その⑥
文字数 2,789文字
一度、自分の体に生えた葉を枯らして取り除くと綹羅は、
「でもこれが現実だぜ! 『惑星機巧軍』ってもしかして…弱いんじゃね?」
「なに、きさま! それはぶじょくとうけとるぞ! かくごしておけ、いまこのおれがふたりどうじにころしてやろうではないか!」
サターンは二人同時戦うつもりだ。
(地球上にいられないと自負する神通力は、どんなものなんだ…?)
綹羅は緊張していない。少し興奮している。ウラヌスに簡単に勝利できたこともあるが、サターンの神通力がどんなものかとワクワクしているのだ。横にいる環は、
「綹羅…。気をつけようよ。アイツ、絶対にただ者じゃないよ」
警戒だけは怠らない。
「ではみせてやろう、わが神通力…! それは、人災!」
そう呟いた瞬間、近くのアトラクションの建物が崩れた。
「な、何だ?」
驚いた綹羅の足元が崩れる。
「フフフ…このシャイニングアイランドは、けっこうたてものがおおい。アトラクションがほうふだからな! そうなるとおれは神通力にはこまらん!」
サターンの神通力の正体は、人災。人為的な災害を引き起こすことである。それはビルの崩壊であったり、火事だったり液状化現象だったりとバラエティーに富む。条件は自然が関与していない災害であることだ。
「いのちのききをかんじるだろう? おれの神通力はいつでもやくにたつ! くるまがはしっていれば、じこらせることだってできる!」
しかも、このシャイニングアイランドは面積の半分以上が埋め立て地である。もし土地が丸ごと崩壊したら、いくら神通力者であっても命はない。
「よし、はじめるぞ! しこうのひとときを!」
サターンが叫んだ途端、園内に地響きが走る。そして地面から水が噴水のように湧き出た。地下の水道管を破壊したのだ。
「うおお!」
勢いがよかったために綹羅は足を取られた。その隙を突いてサターンが近づき、彼を突き飛ばした。
「綹羅!」
環が風に乗りながらサターンに近づこうとしたが、目の前にショップの建物が倒れこんできたので引き返した。
「ちょっと! シャイニングアイランドはあなたたちの本拠地じゃないの? こんなことしていいわけ?」
「しらんな。だれがこまろうが、それでおれらがなくわけじゃない! ここにいるいじょう、このばのすべてがおれのぶきだ。おれのしょうりにこうけんできてこうえいにおもうべきだろう?」
環の疑問にサターンは信じられない答えを示す。まるで他人の敷地を勝手に荒らしてもいいだろうと言わんばかりの発想だ。それもそのはずでサターンには、この土地に愛着がない。『歌の守護者』ならまだしも、いつもは海の向こうで活動している『惑星機巧軍』にとって、日本の遊園地がどうなろうと知ったことではないのである。
「まただ!」
綹羅の側にあったジェットコースターのレールが音を立てて崩れてきた。何とかそれらをかわすと、今度は地面からパイプが剥き出る。それはガスパイプであり、突然綹羅に向かって火を吹いた。
「何でもありか! コイツの神通力!」
綹羅はそう思ったが、実際にはそういうわけではない。サターンの神通力では、できない災害の方が遥かに多いのだ。しかし、園内という人工的な状況であることが災いしているのである。
(こうなったら、直接サターンに勝負を挑むしかない!)
