。
「で! ここに来たってことは、やるべきことは一つしかないだろう? そうだよな?」
これにサンは頷く。
「だ、大丈夫なの綹羅……?」
心配そうな眼差しを環は綹羅に送った。彼女はプレリュードに負けたことがあるので、同じような実力者と聞くとあのトラウマが蘇ってしまう。だが綹羅は、
「できるさ…! 俺なら勝てる! だって今まで…わからなくてもここまで来れた。そういう運命なんだこれは! ここまで導かれた俺なら、絶対に負けない!」
自信満々なのだ。
「では始めようじゃないか、綹羅。もちろん覚悟はできているのだろう?」
その言葉に反応し、綹羅は構え、環は離れて瓦礫の上に腰かける。
(サンはどんな神通力を持っているんだ? でも、俺の植物なら上回れる!)
まずは相手に先制させる。その時に、足元に根で輪っかを作っておき、引っ掛けて転ばせる。そして起き上がる前に逆にこちらから一撃を加える。
少なくとも綹羅の頭の中ではそういう作戦が立てられていた。のだが、それが根元から崩壊する。
何とサンは、大きくジャンプしてきたのだ。
「何だと? 輪っかのトラップは…?」
足を確実に絡めとるそれに引っ掛からないわけがないのだ。だがサンは見事にスルーした。
「そんな作戦は通じない。私はウラヌスの様子を見ていた。お前の第一打は、間違いなく小細工。だからこちらも対策をした」
「どうやって…?」
綹羅は接近してくるサンから離れ、そしてサンがさっきまで立っていた場所の地面に目をやる。そこには焦げて切られた植物が。
「強引に、焼き切ったのか!」
彼女の神通力ならそれができるということまで悟る。
「そうだ。消し炭に変えてしまえば、怖くも何ともない。そして綹羅、お前もこうなるのだよ!」
サンが手を突き出した。するとその手のひらが輝く。
「プレリュードと同じタイプの神通力!」
ならば、守る手段はいくらでもある。綹羅は地面から植物を生やし、大きな葉っぱを開かせた。
(光ならこれで吸収でき、俺まで届かない! これでコイツを攻略でき……)
次の瞬間、植物は光に飲み込まれて一瞬で炭と化した。
「え……? 何故?」
目の前で起きたことが、飲み込めていない。植物に光を当てれば、吸収して光合成が行えるはず。なのに実際には、丸焦げにされたのだ。綹羅の神通力で生まれた植物は通常よりも多少頑丈なのだが、それでも一撃だった。
「意味はない。私の神通力はプレリュードの雑魚とは違う…光ではない、プラズマだ! プラズマがお前の生み出した草を瞬時に焼いたのだ」
淡々とそう述べるサン。対する綹羅の表情はすぐに曇る。
「そんなことが本当に? 信じらんねえぜ…」
「現実逃避はお前の自由だが、それをしても真実は変わらない。詳しい原理は私も知らんのだがな、私の放つプラズマに物が当たると、消し炭に変わる。そしてそれは、生物も例外ではないのだ」
この神通力のおかげで、サンはニビルとの『惑星機巧軍』リーダー決定戦に勝利できたのだ。それぐらい強力な神通力。
「くっ………!」
足の向きを変えた綹羅に対し、サンは、
「どうした? まさか逃げるつもりではないだろう? 言っておくが私は任務に失敗したことはない……ターゲットは一人も残さず始末してきた。逃がさんぞ」
両手がまた、光に包まれる。プラズマを発射するつもりなのだ。
「ま、まずい!」
植物でガードすることも綹羅は考えたが、さっきと同じ結果…植物だけを消し炭に変えて終わるとは限らない。貫通してこちらに飛んで来る可能性もあるのだ。
「受けてみよ!」
何の躊躇いもなくサンはプラズマを撃ち出した。
「う、うおおお!」
綹羅に迫りくる眩しい光。
プラズマはそのまま直進し、園内に転がっていた瓦礫に当たるとそれを炭化させた。
「避けたか…」
サンはそう断言した。プラズマは消し炭に変えることはできても、対象を蒸発させることまでは不可能なのだ。綹羅の遺体がないということは、当たらなかったとすぐわかる。
「しかし、妙だな? アイツに素早く動くことができたか? いいや、無理だ。かといってガードすることもできないはず……」
この時、綹羅は瓦礫の山の後ろに隠れている。
(何とか、動けたぜ!)
自分の体に植物を生やし、光合成を行った。得られたエネルギーを全て逃げることに使用して、こうして瓦礫の後ろに回り込めたのだ。
(しかし、どうやってサンに勝つ? 今のままではジリ貧だ。アイツのプラズマは避けられないことはないが、俺の植物は消し炭にされちまうしな…。近づいて格闘戦ってのは、あの神通力を考えるとリスクしかない…)
チラリとサンの方を見る。まだ探している様子だ。これなら行けると綹羅は思い、つるを地面に生やした。
(地中に潜り込ませて………)
根が地面の下で蠢く。サンの足元を目指して土を掘り進み、そしてそこに到達すると一気に成長して樹木になる。
「ふん」
なるはずだった。サンが指をちょっと振っただけで、樹木はプラズマに飲み込まれて焼け落ちた。
(おいおい……。アイツ、最強かよ?)
今のが通じないとなると、遠距離からの攻撃も難しい。