その①

文字数 2,460文字

「今、向こうで何か光らなかったか?」

 サンの放ったプラズマの輝きは、入場ゲート付近にいた泰三たちの目にも飛び込んできた。

「もしかしたら、あそこに綹羅たちがいるの?」

 その考えに誰もが至る。そうなるとここで待っている意味はない。

「行くぞ! 足元と敵に気をつけろ…」

 瓦礫まみれの園内を彼らは進む。仲間と合流するために。


「どうする?」

 綹羅はその場にいた。サンの意識が戻るのを待つのは、とても時間がかかりそうだ。だが、本当にこれで終わりなのかを確かめないと安心ができない。

「待ってみる? まだ誰か残ってるなら、ここに来るかもしれないよ?」

 そう提案する環。このボロボロになってしまった園内を歩くのは危険、だから泰三らと合流するのは待った方がいいかもしれないと判断したためだ。

「なら、そうしよう!」

 二人はその場で待つことにした。

「なあ環…」

 綹羅の方が切り出した。

「さっきサンが言っていたことって、本当なのか?」

 どうしても気になってしまったこと。それは、綹羅が泰三と勇宇を叩きのめしたのだろうかということだ。サンとの戦闘中は環の説得もあって乗り越えることができたが、落ち着くとまた疑問に思ってしまう。

「……それは私も聞いただけで、実際に見たわけじゃないよ。あの日は私、シャイニングアイランドに行かなかったから。でも、その日の朝泰三たちを見送った時に、綹羅がそこにいなかったのは覚えてる」

 それだけで綹羅はある程度察せる。

「じゃあ、本当なんだな……」

 頭を下げた。記憶にはないが、実際に起きたこと。心を痛めない方がおかしいのだ。

「合流したら、謝らないといけない。俺のこの手で彼らを傷つけたことは、誰が何て言おうと変わらない……」
「綹羅…」

 その言葉には、力が感じられない。心の弱さが十分伝わってくるのだ。

「でも」
「どうしたの?」

 しかしここで綹羅は首を傾げる。何かがおかしいのだ。

「あの時、百深たちが裏切って、環が死んだと勘違いした。そこまでは覚えてるんだ…。でもその先が…何で俺は、シャイニングアイランドに寝返ろうとしたんだ? 普通なら復讐心に燃えたりすると思うけど」
「ああ、確かに! もし私が本当に死んでたら、綹羅は絶対にシャイニングアイランドに怒りをぶつけるよね…。私を殺しておいて、その仲間になるっていうのは変だ。それに百深たちは綹羅の目の前で裏切ってるんだし、仲間にするつもりはなかったんじゃ?」

 言われて綹羅も気づいた。

 彼がシャイニングアイランドの味方をする理由はどこにもないはずなのだ。だが実際には、泰三たちと戦っている…つまりは一度、敵対している。

「何か、予定でも狂ったのかな? だから当初の計画とは違うことをする羽目になった? でもそれは一体…」

 その答えは、二人にはわからない。

「それは、綹羅……お前の登場だ」

 後ろから何者かの声がした。驚いて振り向くと、男が一人立っていた。

「だ、誰だお前は!」
「私は…今田豪。このシャイニングアイランドの創成者だ」
「何だって!」

 驚きを隠せない綹羅と環。二人からすれば、大ボスが突然目の前に現れたようなものだ。

「綹羅。お前が神通力に目覚めなければ、仲間には加えようとはしない。それがイレギュラー。お前たちにとっても、私たちにとってもだ」
「神通力に目覚めた…? そうかやはりお前らが何か仕組んだのか! だから俺は神通力者に?」

 綹羅はずっと疑問に思っていた。何故自分が突然、神通力に目覚めたのか。そんな特別な人間とは自分でも思えない。しかし使えるのはどうしてか。

「正確には、私の部下がしでかしたこと。だが結果としてお前という神通力者が生まれ、そして強力であることがわかった。だから仲間に加えようとしたのだ。実に素晴らしい力だったが、泰三には黒星を付けられた…つまりは過大評価し過ぎていた。だから途中から、仲間に加えることを諦めて排除することを優先させたのだ…」
「ねえ、待ってよ!」

 ここで環が今田の言葉を遮る。

「最初は私がターゲットだったでしょう? それはどうして?」
「簡単なこと……。シャイニングアイランドは神通力者を集めてはいるが、その方法は効率が悪い。そこで、向こうから神通力者がやって来たというのなら、捕まえるに越したことはない。実際に百深、果叶、遥、直希の四人は仲間に加えた。期待通りの働きができたかどうかは別だが、私の部下の力を使わずに増やせるのなら、そっちの方がいい」
「お前の部下の神通力は何だ?」

 色部の神通力を今田は説明する。

「お前のような年齢の若い子供に、神通力を覚醒させること。記憶と引き換えにな。だからその神通力で覚醒した場合、再教育が必要となる。その手間が省けるなら、その方が手っ取り早いんだ」

 それが、シャイニングアイランドがどうして神通力者を大量に抱えているかのカラクリだ。適合者を手当たり次第誘拐し、無理矢理記憶を奪って神通力を与える。それで『歌の守護者』も『惑星機巧軍』も誕生したのである。

「じゃあこういうことだな? プレリュードとかサンとかは、元々は一般人だった。それをお前が拉致して人生を記憶ごと奪い、こき使っている……諸悪の根源ってことか!」
「察しがいいな。だがちょっと外れている。彼らは神通力に満足し、自分から進んで任務に赴いてくれている」
「そんなの、いくらでも言い換えられるじゃん! 信用できないよ!」

 今田の発言に環は異議を唱えた。

「それじゃあ、何? メヌエットやボサノバたち、ネプチューンやウラヌスたちは被害者なの? あなたが支配するために用意した手駒に過ぎないってこと?」
「それは違う」

 今度は今田が意見した。

「私は人類の支配なんぞ求めていない」
「じ、じゃあ何が目的なんだ?」
「考えてみろ、今の人類の現状を」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み