それが最善の一手だと信じ、綹羅は駆ける。途中、地面の下から現れて水や火を吹き出すパイプや何の前触れもなくいきなり崩れ出す建物を避けながら、少しずつサターンとの距離を縮める。
「くるか!」
それはサターンも反応する。
「行くぜ、一気に!」
翼を生やすような感じで、綹羅は肩から葉を生やした。そして光合成をしてエネルギーを得ると、地面を蹴って飛ぶ。
「おお、これはおもしろい! だがな、おれのてきではないんだよ、おまえは!」
サターンは最後の手段を残していた。
突然、綹羅の姿を飲み込む影が現れる。
「な、何だ一体?」
振り向くと、何とそこには旅客機が。
「ちかくのひこうじょうからとばしておいたぜ! むじんだが、それでもはかいりょくはじゅうぶん! ついらくだってりっぱな災害だぜ…。しにな」
もう落下するだけの状態だ。綹羅は逃げようと動いたが、間に合わない。
「し、しまっ……!」
そして機体は墜落。それと同時にサターンの神通力の影響か、燃料が爆発して大炎上。これではいくら神通力者でも命はない。
「はーっははは!」
勝ち誇るサターン。
「ばかなやつだ! おれにかてるとほんきでおもうから、しぬはめになるんだよ! さて、つぎはあっちのおんなか…。まあ、さっきのやつよりもざこだろ」
サターンは環の方を向き、
「かかってきな! そしてしね!」
手をくいくいと動かして挑発する。
「じゃあ、行かせてもらう!」
それに乗る環。この時、サターンは戦ってもいないのに勝利を確信した。何故なら相手は仲間を失って、冷静さを欠いているはずだ。まともな判断も行動もとれるはずがない。動揺した人ほど楽な相手はいないのだ。
「よし、し…」
だが、その思惑は音を立てて崩れることになる。何と環は一切の動揺を見せず、降ってくる瓦礫はおろか塵すら避けてサターンの懐に潜り込むと、強烈な一撃を彼の腹に加えたのだ。
「き、きさま……! どうして?」
「何でって、言われても…。だって当然でしょ、相手がいるなら迎え撃つ! それだけだよ」
「ちがう! きさまのなかまはしんだっていうのに、なぜれいせいでいられるんだ!」
「死んだ? それ、本当に?」
「なにをいっ……。ま、まさか!」
そのまさか。綹羅は死んでいない。
「勝手に殺すなよ、サターン!」
実は旅客機の墜落の前に、環は二つの風を起こしていたのだ。一つは綹羅を逃がすため。もう一つは機体の墜落を遅らせるのと場所をズラすため。その二つの空気の流れが、墜落地点と綹羅の場所を微妙にかみ合わないようにさせたのである。
「さて、滅茶苦茶にしやがってよ…。シャイニングアイランドには嫌な思い出しかないけど、代わりにしばいてやる!」
綹羅は環が起こしてくれた風に乗り、すぐにサターンの近くにやってきた。そして二人で彼を手当たり次第にぶん殴る。サターンは神通力を使えない。彼の神通力は自分は災害の影響を受けない仕様なのだが、目の前にいる綹羅と環が巻き添えになってサターンにぶつかる場合……つまりは生じた二次災害は守備範囲ではないのだ。
「く、くそ………」
もう拳が痛い。綹羅たちは手を止めた。必要以上にボコしてしまったので、サターンは完全に意識を失っている。
「でもこれが現実だぜ! 『惑星機巧軍』ってもしかして…弱いんじゃね?」
「なに、きさま! それはぶじょくとうけとるぞ! かくごしておけ、いまこのおれがふたりどうじにころしてやろうではないか!」
サターンは二人同時戦うつもりだ。
(地球上にいられないと自負する神通力は、どんなものなんだ…?)
綹羅は緊張していない。少し興奮している。ウラヌスに簡単に勝利できたこともあるが、サターンの神通力がどんなものかとワクワクしているのだ。横にいる環は、
「綹羅…。気をつけようよ。アイツ、絶対にただ者じゃないよ」
警戒だけは怠らない。
「ではみせてやろう、わが神通力…! それは、人災!」
そう呟いた瞬間、近くのアトラクションの建物が崩れた。
「な、何だ?」
驚いた綹羅の足元が崩れる。
「フフフ…このシャイニングアイランドは、けっこうたてものがおおい。アトラクションがほうふだからな! そうなるとおれは神通力にはこまらん!」
サターンの神通力の正体は、人災。人為的な災害を引き起こすことである。それはビルの崩壊であったり、火事だったり液状化現象だったりとバラエティーに富む。条件は自然が関与していない災害であることだ。
「いのちのききをかんじるだろう? おれの神通力はいつでもやくにたつ! くるまがはしっていれば、じこらせることだってできる!」
しかも、このシャイニングアイランドは面積の半分以上が埋め立て地である。もし土地が丸ごと崩壊したら、いくら神通力者であっても命はない。
「よし、はじめるぞ! しこうのひとときを!」
サターンが叫んだ途端、園内に地響きが走る。そして地面から水が噴水のように湧き出た。地下の水道管を破壊したのだ。
「うおお!」
勢いがよかったために綹羅は足を取られた。その隙を突いてサターンが近づき、彼を突き飛ばした。
「綹羅!」
環が風に乗りながらサターンに近づこうとしたが、目の前にショップの建物が倒れこんできたので引き返した。
「ちょっと! シャイニングアイランドはあなたたちの本拠地じゃないの? こんなことしていいわけ?」
「しらんな。だれがこまろうが、それでおれらがなくわけじゃない! ここにいるいじょう、このばのすべてがおれのぶきだ。おれのしょうりにこうけんできてこうえいにおもうべきだろう?」
環の疑問にサターンは信じられない答えを示す。まるで他人の敷地を勝手に荒らしてもいいだろうと言わんばかりの発想だ。それもそのはずでサターンには、この土地に愛着がない。『歌の守護者』ならまだしも、いつもは海の向こうで活動している『惑星機巧軍』にとって、日本の遊園地がどうなろうと知ったことではないのである。
「まただ!」
綹羅の側にあったジェットコースターのレールが音を立てて崩れてきた。何とかそれらをかわすと、今度は地面からパイプが剥き出る。それはガスパイプであり、突然綹羅に向かって火を吹いた。
「何でもありか! コイツの神通力!」
綹羅はそう思ったが、実際にはそういうわけではない。サターンの神通力では、できない災害の方が遥かに多いのだ。しかし、園内という人工的な状況であることが災いしているのである。
(こうなったら、直接サターンに勝負を挑むしかない!)
