その④
文字数 2,790文字
その横で、美織は直希の相手をしていた。
「くらいなさい…」
エアガンを彼に向け、撃つ。だが反応できない速さではない。直希は綺麗に避ける。
「そんなの使うなんてちょっと、ズルくない? 正々堂々と自分の手だけで戦おうよ? それとも自信がないのかい?」
「あんたには言われたくないわ…」
美織からすれば、神通力を工夫して活かすことは当たり前。それをしようとしない直希を見ているとイライラするレベル。
「僕にも貸してよ!」
今度は直希の方から仕掛ける。接近戦を挑み、美織のエアガンを奪い取ろうと手を伸ばす。
「触るな」
しかし、美織はエアガンで思いっきり直希の頭を殴った。
「……やってくれるね…! こうなったら容赦しないよ?」
それから美織は銃口を直希に向け、至近距離で発砲しようとするが、
「…壊れた…?」
力を入れて叩きつけたせいか、弾を撃ち出せない。
「なら…」
これを神通力を使い、撃ち込むのみ。素早くそして手首のスナップを効かせて、直希に向けてエアガンを投げつける。
「うぐえええ!」
それは腹に命中した。その様子を見て美織は、
(何故避けない…?)
当てれたことよりも、避けなかったことに疑問を感じる。
「ちょっとさ、馬鹿……じゃないの? これ、まだ使えるだろう? 腹はめっちゃ痛いけどさ」
そう、彼はワザとエアガンを体で受けたのだ。そうしなければ、美織の神通力では、撃ち出された物はどこまで飛んで行くかわからない。エアガンを確保するためには、身を張ってキャッチするしかないのだ。
そして直希はエアガン分解し始めた。弾倉にはまだ大量のBB弾が残っている。
「……しまった!」
これが直希の狙いだ。この一発一発の小さな弾を、美織に向けて撃ち出す。直希は全て当てようとは思っていない。この中のどれかが当たればいい、そういう発想だ。
「……くうっ!」
そして一発が美織の腕に命中。激しい痛みがそこから全身を駆け巡る。そうしている間に、二発、三発と彼女の体を襲う。
「もしかして! 僕の方がこの神通力を使いこなしてるんじゃないかな? はは、だとしたら気分がいいよ……美織、君が無様にボロボロになっていくのは面白いじゃん!」
「コイツ……」
痛みを耐えながら美織は、何かないかと考えていた。この状況を突破する方法が何か、ないか…。
「仕方ないわ…」
そして苦渋の決断を下す。指先を歯で傷つけ、血を出すとそれを撃ち出した。
「うぶっ!」
威力には期待できそうにない。だが、働きは期待通りだ。直希の目に当たったので、簡単な目潰しができた。
このわずかな隙が、美織が最も欲しかった一瞬。直希が見ていない状況で、自分の体を自分の神通力で撃ち出すという、高度な技をやってのける。瞬時に美織の体は直希にぶつかり、押し倒した。
「な、何だいきなり…?」
見ていなかったので直希には、何が起きたのかがわからない。
「調子に乗らないことね…」
そしてすかさずパンチを彼の顔に打ち込む。積年の恨みがこもった拳が、直希の頬を打ち抜いた。
「こ、この…!」
立ち上がろうとしたので、美織は自分の足を後ろに撃ち出して彼の膝を崩す。
「や、やめろ!」
「それでやめると本気で思うワケ?」
だがここで直希は急に、
「僕だって本当は、あれ以上君を傷つけたくないんだ。でも手加減しましたでは、仲間に合わせる顔がない…。だから仕方なく君に手を挙げないといけないんだ……」
真顔でそう言い放った。涙に訴える作戦か、それとも本心か。
「奇遇ね? 私もあんたのことを少しは許してやってもいいかと思ってたわ」
美織は拳を止めた。そして直希に手を差し伸べて彼を立ち上がらせる。
「でもね………思っただけ。許すわけない!」
だが、それは美織の作戦。一度立ち上がらせて、そして直希の体を遠くに撃ち出すのだ。
「ぐわあっ!」
「…ううっ!」
同じことを直希も考えていたようで、二人の体は反発するマグネットのようにお互いに反対方向へ吹っ飛んだ。美織は上手く着地したが、直希の方は運がよく、茂みがクッションの代わりになった。
「そうそう! これからだよね…! あんなに早くに終わらせないよ、美織! もっと楽しもうじゃない…!」
「別に…。あんたと一緒に何かやっても、全然面白くないわ…」
二人の戦いは振り出しに戻る。
陵湖は、苦戦していた。果叶が自分の神通力について何も説明を加えないために、原因がわからずただただ、敵わない相手と組み手をしているのだ。
(また、だわ…。私の拳の方が速く繰り出せてるはずなのに、それが果叶に届かない。逆に後から動く果叶の方が、私よりも速くて重い攻撃を加えられる…。この謎を解かないと私に勝ち目はない…?)
