その①
文字数 2,467文字
そんなことは知らない綹羅と環。話をまとめるために黒点というレストランで少し早い昼ご飯を食べる。食べながら環は、綹羅に神通力について説明する。
それは、神通力と呼ばれる何か特殊な力の総称。そしてその力を持つ人を、神通力者と呼ぶ。
神通力者は普通の人とは、ほとんど見分けがつかない。しかし、顕著な身体能力の向上が認められる。
「……以上だよ。神通力について、何となくわかった?」
下手ながらも環は綹羅に解説をした。彼は飲み込みが早く、
「大体はイメージできたぜ! でも、何で環さんはそれに目覚めたんだ?」
質問ができる程度に理解していた。
「それは、私にもよくわからないよ。本当に気がついたら、としか…。もしかしたら神通力は、誰にでも現れる現象なのかもね」
「他にも知っている人にはいるかい?」
と聞くと、
「私は……泰三や美織ちゃんぐらいしか知らないかな。でもさっきの絵に入る女の子みたいに、きっと他にもいると思うよ」
泰三という名前が出て来たので、綹羅はちょっと妬いた。
(アイツまで、環さんと同じだってのかよ。俺は一般市民なのにか?)
しかしそれは瞬間的な感情だ。今環と一緒にデートしているのは、綹羅なのだから。
「このシャイニングアイランドに、さっきの子のような人もいるかもしれないね」
「どうする? 日を改めた方がいいかな……?」
謎の勢力に襲われては、今日はお流れになっても仕方がない。だが環は、
「大丈夫だよ! どうせ私の相手じゃないし! 向かって来るなら、ドンとやっつけてやるから! 綹羅君に手は出させないよ!」
その姿が、頼もしく思えた。
(本当なら、俺が環さんに言わないといけないのにな…。ちくしょう、守られる側ってこんなに悔しいのかよ…!)
綹羅が少し落ち込んでいたその時、
「ではでは、私と戦っていただけないだろうか…?」
と、隣の席から声がした。
「うわっ!」
驚く二人。その人物は二人の前に移動すると、
「失礼失礼、私はボサノバと申す者だ。いやあいやあ、メヌエットを破るとは大したものだ。是非とも是非とも、お手合わせ願いたいのだが…?」
ボサノバと名乗った少女は、二人の前から動こうとしない。
「……いいよ! 何の目的かどうか知らないけど、かかってくるなら全員やっつけてやる!」
環はそんなことを言った。そしてその場で構えたが、
「待て待て、ここでやり合うわけにはいかない。他のお客様に迷惑だろう? それにそれにまだ、料理を食べ終えていないではないか? ご馳走様した後でゆっくりお手合わせ願おう!」
何故が食事の時間はくれる。これも実は、『歌の守護者』の作戦。散り散りに園内を回る仲間を集めるために、時間が欲しいのだ。
すぐに食べ終え、外に移動する。
「ではでは、始めよう」
ボサノバはそう言い、園内の憩いの広場に移動した。この時間帯、そこにはあまり人はいない。夜になれば綺麗な花火が見れる場所だが、昼間は見世物などが特に何もないからだ。
「まずまず、先に言っておくが……私は容赦もしないし躊躇わない。だからだから、後悔しないよう最初から全力で来ることだ」
彼女は相当な自信家なのか、そんなことを言ってのける。
「いいよ、そこまで言うんなら……本気で始めさせてもらう!」
そして環も、無視しないで初めからかっ飛ばすつもりだ。幸いにも、先ほどの美術館とは異なり、ここは屋外。彼女は自分の神通力を存分に使うことができるのだ。
雲が大きく動く。大気が震えているのだ。そして生じた突風は、ボサノバの体に吹いた。
「うおおうおお、これは! 凄まじい神通力だ……! 通りで通りで、あの人が「捕まえろ」と言うのだな…!」
