その⑤

文字数 3,451文字

「おいおいおい、テイアがやられただと?」

 足を止めてそう呟く。それは陵湖にも聞こえる。

「どうするの? まさか降参するって?」
「そうじゃないのだよ。これじゃあ私の報酬が跳満じゃないか!」

 その発言に陵湖は驚いた。仲間を少しも心配していない証拠だ。『歌の守護者』や『太陽の眷属』ですら、ショックを受けたり激高したりするというのに、である。

「では、早速だが始めよう! 三人がかりで来てもいいぞ~その方が手間が省けて私は助かる! さあ、どうする?」

 この時点で陵湖はまだ、ニビルの攻略法を見い出せていない。だから彼女は仲間と協力することは悪くないと考え、

「絢嘉、美織! 一緒に戦って!」

 と言った。絢嘉はさっきは嫌がったが、今度はすぐに賛成してくれた。美織は無言で頷いて答えた。

「アイツの神通力は、触れている物を爆破させること。それにさえ気をつければ…」
「でも、飛び道具は無力だわ。アイツの体に触れた瞬間、爆発してしまう!」

 ニビルの神通力は、美織にとっても相性が悪い。勢いよく物を射出しても、彼の神通力が発動すれば衝撃すら与えられないのだ。

「ねえねえ、元々爆発物の場合はどうなるの?」

 絢嘉の何気ない発言で、陵湖が閃く。

「もしかしたら!」

 可能性が生じたのなら、それに賭けてみるのは悪くない。

「陵湖、何でもいいから爆発物を私に貸して。それをアイツにぶつけてみせるわ…」

 頼まれた陵湖は手りゅう弾を別次元から取り寄せると、ピンを抜かずに美織に渡した。

「ああ~ん? その程度で私を倒せると? おいおいおいおい、舐めてもらっては困る! 私はそんなものでは殺せないよ?」

 しかし、彼女らの作戦は止まらない。美織が手りゅう弾を撃ち出した。

「フン! そんな物の爆風で死ぬとでも? 逆に私の神通力で爆ぜるだけ。本来の機能も活かせずに無駄に…」

 ニビルが手りゅう弾に触れ、神通力を使った直後、彼の体が後方に吹っ飛んだ。

「な、何いいい~?」

 予想外の出来事だったが、上手く着地することはできた。

「効果ありね! 爆発物に神通力を使えば、爆弾としての性能が優先される!」

 これはニビル自身も気づいていない欠点だった。それは無理もない話で、彼は『惑星機巧軍』の中で爆発物の処理を担当しているわけではないのだ。だから今までにこういう状況に直面したことがなく、自分の神通力の仕様にも気づけなかったのである。

「こんなことが…あり得ない! 私の無敵の神通力に、弱点だと? あり得ていいはずがない! ゆ、夢だ! これは夢なんだ!」

 中々現実を受け入れないニビルに対し、陵湖たちは容赦なく手りゅう弾を投げつける。この爆風で神通力者なら死なないだろうが、重症は免れないだろう。

「さあ、神通力を使っても使わなくても終わりよ! 爆弾は止められないことはもうわかった!」

 トドメの一撃に、美織は陵湖が用意した機雷をニビルに向けて射出した。

「馬鹿な! こんな馬鹿な?」

 それがニビルに当たると、爆ぜる。すると一斉に足元に転がっていた手りゅう弾も爆発する。ニビルの体は吹っ飛び、近くの茂みに落ちた。

「やったあ!」

 喜ぶ絢嘉。彼女は何もしていないのだが、彼女の発言がなければ切り抜けられなかったことは間違いない。だから陵湖は絢嘉とハイタッチをした。

「……生きてはいるみたいね。無駄に丈夫な体をしているわ」

 美織は一応、ニビルの生死を確かめた。あれだけの爆発で死なないタフさに、改めて驚かされる。


「さて、これからどうするか…」

 綹羅と環は選択に迫らせていた。このまま『惑星機巧軍』の襲撃を待って返り討ちにするのも手だが、園内を彷徨って仲間と合流しておくと安心できる。

「私は、う~ん……。行くなら今しかないよ?」

 彼女には別の懸念が。それは『歌の守護者』の襲来だ。現時点では、『歌の守護者』はもうシャイニングアイランドにはいないのだが、それを彼女らが知っているはずがないので当然、警戒しないといけない。だから環は一度、仲間と落ち合おうという意見を持っている。
 だが綹羅は、

