その②
文字数 2,485文字
綹羅は果叶の方を向いた。そして走る。
「止まって見えますよ?」
今の果叶は、綹羅の下がった分の身体能力を得ている。だから彼の動きは、手に取るようにわかる。
「それっ!」
果叶の拳が、綹羅の頬に当たる。威力は上がっているため、綹羅はその一撃で大きくのけ反った。
「何なんだ、この神通力……?」
さらに追い打ちをかける果叶であったが、綹羅の生み出した植物が邪魔をした。その拳から彼の体を遮るように植物が伸びて葉を広げているのだ。
「その場しのぎですか? 追い詰められている証拠ですね。自分から答え合わせしているようなもの!」
果叶は容赦ない。植物の葉っぱを引き千切って邪魔者を排除する。しかし、
「そこだ!」
綹羅も逃げるためだけに植物を生やしたのではなかった。ウツボカズラを手の中で生み出すと、捕虫袋に入っている消化液を果叶に向けて放った。
「うぶっ!」
目に入ったようで、果叶の綹羅を追う動きが止まる。
「うおお!」
すかさず綹羅は攻撃をする。さっき頬をやられたので、思いっきりビンタしてみせる。しかし、
「そこ…でしたか!」
目を閉じたままの果叶には、全く効いていない。逆に手を掴まれて振り回された。
「うわわ!」
ぶん投げられた綹羅は、何とか着地しようとした、だが体が思うように動かず、失敗して盛大に転んだ。
けれども、ただでは起きない。
「……へっへー。わかったぜ果叶、お前の神通力! なんとなくだけどよ……相手の体の動きを鈍くさせること、だろ!」
半分は当たっている。
彼がこの発想に行き着いたのには、理由がある。それは、まず自分の攻撃で果叶はそれほどダメージを受けていないこと。そして着地しようとしたのに上手く体が動かなかったこと。この二つを踏まえると、果叶の神通力が何となくだが見えてくるのだ。
果叶は答えを言わない。自分にとって不利益な行為は、できるだけ行わないつもりだ。だがその沈黙を綹羅は答えと直感。
(これで間違いない! だったら!)
綹羅は自分の背中に手を回した。そしてそこから植物を生やし、葉を大きく開いた。
「何をしているんですか…?」
「見ればわかるぜ!」
そして次の瞬間、綹羅は動く。その素早さは果叶の予想以上だ。
「あれ、そんな力がどこに?」
目を疑ったのは、果叶の方。自分の神通力が適応されているこの状態で、綹羅にそんなスピードを出すのは不可能なはず。
「行くぞ! うおおおおお!」
次は綹羅のアッパーが決まる。さっきの拳よりも速く、そして重い一撃。これにはたまらず、果叶は後ろに倒れこむと同時に飛び、距離を取って態勢を整える。
「どういうことでしょうか…?」
綹羅の背中には葉が生えているが、それだけでこれほどまでにパワーアップしたとは思えない。
「おいどうした果叶? かかって来いよ!」
手をクイッと動かして挑発してくる。ここで果叶はそれに乗らずに考える。
(彼は……私の神通力を何故か無視してあそこまで動ける。というのに今度は自分から、仕掛けてこない…?)
足元に視線を落とした時、果叶は気づいた。自分は今、日陰にいる。対して綹羅は日向。
「光合成…ですか? 人間にそんなことが可能? でも彼の神通力なら…!」
太陽から放たれる光をエネルギーに変え、それを利用して下がった身体能力の埋め合わせをする。それが綹羅の導き出した、果叶の神通力への対策。
「ですが、種がわかれば! 怖くはないことです! 綹羅、望み通り行きますよ!」
果叶は動き出す。同時にもう一度神通力を使い、綹羅の身体能力を下げて自分のを上げる。だが、それは叶わなかった。何と綹羅の目の前の地面から、いきなり樹木が育ったのだ。
「しまった!」
果叶は止まったが、これが悪手。一瞬でも動きを止めた果叶に対して木が倒れてくる。しかしこれに臆する彼女ではない。逆に倒れこんでくる木を、拳を振って粉砕する。今の果叶にはそれは容易く、そして痛みも感じない。
「あれ?」
綹羅が彼女の目の前にいないのだ。さっきまではいたはずなのに、である。すると突然、後ろから手が伸びてきて果叶を羽交い絞めにした。
「捕まえたぞ!」
綹羅だった。だがここで果叶は、しまったと思う代わりに、どうしてここに綹羅が自ら来たのかを考えた。
(こっちはまだ日陰のはず! なのにどうして…?)