しかしボサノバはしっかり地面に足をつけて踏ん張る。
「だがだが! 私の神通力は上を行く! 見ていろ見ていろ!」
ボサノバが指をパチンと鳴らした。すると黒い雲が彼女らの頭上の上空に集まってくる。太陽が遮られたので、辺りが暗くなった。それに環は気づいて空を見上げた。
「何か…来る!」
瞬時に横に飛んだ。何も見えないが、これは環の勘だ。本能が、ここに突っ立っていてはいけないと告げたのだ。
彼女が立っていた場所に、雷が落ちて来た。薄っすらと暗くなっていた辺りが一瞬だけ、眩い光に包まれて、轟音が鳴り響く。落雷した地面の舗装は、黒く焦げた。
「これこれ、これが私の神通力! 天気を自在に操れる! さあさあ、どう戦うつもりだ、環!」
「簡単だよ」
そう一言。それだけで今にも雨が降り出しそうだった天気だったのに、急に晴れていく。
「なるほどなるほど…」
環が上空に、大きな風を吹かせたのだ。その風によって雲が散らされた。流石のボサノバも、これは予想外だ。天気を変えるということは九割がた、まず曇らせる必要があるのだが、環にそれは通じない。
「それではそれでは、ここは身体能力の高さを活かしてみるか…な?」
ポキポキと指を鳴らすと、ボサノバは環の懐に突っ込んだ。そして拳を繰り出す。
「う、う!」
素早い動きだ。同じ神通力者である環も反応に遅れるほどに。
「大丈夫か、環さん!」
綹羅が声を上げると、
「心配しないで、ちょっと想定外だっただけ! 次は大丈夫だよ」
「ほうほう、その自信がどこから湧き出るのか…見せてもらおう」
ボサノバは攻撃の手を緩めない。今度は足を上げた。そして速いキックをお見舞いする。が、それが外れる。
「うぬうぬ! だが!」
流れるようにパンチをするが、それも空振り。逆に環からビンタを受けた。
「なな、どうなっている?」
自分の方が上だと自負していたボサノバだが、その自信が崩れつつある。さっきから攻撃が、環に届いていない。それどころか、一方的にダメージを受けているのだ。ここは一旦距離を取って観察する。
それは、神通力と呼ばれる何か特殊な力の総称。そしてその力を持つ人を、神通力者と呼ぶ。
神通力者は普通の人とは、ほとんど見分けがつかない。しかし、顕著な身体能力の向上が認められる。
「……以上だよ。神通力について、何となくわかった?」
下手ながらも環は綹羅に解説をした。彼は飲み込みが早く、
「大体はイメージできたぜ! でも、何で環さんはそれに目覚めたんだ?」
質問ができる程度に理解していた。
「それは、私にもよくわからないよ。本当に気がついたら、としか…。もしかしたら神通力は、誰にでも現れる現象なのかもね」
「他にも知っている人にはいるかい?」
と聞くと、
「私は……泰三や美織ちゃんぐらいしか知らないかな。でもさっきの絵に入る女の子みたいに、きっと他にもいると思うよ」
泰三という名前が出て来たので、綹羅はちょっと妬いた。
(アイツまで、環さんと同じだってのかよ。俺は一般市民なのにか?)
しかしそれは瞬間的な感情だ。今環と一緒にデートしているのは、綹羅なのだから。
「このシャイニングアイランドに、さっきの子のような人もいるかもしれないね」
「どうする? 日を改めた方がいいかな……?」
謎の勢力に襲われては、今日はお流れになっても仕方がない。だが環は、
「大丈夫だよ! どうせ私の相手じゃないし! 向かって来るなら、ドンとやっつけてやるから! 綹羅君に手は出させないよ!」
その姿が、頼もしく思えた。
(本当なら、俺が環さんに言わないといけないのにな…。ちくしょう、守られる側ってこんなに悔しいのかよ…!)
