その②
文字数 3,102文字
その頃管制室では、かなりマズい空気が流れていた。
「い、色部様…。ワタクシも赴いた方がいいのではないでしょうか…?」
モニターに映る『歌の守護者』の面子は、ことごとく敗北を喫した。色部は二つの意味で居心地が悪い。一つは自分が贔屓している仲間たちが敗北していく様を黙って見ていなければいけなかったこと。そしてもう一つは、その無様な姿を今田にも見られているということ。メヌエットの発言も、そんな色部の徐々に青ざめていく表情を見てのものだった。
「なるほど…。これは面白い」
しかし、今田の意見は違う。
「す、すぐに『太陽の眷属』に連絡だ、メヌエット!」
「それだけではないだろう、色部?」
今田は言う。
「と、言うと…?」
「そうだな…。まだ『太陽の眷属』が残っているのはいいとして、私にはな、何か嫌な予感がするのだ、それも近々起こり得る。だからここに呼び戻せ、『惑星機巧軍(プラネット・テック・フォース)』をな…」
「プ、『惑星機巧軍?』」
色部とメヌエットは同時に声を出して驚いた。
「そ、そんな…! アイツらの手なんて借りなくても!」
「聞こえなかったのか、色部?」
今田にそう睨まれて言われては、従うしかない。
「わ、わかりました……。通信室に向かいます…」
色部は管制室を出た。
(今田様…。一体何が起きると言うのだ? どうして『惑星機巧軍』なんかを…。小学生一年生レベルの道徳も理解できない連中だぞ…?)
シャイニングアイランドには、いくつか実戦部隊がある。中南米で活動する、恐竜の名前をコードネームに持つ『中生の鼓動(ジュラシック・ビート)』。また、『聖刻の紋章(メダリオン・オブ・ヒエログリフ)』はアフリカ大陸に陣を取り、コードネームはエジプト神話にちなんでいる。日本にも、『夜空の黄道(ナイトスカイ・エクリプティック)』がいるのだ。彼らの主な活動目的は、シャイニングアイランドのための資金調達だ。他にも諜報活動なども行う。
今、色部が呼び戻そうとしている『惑星機巧軍』もそんな実戦部隊の一つで、シャイニングアイランドが有する神通力者部隊の中では一番強い。もちろん色部が神通力者に覚醒させた者たちで固められている。しかし、彼は『惑星機巧軍』を嫌っている。理由は倫理観の欠如。彼らには、仲間意識が毛ほどもないのだ。今、彼らは中東で活動中であるが、やっていることは大体察しが付く。
とは言っても、色部も神通力に適性のある人物を片っ端から誘拐し、しかも中には反社会的勢力に金で売り付けていたりもするのだが。
色部は通信室に入ると、無線を『惑星機巧軍』に入れた。
「緊急指令だ、今田様から直々の! サン、聞こえるか? すぐにシャイニングアイランドに戻って来い!」
「お、お前は…!」
綹羅は遭遇する。目の前に立つ男は、プレリュード。環が誘拐された時に最後に見た、『歌の守護者』の人物。
「お前が環さんを…!」
そう思うと、怒りがこみ上げてくるのだ。
「どうやら、お前を見落としてしまったらしい。だが、ここでその問題も解決する…」
プレリュードはそう宣言し、綹羅のことを睨みつけた。この時、普通なら綹羅に油断してもおかしくはない。相手はつい最近まで一般人だったのだから。だが彼はそういう心の余裕を取り払っている。
(コイツは全力で潰す)
既に決意している。色部と相談した際にプレリュードは、彼らも捕らえるかどうかを聞いた。だが、必要ないという結論に行き着いたのだ。
「サンプルは一人で十分だろう。環を利用し、まず支配する術を開拓する。個人情報はもうこっちの手の中だ、準備が整った後でも何も問題はない」
そう言われた。だから綹羅を倒すのはプレリュード自身の判断。さっきから通信機器の向こう側でメヌエットが、仲間がやられていると嘆いている。その悲しみが、彼の闘志を燃え上がらせる。
対峙する綹羅も、気は抜けない。あの日の記憶の最後に存在するプレリュードは、相当な実力者であることに間違いはない。
「行かせてもらおう!」
先に動いたのは、プレリュードの方だった。彼は電光石火のごとき俊敏さで、あっという間もなく綹羅との距離を詰めた。そして両方の拳で攻撃する。
「どわっ! だけど…!」
綹羅はそれに反応し、腕で防いだ。ただし胴体に当たることを避けれたという意味であって、威力は腕に十分伝わっている。
(次は避けないと駄目だ…! まずはちょっと下がろう!)