日陰に飛び込んでは、自分の首を絞めるだけ。しかし綹羅は、自分の体から植物の茎を日向まで伸ばすと、その先に葉を何枚も生み出した。だから日陰でも十分に行動できるのだ。
「おい、美織! 一瞬でいいから力を貸せ!」
今、美織は直希と戦っている。しかし綹羅の方を向いてくれた。そして状況を一瞬で理解すると、
「いいわ…。受けなさい」
どこから取り出したのやら、植木鉢を果叶に向かって射出。勢いよく解き放たれたそれは、拳銃の弾丸よりも威力がある。
「うっぐぐぐ…!」
一発。それだけで果叶は、地面に伏せた。
「大丈夫、生きてはいる。でももう駄目だろう…」
綹羅は自分の体がいつも通りに軽くなったことを確認すると、直希の方に向かった。
「中々やるね…。まさか果叶を倒せるとは、思ってもいなかった! でもこれで、完全に僕を怒らせた! 後悔するんだね!」
その声は大きく、そして怒りに満ちている。だが綹羅も美織も特別怖くはない。
「直希に神通力を向けなければ、無効化はできないわ。それがアイツが今コピーしている、遥の神通力の特徴よ……」
美織は、綹羅と果叶が火花を散らしている間に、その神通力の性質をおおよそ理解していた。美織の神通力は一度も無力化されなかったので、
(直希自身に向けられないと、無効化できない)
それに気がつけたのだ。
「よし、美織! 何か作戦はあるか?」
「あるわ。……でもちょっと手荒。やってみる?」
「ああ、いいぜ!」
「止まって見えますよ?」
今の果叶は、綹羅の下がった分の身体能力を得ている。だから彼の動きは、手に取るようにわかる。
「それっ!」
果叶の拳が、綹羅の頬に当たる。威力は上がっているため、綹羅はその一撃で大きくのけ反った。
「何なんだ、この神通力……?」
さらに追い打ちをかける果叶であったが、綹羅の生み出した植物が邪魔をした。その拳から彼の体を遮るように植物が伸びて葉を広げているのだ。
「その場しのぎですか? 追い詰められている証拠ですね。自分から答え合わせしているようなもの!」
果叶は容赦ない。植物の葉っぱを引き千切って邪魔者を排除する。しかし、
「そこだ!」
綹羅も逃げるためだけに植物を生やしたのではなかった。ウツボカズラを手の中で生み出すと、捕虫袋に入っている消化液を果叶に向けて放った。
「うぶっ!」
目に入ったようで、果叶の綹羅を追う動きが止まる。
「うおお!」
すかさず綹羅は攻撃をする。さっき頬をやられたので、思いっきりビンタしてみせる。しかし、
「そこ…でしたか!」
目を閉じたままの果叶には、全く効いていない。逆に手を掴まれて振り回された。
「うわわ!」
ぶん投げられた綹羅は、何とか着地しようとした、だが体が思うように動かず、失敗して盛大に転んだ。
けれども、ただでは起きない。
「……へっへー。わかったぜ果叶、お前の神通力! なんとなくだけどよ……相手の体の動きを鈍くさせること、だろ!」
半分は当たっている。
彼がこの発想に行き着いたのには、理由がある。それは、まず自分の攻撃で果叶はそれほどダメージを受けていないこと。そして着地しようとしたのに上手く体が動かなかったこと。この二つを踏まえると、果叶の神通力が何となくだが見えてくるのだ。
果叶は答えを言わない。自分にとって不利益な行為は、できるだけ行わないつもりだ。だがその沈黙を綹羅は答えと直感。
(これで間違いない! だったら!)