だが陵湖は諦めない。ポケットに手を突っ込んで別次元から果物ナイフを取り出す。足りない力量は武器で補うという発想。
「わわ、そんなの振り回したら危ないですよ…!」
「関係ないわ、もう!」
乱暴にナイフを振っていると、果叶が攻撃をやめて距離を取った。
(…ということは、ナイフに対して使える神通力ではない…?)
その通りだ。果叶の身体能力は上昇しているとは言っても、武器に対して強度が上がっているわけではない。もしナイフを止められなかったら、肉体は簡単に切り裂かれてしまうのだ。そして予測不可能な、ランダムな動きはそれを可能にしてしまえる。そう考えると彼女は、ここはナイフを叩き落とす術を考えなければいけない。
急に、パン、という音がした。どうやら銃声であるらしく、いつの間にか陵湖が拳銃を握っており、銃口からかすかに煙が伸びている。
「あ、危ないじゃないですか…!」
間一髪、果叶はそれを避けた。と言うより、陵湖の狙いは正確ではなかったので、当たらなかったのだ。
「うぐぐ……」
「それでお終いでしょうか? では今度は私から行きま……」
もう一度神通力を使って重ね掛けをすれば、もう陵湖は相手ではない。だから果叶はそうしようとした。だが、急に煙をまとった何かが陵湖の体の横を通ると彼女の体をさらっていく。
「一体何でしょう?」
それは絢嘉であった。
「ど、どうしたの絢嘉?」
「ごめん陵湖! 遥に全然敵わなくて…!」
絢嘉は煙の中で、必死に謝る。その時陵湖は何かを思いつく。
「じゃあ、相手を入れ替えようよ。絢嘉は果叶の相手をして! 遥は私がやっつける!」
「本当に?」
「大丈夫よ、心配しないで。でももっと煙を膨らませて!」
「わかった! 絢嘉、陵湖のことを信じるよ!」
絢嘉はさらに煙を焚いた。
「くらいなさい…」
エアガンを彼に向け、撃つ。だが反応できない速さではない。直希は綺麗に避ける。
「そんなの使うなんてちょっと、ズルくない? 正々堂々と自分の手だけで戦おうよ? それとも自信がないのかい?」
「あんたには言われたくないわ…」
美織からすれば、神通力を工夫して活かすことは当たり前。それをしようとしない直希を見ているとイライラするレベル。
「僕にも貸してよ!」
今度は直希の方から仕掛ける。接近戦を挑み、美織のエアガンを奪い取ろうと手を伸ばす。
「触るな」
しかし、美織はエアガンで思いっきり直希の頭を殴った。
「……やってくれるね…! こうなったら容赦しないよ?」
それから美織は銃口を直希に向け、至近距離で発砲しようとするが、
「…壊れた…?」
力を入れて叩きつけたせいか、弾を撃ち出せない。
「なら…」
これを神通力を使い、撃ち込むのみ。素早くそして手首のスナップを効かせて、直希に向けてエアガンを投げつける。
「うぐえええ!」
それは腹に命中した。その様子を見て美織は、
(何故避けない…?)
