第17話 式貴士先生から年賀状がきた話

文字数 1,347文字

 小学生の頃、図書館で借りたのかな? 私はSF作家の式貴士先生の『虹のジプシー』という小説がいたく気に入りました。

 詳細は忘れてしまったけど、恋人が何度も転生をして巡り会う話だったような。転生先は異星だったような。えーと、悲恋から始まって、詳細は忘れてしまったけど、ハッピーエンドだったような。要するにロマンチックSFです。
そして作者のあとがきが長くて面白かった。
手元に置きたくなって、私は町の大きな本屋に行き、貯めていたお小遣いで買いました。

 で、巻末にファンレターの送り先が載っていて、なんのためらいも無く出したんですね、人生初めてのファンレターを、式貴士先生に。
なんかロマンチックな内容とペンネームのスマートさに、きっと若くて細身のカッコいい先生なんだろうな……と勝手にイメージして。

 なにを書いたんでしょうね。でも小学生の書くことなので()して知るべし。
「私は小学生です。初めてファンレターを出します。こういう小説は初めてで、とても面白かったです。特にこの章が好きです。とても素敵だなと思いました。あとがきもよかったです」
とかでしょうね。便せん2枚くらいは書いたはず。最後、「これからも頑張ってください」とか書いたのかな。

 そしたらね! なんと、お正月に式貴士先生から手書きの年賀状が届いたんですよ!

 びっくりしてコタツで何度も読み返しました。

 小さく丸まったクセ字で、
「小学生の女の子ということに驚きました、年齢の低いファンは貴重です、大切にしないと、これからもよろしくお願いします」
要約するとそんなようなことが書いてあって。あとなんて書いてあったかな。わりとビッシリ書いてあったような気がする。(←私のあてにならない記憶)

 はっきりしているのは、「あけましておめでとう」みたいなありきたりなことは一切書いていなくて、それが妙に嬉しかった。社交辞令で誤魔化していない、というのが伝わって。

 クセ字の雰囲気と、話し言葉みたいな表現で、なんとなく(かす)かに笑っているような印象の文章だったんですね。笑い方としては、オタクが笑っているような……。

 ああ、あのはがき! 大切に保管しておけばよかった!! 

 小説家って雲の上のイメージだけど、親しみやすい先生なんだな、と思いました。

 私は嬉しくなって式貴士先生の本を少しずつ買おうと思いました。
お年玉を持って本屋さんに行って……。

 ……実は、式貴士先生の作風は、私が求めたリリカルなロマンチックSFだけじゃなかったんですよね。強烈なエログロ猟奇ナンセンスSFのバリエーションもあって……。

 代表作(?)のグロい『カンタン刑』はさほどダメージは受けなかったのですが、他のSMテイストのエロが……もう大ショックで……。私の性癖を歪めましたよね。
(雲の上に向かって)先生のバカ-! 


【余談】
 『虹のジプシー』ネタバレを確認したら、主人公がテレポート・マシンで地球によく似た星々を巡る話だったみたいです。
 あと好きだったと記憶しているのは『窓鴉』だったような。でもその内容は忘却の彼方です。
記憶って本当に当てにならないものですね。
でも先生(みずか)らのあとがきは毎回充実して面白かったのは、よく覚えています。
 プロの作家にファンレターを出したのは、この1回限りです。


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