綹羅が少し落ち込んでいたその時、
「ではでは、私と戦っていただけないだろうか…?」
と、隣の席から声がした。
「うわっ!」
驚く二人。その人物は二人の前に移動すると、
「失礼失礼、私はボサノバと申す者だ。いやあいやあ、メヌエットを破るとは大したものだ。是非とも是非とも、お手合わせ願いたいのだが…?」
ボサノバと名乗った少女は、二人の前から動こうとしない。
「……いいよ! 何の目的かどうか知らないけど、かかってくるなら全員やっつけてやる!」
環はそんなことを言った。そしてその場で構えたが、
「待て待て、ここでやり合うわけにはいかない。他のお客様に迷惑だろう? それにそれにまだ、料理を食べ終えていないではないか? ご馳走様した後でゆっくりお手合わせ願おう!」
何故が食事の時間はくれる。これも実は、『歌の守護者』の作戦。散り散りに園内を回る仲間を集めるために、時間が欲しいのだ。
すぐに食べ終え、外に移動する。
「ではでは、始めよう」
ボサノバはそう言い、園内の憩いの広場に移動した。この時間帯、そこにはあまり人はいない。夜になれば綺麗な花火が見れる場所だが、昼間は見世物などが特に何もないからだ。
「まずまず、先に言っておくが……私は容赦もしないし躊躇わない。だからだから、後悔しないよう最初から全力で来ることだ」
彼女は相当な自信家なのか、そんなことを言ってのける。
「いいよ、そこまで言うんなら……本気で始めさせてもらう!」
そして環も、無視しないで初めからかっ飛ばすつもりだ。幸いにも、先ほどの美術館とは異なり、ここは屋外。彼女は自分の神通力を存分に使うことができるのだ。
雲が大きく動く。大気が震えているのだ。そして生じた突風は、ボサノバの体に吹いた。
「うおおうおお、これは! 凄まじい神通力だ……! 通りで通りで、あの人が「捕まえろ」と言うのだな…!」
しかしボサノバはしっかり地面に足をつけて踏ん張る。
「だがだが! 私の神通力は上を行く! 見ていろ見ていろ!」
ボサノバが指をパチンと鳴らした。すると黒い雲が彼女らの頭上の上空に集まってくる。太陽が遮られたので、辺りが暗くなった。それに環は気づいて空を見上げた。
「何か…来る!」
瞬時に横に飛んだ。何も見えないが、これは環の勘だ。本能が、ここに突っ立っていてはいけないと告げたのだ。
彼女が立っていた場所に、雷が落ちて来た。薄っすらと暗くなっていた辺りが一瞬だけ、眩い光に包まれて、轟音が鳴り響く。落雷した地面の舗装は、黒く焦げた。
「これこれ、これが私の神通力! 天気を自在に操れる! さあさあ、どう戦うつもりだ、環!」
「簡単だよ」
そう一言。それだけで今にも雨が降り出しそうだった天気だったのに、急に晴れていく。
「なるほどなるほど…」
環が上空に、大きな風を吹かせたのだ。その風によって雲が散らされた。流石のボサノバも、これは予想外だ。天気を変えるということは九割がた、まず曇らせる必要があるのだが、環にそれは通じない。
「それではそれでは、ここは身体能力の高さを活かしてみるか…な?」
ポキポキと指を鳴らすと、ボサノバは環の懐に突っ込んだ。そして拳を繰り出す。
「う、う!」
素早い動きだ。同じ神通力者である環も反応に遅れるほどに。
「大丈夫か、環さん!」
綹羅が声を上げると、
「心配しないで、ちょっと想定外だっただけ! 次は大丈夫だよ」
「ほうほう、その自信がどこから湧き出るのか…見せてもらおう」
ボサノバは攻撃の手を緩めない。今度は足を上げた。そして速いキックをお見舞いする。が、それが外れる。
「うぬうぬ! だが!」
流れるようにパンチをするが、それも空振り。逆に環からビンタを受けた。
「なな、どうなっている?」
自分の方が上だと自負していたボサノバだが、その自信が崩れつつある。さっきから攻撃が、環に届いていない。それどころか、一方的にダメージを受けているのだ。ここは一旦距離を取って観察する。