足を後ろに動かす。するとプレリュードもついて行こうと地面を蹴った。が、転ぶ。
「何だ?」
つまずいたのか。そう思って足元を見ると、つるが輪っかを作っている。ボサノバの時に実践した綹羅のトラップだ。かなり簡単な罠だが、それが役に立つ。
「コイツの神通力は、植物を操ることだってメヌエットが言っていたが……こういう動きもアリか! それは流石に予想外だが…!」
ボサノバとは違い、瞬時にプレリュードは立ち上がった。もちろん地面からつるが伸びては来るのだが、それを逆に掴んで引き千切る。
「こういう手は、私には通じない。覚えておけ!」
しかし綹羅、
「どうかな?」
とぼけてみせる。勝負はまだわからないと言いたげな顔だ。そして、
「うお、何だ?」
急にプレリュードの足元の地面が隆起した。何かがアスファルトの下で膨らんでいる感覚だ。それに足を取られて彼はバランスを崩した。すかさず綹羅が蹴りを入れる。
「ぐおおあ!」
突然の隆起。もちろんそれは綹羅の仕業だ。アスファルトの下の空間に植物を生み出し、盛り上がらせたのだ。
「どうだ! 植物はアスファルトをも凌駕する! 舐めたお前が間抜けだぜ!」
ここで縛りつけようと綹羅は地面からつるを伸ばしたが、次の瞬間、プレリュードが放った光弾によって焼き払われてしまった。
「アイツ……。ああいう神通力だったのか。これは強そうだな…!」
普通ならここで、プレリュードの神通力を知ってその強大さに絶望してもおかしくはない。だが綹羅は逆。
「強くないと戦いがいもない! それにお前は許せないヤツだぜ、環さんをさらったんだからな! こんな簡単に終わらせてたまるか!」
指をパチンと鳴らすと足元で植物が育つ。それが硬い実をすぐに実らせ、綹羅はそれを取る。そしてプレリュード目掛けて投げてみる。
「その程度…!」
光を使うまでもない。そう言いたげに彼は拳でそれを弾いた。
(飛び道具の類は、相手には届かないか、やはり。こうなったら肉弾戦に持ち込むしかないぜ…)
そう判断した綹羅は距離を詰めようと駆け出す。だが今度はプレリュードが距離を置こうと動く。そして光の球を手のひらに生み出すと、綹羅目掛けて放つ。
「うわ、眩しぃ!」
思わず目を閉じてしまった。それぐらいの光量がその玉にはあった。そして怯んだすきにプレリュードは綹羅との距離を広げる。
「これぐらいあればいい…!」
遠距離攻撃なら、プレリュードの方が得意だ。自分の周りに大量の光弾を生み出すと、一気に綹羅へ撃ち出す。
(全て当たれば、それで終わりだ……! 覚悟しておけ!)
しかし、プレリュードは感じ取った。綹羅は逃げようとしていない、その不自然さに。
(おかしい。これを前にして逆に突っ走ってくるのか? それはあまりにも馬鹿すぎる…?)
次の瞬間、信じられないことが起きた。
「い、色部様…。ワタクシも赴いた方がいいのではないでしょうか…?」
モニターに映る『歌の守護者』の面子は、ことごとく敗北を喫した。色部は二つの意味で居心地が悪い。一つは自分が贔屓している仲間たちが敗北していく様を黙って見ていなければいけなかったこと。そしてもう一つは、その無様な姿を今田にも見られているということ。メヌエットの発言も、そんな色部の徐々に青ざめていく表情を見てのものだった。
「なるほど…。これは面白い」
しかし、今田の意見は違う。
「す、すぐに『太陽の眷属』に連絡だ、メヌエット!」
「それだけではないだろう、色部?」
今田は言う。
「と、言うと…?」
「そうだな…。まだ『太陽の眷属』が残っているのはいいとして、私にはな、何か嫌な予感がするのだ、それも近々起こり得る。だからここに呼び戻せ、『惑星機巧軍(プラネット・テック・フォース)』をな…」
「プ、『惑星機巧軍?』」
色部とメヌエットは同時に声を出して驚いた。
「そ、そんな…! アイツらの手なんて借りなくても!」
「聞こえなかったのか、色部?」
今田にそう睨まれて言われては、従うしかない。
「わ、わかりました……。通信室に向かいます…」
色部は管制室を出た。
(今田様…。一体何が起きると言うのだ? どうして『惑星機巧軍』なんかを…。小学生一年生レベルの道徳も理解できない連中だぞ…?)
