その③

文字数 2,681文字

 何と綹羅は自分の肩に手を置くと、そこから植物が芽生えたのだ。そしてすぐに大きな葉っぱを形成し、プレリュードの光弾をそれで受ける。

「自滅か…? いやここでそんなことを選ぶヤツではない。何が起き……?」

 彼のセリフが途中で途絶えたのは、綹羅の拳で顎を撃ち抜かれたからだ。凄まじい威力のパンチに、プレリュードの体は数メートル吹っ飛ぶ。

「ぐぶえ!」

 幸いにも意識はまだ保っていられる。もちろん彼の頭には疑問しかない。

(な、馬鹿な…? アイツとは十分な間合いを取っていた! なのにどうして私を直接攻撃できる?)

「植物を自分の体にも生えさせられるかは、一か八かの賭けだったぜ! でも俺は、賭けに勝った!」

 綹羅はそう宣言し、地面に転がり落ちるプレリュードを追う。

「コイツ! くらえ!」

 もう一度。今度は指先から光をビームにして放つ。だがこれも、綹羅の肩から生えている葉っぱに当たるのだが、それ以上は何も起きない。

「うおおおおおおおおお!」

 一瞬、残像が見えた。とプレリュードが思ったら既に綹羅は、彼の後ろに回っていた。背中を殴られ、前に転がる。

「こ、こんなことが、あり得ん!」

 だが現実に、彼の目の前で起きているのだ。それが理解できない。地面に手をつけ這いずりながらプレリュードは、綹羅を見た。彼は疲れている様子もない。

「神通力は一人一つしかないはず…! だからお前の神通力は植物を生やす、ただそれだけなんだ! 私を追い詰めるほど身体能力が向上するのは、別の神通力に分類されるからあり得んのだ……!」
「違うぜ?」

 ここで綹羅は、何が起きているのかを得意気に語る。

「光合成も知らないのかお前は?」
「光合成だと…?」

 流石に記憶の大部分を無くしたプレリュードでもそれは知識として頭の中にある。だからなのか、

「そうかお前…! 俺の光で!」
「その通りさ! お前の光を利用させてもらった! 俺が体に生やした植物で光合成をすれば、生じたエネルギーは全部俺の体を駆け巡る! だからあんな動きができたんだぜ!」

 それこそ、賭けの内容。綹羅は自覚していないのだが、神通力者である自分の体から生えた植物は普通よりも強靭であり、プレリュードの光を耐え切れたこともあった。

「私の光を利用したと言うのか!」

 これを聞いてしまったので、プレリュードの思惑は音を立てて崩れ落ちる。自分の神通力を使えばかえって自分が不利になるというのは、悪い冗談のようだ。

「だが…それで私に勝ったつもりか! そうでないことを教えてやる!」

 そう言って立ち上がり、綹羅に襲い掛かろうとしたのだが、

「そうはさせないぜ!」

 綹羅が植物のつるを引っ張った。

(つる…? 何のつるだ、どこに伸びている…?)

 目で追うと、それはプレリュードの背中の方から伸びているのだ。そしてつるに引っ張られて彼は体勢を崩してしまう。

「既に! お前の背中に生やしておいたぜ! これでお前を逃がさないで叩ける! 覚悟しろ……!」
「だが!」

 自分の背中に生えているつるを引き千切ってしまえばいい。そう感じたプレリュードはすぐに実行に移すが、

「うぐあああああ!」

 背中に激痛が走った。どうやら生物の体に生えている植物がダメージを受けると、生えている者に返ってくるらしい。今、プレリュードはそれを知らずに強引に引っこ抜こうとしたために、意識が飛びそうな痛みに襲われる。

「無駄だ!」

 さらに綹羅が追い打ちを仕掛ける。三発拳をくらわせると、プレリュードはまたも地面に落ちた。

「く、くそ…! この私が、こんなガキ相手に後れを取るとは…!」

 もう勝利は目前。綹羅は最後の一撃を加える前に聞いておきたいことがあったので、

「教えれば、命は見逃してやるよ。環さんはどこにいる? 答えろ!」
「くっ…!」

 言えるわけがない。

「じゃあ仕方な…」

 その時、綹羅は上を向いた。太陽光ではない光が頭上から洩れていたためだ。

「最後の悪足搔き…?」

 そこには、いつの間にかプレリュードが繰り出していた光の球が。綹羅は構えて、そして葉っぱを前に出した。しかしそれは動き出すと、プレリュードの体に落ちた。

「ふ、フハハハハハハハハハっ!」

 突然笑い出す彼に一瞬だけ怯え、綹羅は後ろに下がった。

「何のつもりだ、プレリュード?」
「お前が私に教えてくれたではないか! 光合成! 作られたエネルギーは私の体を回る! お前が私の神通力を利用したように、私もお前の神通力を利用させてもらった!」

 瞬時にプレリュードは、まるで何事もなかったかのように立ち上がる。彼は宣言通り、自分の体に生えた植物を利用した。光合成を行わせることで、自分の体にエネルギーを注入したのだ。

「しまった!」

 慌てて綹羅は、神通力を解く。だがこれは、完全に悪手。プレリュードの体から、つるが枯れて落ちてしまった。

「判断を間違えたな、お前! 今神通力を解くべきではなかった! 私を捕まえたのに、自分から手錠を外してしまったに等しい真似!」

 これで自由を手に入れたプレリュードは、一気に勝負を片付けようとする。近くにあった街路灯の根元を折ってそれを持ち上げる。これで勝負に出るのだ。

「おいおい、そんなのありかよ!」

 驚いた綹羅。彼には手に取れる武器がない。

「終わりだあああー!」

 雄叫びと共にプレリュードは街路灯を振り下ろす。しかし、

「まだだ、まだ終わっちゃいない!」

 綹羅はなんとこれに抗って見せた。思いもよらぬ抵抗を感じたプレリュードは仰天し、

「何! こんなに硬い物が一体どこに…?」

 と叫ぶ。その答えは簡単だ。

「危ないところだったぜ! あと少し反応に遅れて、この樹木を育てていなかったら負けていた!」

 既に綹羅が神通力を発動していたのだ。目の前に太い樹木を生み出し、それが街路灯を受け止めたのである。さらに木は成長していき、プレリュードから武器を取り上げた。

「ば、馬鹿な! こんなことが……!」

 そして見せた決定的な隙。これを綹羅が見逃すはずがない。

「うおおおおおわああああ!」

 突進、からのアッパー。完全に入った。

「げふうう!」

 文句なくノックアウト。プレリュードの体は地面に落ちても、立ち上がろうとしなかった。
 昨日生じた因縁に、決着がついた瞬間だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み