第18話 千日回峰行について思うこと(なにもそこまで)

文字数 2,223文字

 私はあまり滑舌がよくないです。声も低いです。
電話で話したお客さまから、
「男か女かわからなかった」
と言われたこともあります。
それからはスイッチ入れて、声を高めに出すようにはしていますが。

 電話が好きじゃないです。
仕事で電話を取ったとき、横文字(死語?)の長めの会社名を名乗られると、はっきり言って聞き取れません。一瞬で途方に暮れます。
何度も聞き返した挙げ句、相手がイラついたり、優しい相手だと諦めて「それでいいです」みたいな雰囲気になったりします。自分でも「絶対違うな」と思いながら、電話を取り次ぎます。
でも……ノリと気分と字面でオシャレ社名を付けて、それだけにとどまらず、「みなさんご存じ」とばかりに早口で社名を告げる、相手側にも責任はあると思って自分を慰めています。

 電話をかけた際の私の説明も、神経質になってくどくなっているような気がします。
逆に焦って何かを言い忘れてしまうときもあります。
とにかく口で説明するのもされるのも、どちらも苦手です。相手にちゃんと伝わっているのかがとても気になります。文章もそうですが。
 そして電話への苦手意識で常に平身低頭(へいしんていとう)です。


 私生活でも電話は好きではないです。

 母はメールが苦手で、連絡は電話のみとなります。
母が留守電に用件を吹き込むときがあるのですが、伝言メッセージを文章に起こしたものを見てみると、超シュール実験作がアップされています。
今後、小説でどんな突飛(とっぴ)な発想をしたとしても、母の作品には絶対かなわないでしょう。なに言っているのかわかりませんよね。流してください。

 母へ電話をかけ直すと、用件が終わってからも話があちこちして長くなります。そのメイン用件ですら、困ったことになにが言いたいのか掴めないときもあります。
「ちょっとよくわからない」と言うと「おまえは冷たい」となるので、雰囲気で流すようになりました。
そして母は、私が実家の町内会メンバーに興味があると勘違いしているみたいです。
やっぱり電話は疲れる。


 とにかく電話が好きでは無いのです。クレーム電話対応なんかは苦行と思っています。

 苦行といえば、千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)ですよね。(大脱線)
みなさんご存じですか?
比叡山延暦寺で行われる、すべての修行が終わるまで7年かかる荒行(あらぎょう)。小学1年生が中学1年生なっちゃうね。(奈良県吉野山の大峯千日回峰行もありますが、今回は古くからある比叡山を紹介します)

以下はその荒行の内容です。

① 1~3年目は年に連続100日間行う。
寺でお勤めをしたあと、午前2時に出発。真言を唱えながら比叡山の礼拝場所(260箇所ほど)30㎞を6時間かけて巡拝する。

② 4~5年目は同じく30㎞を年に連続200日間行う。

③ 700日を経過すると、「堂入り」
無動寺明王堂にて9日間にわたる断食、断水、断眠、断臥で1日10万回真言を唱え続ける。

④ 6年目は、これまでの行程+京都赤山禅院(せきざんぜんいん)への往復。1日60㎞の巡拝を連続100日間。

⑤ 7年目は、前半100日間は全行程84㎞の京都大廻り。
後半100日間はもとに戻って比叡山30㎞を巡拝して終了。

⑥ (その後、希望者は)100日間の五穀断ち(米・麦・粟・豆・稗、塩・果物・海藻類の摂取禁止)の後、7日間の断食・断水で「十万枚大護摩供(おおごまく)」(別名:火あぶり地獄)を行う。
そして京都御所に土足参内(どそくさんだい)し、加持祈祷。

 途中で行を続けられなくなったときは、自害するルール。
そのため白装束で「死出紐(しでひも)」「降魔(ごうま)の剣」「六文銭」「埋葬料10万円」を携帯して行う。


 これを読んだとき、正直「なにもそこまで……」って思ったんですよね。
そこまでして山の中歩き回らなくても、失礼、巡拝しなくても。台風きたらどうするの?

 人里に降りてきてボランティアでもやった方がいいんじゃないの? もっと人と絡んで泥にまみれた方が修行になるかもよ? だって社会に対する貢献度がよくわからない。自己満足? お墨付きがあると、加持祈祷に(はく)がつく?
……アスリートと考えればいいのかな? 一人箱根駅伝? トライアスロン? 

 堂入りした際には、過酷さ故に血尿とか出るそうですが、医者はお堂に入れないので治療できないのだそうです。
せっかく健康なのにわざわざ体を痛めつけて、それって命の無駄遣いじゃないの?


 それだったら、一昔前のブラック企業の営業の方が、よっぽど千日回峰行していると思う。肉体だけでなく精神の削られ方含めて。
天候にかかわらず毎日足を棒にして営業に回って、行く先々で冷たくされて、数字が作れず上司から詰められて、家に着いたら深夜で、休みの日も呼び出されて。連続200日間どころの話ではない、365日気が休まらない。これこそが苦行。
給料は発生するけど、ぜんぜん見合わないと思う。今でもそういう企業はあるのかな、形を変えてあるだろうな。

 千日回峰行をしているお坊さんは大変だとは思うけど、相手するのは自然ですよね。
現世で餓鬼道(がきどう)に落ちているような人、落ちそうな人って割といるから、そういう人を相手に修行してもいいんじゃないかな。それか声を上げないけど、窮地に立たされている人を救うような修行。


 みなさんも毎日お坊さんに引けを取らず、千日回峰行をしていると思いますよ。
収入のためとはいえ、絶対になにかしら苦行をしているはずですから。もちろん、子育て、介護、病気を抱えている人もです。
たまにプチ解脱しそうな瞬間があったりしませんか?

 今週もお疲れさまでした。


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