当てれたことよりも、避けなかったことに疑問を感じる。
「ちょっとさ、馬鹿……じゃないの? これ、まだ使えるだろう? 腹はめっちゃ痛いけどさ」
そう、彼はワザとエアガンを体で受けたのだ。そうしなければ、美織の神通力では、撃ち出された物はどこまで飛んで行くかわからない。エアガンを確保するためには、身を張ってキャッチするしかないのだ。
そして直希はエアガン分解し始めた。弾倉にはまだ大量のBB弾が残っている。
「……しまった!」
これが直希の狙いだ。この一発一発の小さな弾を、美織に向けて撃ち出す。直希は全て当てようとは思っていない。この中のどれかが当たればいい、そういう発想だ。
「……くうっ!」
そして一発が美織の腕に命中。激しい痛みがそこから全身を駆け巡る。そうしている間に、二発、三発と彼女の体を襲う。
「もしかして! 僕の方がこの神通力を使いこなしてるんじゃないかな? はは、だとしたら気分がいいよ……美織、君が無様にボロボロになっていくのは面白いじゃん!」
「コイツ……」
痛みを耐えながら美織は、何かないかと考えていた。この状況を突破する方法が何か、ないか…。
「仕方ないわ…」
そして苦渋の決断を下す。指先を歯で傷つけ、血を出すとそれを撃ち出した。
「うぶっ!」
威力には期待できそうにない。だが、働きは期待通りだ。直希の目に当たったので、簡単な目潰しができた。
このわずかな隙が、美織が最も欲しかった一瞬。直希が見ていない状況で、自分の体を自分の神通力で撃ち出すという、高度な技をやってのける。瞬時に美織の体は直希にぶつかり、押し倒した。
「な、何だいきなり…?」
見ていなかったので直希には、何が起きたのかがわからない。
「調子に乗らないことね…」
そしてすかさずパンチを彼の顔に打ち込む。積年の恨みがこもった拳が、直希の頬を打ち抜いた。
「こ、この…!」
立ち上がろうとしたので、美織は自分の足を後ろに撃ち出して彼の膝を崩す。
「や、やめろ!」
「それでやめると本気で思うワケ?」
だがここで直希は急に、
「僕だって本当は、あれ以上君を傷つけたくないんだ。でも手加減しましたでは、仲間に合わせる顔がない…。だから仕方なく君に手を挙げないといけないんだ……」
真顔でそう言い放った。涙に訴える作戦か、それとも本心か。
「奇遇ね? 私もあんたのことを少しは許してやってもいいかと思ってたわ」
美織は拳を止めた。そして直希に手を差し伸べて彼を立ち上がらせる。
「でもね………思っただけ。許すわけない!」
だが、それは美織の作戦。一度立ち上がらせて、そして直希の体を遠くに撃ち出すのだ。
「ぐわあっ!」
「…ううっ!」
同じことを直希も考えていたようで、二人の体は反発するマグネットのようにお互いに反対方向へ吹っ飛んだ。美織は上手く着地したが、直希の方は運がよく、茂みがクッションの代わりになった。
「そうそう! これからだよね…! あんなに早くに終わらせないよ、美織! もっと楽しもうじゃない…!」
「別に…。あんたと一緒に何かやっても、全然面白くないわ…」
二人の戦いは振り出しに戻る。
陵湖は、苦戦していた。果叶が自分の神通力について何も説明を加えないために、原因がわからずただただ、敵わない相手と組み手をしているのだ。
(また、だわ…。私の拳の方が速く繰り出せてるはずなのに、それが果叶に届かない。逆に後から動く果叶の方が、私よりも速くて重い攻撃を加えられる…。この謎を解かないと私に勝ち目はない…?)
だが陵湖は諦めない。ポケットに手を突っ込んで別次元から果物ナイフを取り出す。足りない力量は武器で補うという発想。
「わわ、そんなの振り回したら危ないですよ…!」
「関係ないわ、もう!」
乱暴にナイフを振っていると、果叶が攻撃をやめて距離を取った。
(…ということは、ナイフに対して使える神通力ではない…?)
その通りだ。果叶の身体能力は上昇しているとは言っても、武器に対して強度が上がっているわけではない。もしナイフを止められなかったら、肉体は簡単に切り裂かれてしまうのだ。そして予測不可能な、ランダムな動きはそれを可能にしてしまえる。そう考えると彼女は、ここはナイフを叩き落とす術を考えなければいけない。
急に、パン、という音がした。どうやら銃声であるらしく、いつの間にか陵湖が拳銃を握っており、銃口からかすかに煙が伸びている。
「あ、危ないじゃないですか…!」
間一髪、果叶はそれを避けた。と言うより、陵湖の狙いは正確ではなかったので、当たらなかったのだ。
「うぐぐ……」
「それでお終いでしょうか? では今度は私から行きま……」
もう一度神通力を使って重ね掛けをすれば、もう陵湖は相手ではない。だから果叶はそうしようとした。だが、急に煙をまとった何かが陵湖の体の横を通ると彼女の体をさらっていく。
「一体何でしょう?」
それは絢嘉であった。
「ど、どうしたの絢嘉?」
「ごめん陵湖! 遥に全然敵わなくて…!」
絢嘉は煙の中で、必死に謝る。その時陵湖は何かを思いつく。
「じゃあ、相手を入れ替えようよ。絢嘉は果叶の相手をして! 遥は私がやっつける!」
「本当に?」
「大丈夫よ、心配しないで。でももっと煙を膨らませて!」
「わかった! 絢嘉、陵湖のことを信じるよ!」
絢嘉はさらに煙を焚いた。