綹羅は自分の背中に手を回した。そしてそこから植物を生やし、葉を大きく開いた。
「何をしているんですか…?」
「見ればわかるぜ!」
そして次の瞬間、綹羅は動く。その素早さは果叶の予想以上だ。
「あれ、そんな力がどこに?」
目を疑ったのは、果叶の方。自分の神通力が適応されているこの状態で、綹羅にそんなスピードを出すのは不可能なはず。
「行くぞ! うおおおおお!」
次は綹羅のアッパーが決まる。さっきの拳よりも速く、そして重い一撃。これにはたまらず、果叶は後ろに倒れこむと同時に飛び、距離を取って態勢を整える。
「どういうことでしょうか…?」
綹羅の背中には葉が生えているが、それだけでこれほどまでにパワーアップしたとは思えない。
「おいどうした果叶? かかって来いよ!」
手をクイッと動かして挑発してくる。ここで果叶はそれに乗らずに考える。
(彼は……私の神通力を何故か無視してあそこまで動ける。というのに今度は自分から、仕掛けてこない…?)
足元に視線を落とした時、果叶は気づいた。自分は今、日陰にいる。対して綹羅は日向。
「光合成…ですか? 人間にそんなことが可能? でも彼の神通力なら…!」
太陽から放たれる光をエネルギーに変え、それを利用して下がった身体能力の埋め合わせをする。それが綹羅の導き出した、果叶の神通力への対策。
「ですが、種がわかれば! 怖くはないことです! 綹羅、望み通り行きますよ!」
果叶は動き出す。同時にもう一度神通力を使い、綹羅の身体能力を下げて自分のを上げる。だが、それは叶わなかった。何と綹羅の目の前の地面から、いきなり樹木が育ったのだ。
「しまった!」
果叶は止まったが、これが悪手。一瞬でも動きを止めた果叶に対して木が倒れてくる。しかしこれに臆する彼女ではない。逆に倒れこんでくる木を、拳を振って粉砕する。今の果叶にはそれは容易く、そして痛みも感じない。
「あれ?」
綹羅が彼女の目の前にいないのだ。さっきまではいたはずなのに、である。すると突然、後ろから手が伸びてきて果叶を羽交い絞めにした。
「捕まえたぞ!」
綹羅だった。だがここで果叶は、しまったと思う代わりに、どうしてここに綹羅が自ら来たのかを考えた。
(こっちはまだ日陰のはず! なのにどうして…?)
日陰に飛び込んでは、自分の首を絞めるだけ。しかし綹羅は、自分の体から植物の茎を日向まで伸ばすと、その先に葉を何枚も生み出した。だから日陰でも十分に行動できるのだ。
「おい、美織! 一瞬でいいから力を貸せ!」
今、美織は直希と戦っている。しかし綹羅の方を向いてくれた。そして状況を一瞬で理解すると、
「いいわ…。受けなさい」
どこから取り出したのやら、植木鉢を果叶に向かって射出。勢いよく解き放たれたそれは、拳銃の弾丸よりも威力がある。
「うっぐぐぐ…!」
一発。それだけで果叶は、地面に伏せた。
「大丈夫、生きてはいる。でももう駄目だろう…」
綹羅は自分の体がいつも通りに軽くなったことを確認すると、直希の方に向かった。
「中々やるね…。まさか果叶を倒せるとは、思ってもいなかった! でもこれで、完全に僕を怒らせた! 後悔するんだね!」
その声は大きく、そして怒りに満ちている。だが綹羅も美織も特別怖くはない。
「直希に神通力を向けなければ、無効化はできないわ。それがアイツが今コピーしている、遥の神通力の特徴よ……」
美織は、綹羅と果叶が火花を散らしている間に、その神通力の性質をおおよそ理解していた。美織の神通力は一度も無力化されなかったので、
(直希自身に向けられないと、無効化できない)
それに気がつけたのだ。
「よし、美織! 何か作戦はあるか?」
「あるわ。……でもちょっと手荒。やってみる?」
「ああ、いいぜ!」