シャイニングアイランドには、いくつか実戦部隊がある。中南米で活動する、恐竜の名前をコードネームに持つ『中生の鼓動(ジュラシック・ビート)』。また、『聖刻の紋章(メダリオン・オブ・ヒエログリフ)』はアフリカ大陸に陣を取り、コードネームはエジプト神話にちなんでいる。日本にも、『夜空の黄道(ナイトスカイ・エクリプティック)』がいるのだ。彼らの主な活動目的は、シャイニングアイランドのための資金調達だ。他にも諜報活動なども行う。
今、色部が呼び戻そうとしている『惑星機巧軍』もそんな実戦部隊の一つで、シャイニングアイランドが有する神通力者部隊の中では一番強い。もちろん色部が神通力者に覚醒させた者たちで固められている。しかし、彼は『惑星機巧軍』を嫌っている。理由は倫理観の欠如。彼らには、仲間意識が毛ほどもないのだ。今、彼らは中東で活動中であるが、やっていることは大体察しが付く。
とは言っても、色部も神通力に適性のある人物を片っ端から誘拐し、しかも中には反社会的勢力に金で売り付けていたりもするのだが。
色部は通信室に入ると、無線を『惑星機巧軍』に入れた。
「緊急指令だ、今田様から直々の! サン、聞こえるか? すぐにシャイニングアイランドに戻って来い!」
「お、お前は…!」
綹羅は遭遇する。目の前に立つ男は、プレリュード。環が誘拐された時に最後に見た、『歌の守護者』の人物。
「お前が環さんを…!」
そう思うと、怒りがこみ上げてくるのだ。
「どうやら、お前を見落としてしまったらしい。だが、ここでその問題も解決する…」
プレリュードはそう宣言し、綹羅のことを睨みつけた。この時、普通なら綹羅に油断してもおかしくはない。相手はつい最近まで一般人だったのだから。だが彼はそういう心の余裕を取り払っている。
(コイツは全力で潰す)
既に決意している。色部と相談した際にプレリュードは、彼らも捕らえるかどうかを聞いた。だが、必要ないという結論に行き着いたのだ。
「サンプルは一人で十分だろう。環を利用し、まず支配する術を開拓する。個人情報はもうこっちの手の中だ、準備が整った後でも何も問題はない」
そう言われた。だから綹羅を倒すのはプレリュード自身の判断。さっきから通信機器の向こう側でメヌエットが、仲間がやられていると嘆いている。その悲しみが、彼の闘志を燃え上がらせる。
対峙する綹羅も、気は抜けない。あの日の記憶の最後に存在するプレリュードは、相当な実力者であることに間違いはない。
「行かせてもらおう!」
先に動いたのは、プレリュードの方だった。彼は電光石火のごとき俊敏さで、あっという間もなく綹羅との距離を詰めた。そして両方の拳で攻撃する。
「どわっ! だけど…!」
綹羅はそれに反応し、腕で防いだ。ただし胴体に当たることを避けれたという意味であって、威力は腕に十分伝わっている。
(次は避けないと駄目だ…! まずはちょっと下がろう!)
足を後ろに動かす。するとプレリュードもついて行こうと地面を蹴った。が、転ぶ。
「何だ?」
つまずいたのか。そう思って足元を見ると、つるが輪っかを作っている。ボサノバの時に実践した綹羅のトラップだ。かなり簡単な罠だが、それが役に立つ。
「コイツの神通力は、植物を操ることだってメヌエットが言っていたが……こういう動きもアリか! それは流石に予想外だが…!」
ボサノバとは違い、瞬時にプレリュードは立ち上がった。もちろん地面からつるが伸びては来るのだが、それを逆に掴んで引き千切る。
「こういう手は、私には通じない。覚えておけ!」
しかし綹羅、
「どうかな?」
とぼけてみせる。勝負はまだわからないと言いたげな顔だ。そして、
「うお、何だ?」
急にプレリュードの足元の地面が隆起した。何かがアスファルトの下で膨らんでいる感覚だ。それに足を取られて彼はバランスを崩した。すかさず綹羅が蹴りを入れる。
「ぐおおあ!」
突然の隆起。もちろんそれは綹羅の仕業だ。アスファルトの下の空間に植物を生み出し、盛り上がらせたのだ。
「どうだ! 植物はアスファルトをも凌駕する! 舐めたお前が間抜けだぜ!」
ここで縛りつけようと綹羅は地面からつるを伸ばしたが、次の瞬間、プレリュードが放った光弾によって焼き払われてしまった。
「アイツ……。ああいう神通力だったのか。これは強そうだな…!」
普通ならここで、プレリュードの神通力を知ってその強大さに絶望してもおかしくはない。だが綹羅は逆。
「強くないと戦いがいもない! それにお前は許せないヤツだぜ、環さんをさらったんだからな! こんな簡単に終わらせてたまるか!」
指をパチンと鳴らすと足元で植物が育つ。それが硬い実をすぐに実らせ、綹羅はそれを取る。そしてプレリュード目掛けて投げてみる。
「その程度…!」
光を使うまでもない。そう言いたげに彼は拳でそれを弾いた。
(飛び道具の類は、相手には届かないか、やはり。こうなったら肉弾戦に持ち込むしかないぜ…)
そう判断した綹羅は距離を詰めようと駆け出す。だが今度はプレリュードが距離を置こうと動く。そして光の球を手のひらに生み出すと、綹羅目掛けて放つ。
「うわ、眩しぃ!」
思わず目を閉じてしまった。それぐらいの光量がその玉にはあった。そして怯んだすきにプレリュードは綹羅との距離を広げる。
「これぐらいあればいい…!」
遠距離攻撃なら、プレリュードの方が得意だ。自分の周りに大量の光弾を生み出すと、一気に綹羅へ撃ち出す。
(全て当たれば、それで終わりだ……! 覚悟しておけ!)
しかし、プレリュードは感じ取った。綹羅は逃げようとしていない、その不自然さに。
(おかしい。これを前にして逆に突っ走ってくるのか? それはあまりにも馬鹿すぎる…?)
次の瞬間、信じられないことが起きた。