「俺は……攻めるべきだと思うぜ! 『惑星機巧軍』だろうが『歌の守護者』だろうが、目の前に立つなら倒すのみ! それに…」

 環とは違う疑問が、綹羅にはあるのだ。

「それに、ここの神通力者は根こそぎ叩いておかないと、またテロされるぞ。体育館は夜だったから被害者は出なかったけど、アレが夏休み明けの平日の日中だったら……。そう思うとやれるだけのことをやるべきだ! 因縁には決着を! それが優先すべきことだと思う!」

 その意見に環は反論しない。

「そうだね。平穏な日々が送れないのはちょっと……。ならシャイニングアイランドに隠れている神通力者を倒して、安全を取り戻そう!」

 二人がそう決心した時、パチパチと拍手をしながら二人組の男が歩いてきた。

「流石だお! その決意にワイ、感動したンゴ! なあサターン?」
「そうだな…。よくをいえば、かんぜんにあいてのいきのねをとめるぐらいまではほしい」

 平然と近づいて来るその二人は、間違いなく『惑星機巧軍』のメンバーだ。

「ワイはウラヌス! これからおまいらを始末するンゴ! 言っておくけど、拒否権はないお!」

 そう名乗った彼は綹羅を睨みつけて構えた。

「おれはサターン…。じんるいのなかでゆいいつこのちきゅうじょうにいてはいかぬあっとうてきなそんざい…!」

 隣にいるサターンというコードネームを持つ彼は、環の方を見る。

「来ちまったか。じゃあ始めるしかないようだぜ、環!」
「わかった! 綹羅、気をつけて!」

 綹羅はウラヌスを見ながら歩いて環から離れた。

「さあさあ、かかってくるお! おまいなんて十秒もいらないンゴ」

 その自信はどこから湧き出てくるのか。綹羅は疑問に思いながら神通力を使った。

「うば!」

 足元に植物の根で輪っかを作ってやったのだ。ウラヌスはそれに見事に引っかかって派手に転んだ。

「悲報…。ワイ、先制されたお…」
「よし、今だ!」

 生じた隙を、綹羅は見逃さない。一気に距離を詰めて一発で決めるつもりだ。
 だが、急に胸が締め付けられたかのように苦しくなる。心臓の鼓動もいつも以上に速い。

「うっ! 何だ? 何かがおかしい…!」

 異変に気付いた綹羅は足を止めざるを得ない。

「勘が鋭いことは褒めてやるお! これがワイの神通力…! 生物を意図的に病気にさせるンゴ! お前は適当な病気を今、患ったお! これで後は死ぬのを待つだけンゴ!」
「び、病気だと?」

 確かにこの時の綹羅の顔は、あまり良くない。気がつけば熱でもあるのか、体が熱い。それに咳も出るし呼吸が粗い。

「…何だ脅かすなよ! それは即死するわけじゃないだろ?」
「ん?」

 綹羅は自分の体に、葉っぱを生やした。

「何をしているお? 少しは自分の体の心配をした方がいいお?」

 クエスチョンマークを浮かべるウラヌスに対し綹羅は、

「光合成でエネルギーを補給した! 俺が病気でくたばる前にお前を倒せば、何も関係ないぜ!」
「わ、ワロス!」

 今回は生じたエネルギーを免疫系と疾患部に回しているため、飛躍的な身体能力の向上はない。だが、それでも綹羅は十分にウラヌスを捉えていた。

「ならば、他の病気にしてやるお!」

 そう言って、また違う病を綹羅に発症させる。のだが、病気が人を殺すには、随分と時間がかかる。ウラヌスの神通力では、その時間を短縮させることはできない。だから今度は綹羅の動きは止まらない。

「おりゃあああ!」

 まずは拳で頬を殴った。次にウラヌスの体が地面に倒れこむ前にその体を蹴り上げる。そして樹木を成長させて彼を上げ、そのてっぺんから落とす。最後に樹木がウラヌスに倒れていく。

「ち、超絶悲報……ワイの神通力、敵に通用しないンゴ………」

 ウラヌスが意識を失えば、綹羅の体の異変も全て治まる。
 環とサターンはその攻防を見ていた。

「やったぁ、綹羅! ウラヌスとかいうヤツを簡単に!」
「ばかな…。ウラヌスがこうもあっさり? われら『惑星機巧軍』がいっぱんじんにまけるだと? ありえん! ありえてはいかんのだ!」
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