それが最善の一手だと信じ、綹羅は駆ける。途中、地面の下から現れて水や火を吹き出すパイプや何の前触れもなくいきなり崩れ出す建物を避けながら、少しずつサターンとの距離を縮める。
「くるか!」
それはサターンも反応する。
「行くぜ、一気に!」
翼を生やすような感じで、綹羅は肩から葉を生やした。そして光合成をしてエネルギーを得ると、地面を蹴って飛ぶ。
「おお、これはおもしろい! だがな、おれのてきではないんだよ、おまえは!」
サターンは最後の手段を残していた。
突然、綹羅の姿を飲み込む影が現れる。
「な、何だ一体?」
振り向くと、何とそこには旅客機が。
「ちかくのひこうじょうからとばしておいたぜ! むじんだが、それでもはかいりょくはじゅうぶん! ついらくだってりっぱな災害だぜ…。しにな」
もう落下するだけの状態だ。綹羅は逃げようと動いたが、間に合わない。
「し、しまっ……!」
そして機体は墜落。それと同時にサターンの神通力の影響か、燃料が爆発して大炎上。これではいくら神通力者でも命はない。
「はーっははは!」
勝ち誇るサターン。
「ばかなやつだ! おれにかてるとほんきでおもうから、しぬはめになるんだよ! さて、つぎはあっちのおんなか…。まあ、さっきのやつよりもざこだろ」
サターンは環の方を向き、
「かかってきな! そしてしね!」
手をくいくいと動かして挑発する。
「じゃあ、行かせてもらう!」
それに乗る環。この時、サターンは戦ってもいないのに勝利を確信した。何故なら相手は仲間を失って、冷静さを欠いているはずだ。まともな判断も行動もとれるはずがない。動揺した人ほど楽な相手はいないのだ。
「よし、し…」
だが、その思惑は音を立てて崩れることになる。何と環は一切の動揺を見せず、降ってくる瓦礫はおろか塵すら避けてサターンの懐に潜り込むと、強烈な一撃を彼の腹に加えたのだ。
「き、きさま……! どうして?」
「何でって、言われても…。だって当然でしょ、相手がいるなら迎え撃つ! それだけだよ」
「ちがう! きさまのなかまはしんだっていうのに、なぜれいせいでいられるんだ!」
「死んだ? それ、本当に?」
「なにをいっ……。ま、まさか!」
そのまさか。綹羅は死んでいない。
「勝手に殺すなよ、サターン!」
実は旅客機の墜落の前に、環は二つの風を起こしていたのだ。一つは綹羅を逃がすため。もう一つは機体の墜落を遅らせるのと場所をズラすため。その二つの空気の流れが、墜落地点と綹羅の場所を微妙にかみ合わないようにさせたのである。
「さて、滅茶苦茶にしやがってよ…。シャイニングアイランドには嫌な思い出しかないけど、代わりにしばいてやる!」
綹羅は環が起こしてくれた風に乗り、すぐにサターンの近くにやってきた。そして二人で彼を手当たり次第にぶん殴る。サターンは神通力を使えない。彼の神通力は自分は災害の影響を受けない仕様なのだが、目の前にいる綹羅と環が巻き添えになってサターンにぶつかる場合……つまりは生じた二次災害は守備範囲ではないのだ。
「く、くそ………」
もう拳が痛い。綹羅たちは手を止めた。必要以上にボコしてしまったので、サターンは完全に意識を失っている。