第41話 朝ドラ『カムカム』初代ヒロイン安子が苦手

文字数 2,068文字

 朝ドラ『カムカムエヴリバディ』終わってしまいました。とても面白かった。
これから個人的な感想を呟きたいと思います。

 正直、私は初代ヒロイン安子(やすこ)が苦手です。
 ひたむきで純粋、そしてすぐに思い詰める。私にはエキセントリックな恋多き女、子どもを振り回した挙げ句に失踪し、育児放棄した無責任な人間と映りましたね。
 戦争がすべての歯車を狂わせた的なナレーションで、それはその通りなんだろうけど、「安子が感情で動いたせいだろ」と。


 安子が女の子”るい”を出産し、出征(しゅっせい)した夫の訃報(ふほう)が知らされる。安子は義両親から再婚を勧められると、”るい”と引き離されると不安定に。
亡夫の弟(←これまた考え無し)も「るいを連れて家を出た方がいい」と資金援助で後押し。すぐに幼い”るい”を連れ、生まれ育った岡山を飛び出し慣れない大阪へ。

 ……戦争が終わったばかりですよ? 無謀としか言いようがない。

 このドラマは、安子の目に映る明るい部分だけを可視化しているように感じる。裏側は見せない。

 古い家を借りた安子は、芋飴(いもあめ)やおはぎを作り”るい”を連れて売り歩くのだけれど、無理からスタートしているため、常に破綻のフラグは立っている。
 安子は辛い境遇にも健気に振る舞うが、その生き様は痛い。


 ある日、義父が安子を探し当て訪ねてくる。
「るいに雉真(きじま)の人間として教育を受けさせたい」
義父は落ち着いた物言いをするけど、悲痛な叫びのようだった。

 義父は雉真繊維(きじませんい)という大企業の社長。
大事な孫が底辺生活をしている。優秀だった長男の血を引く孫。身悶えするよね。このとき私は義父に感情移入したな。
 しかるべき教育、それこそが全編で繰り返されるテーマ「ひなたの道」じゃないのか。安子と運命をともにしたら、小商いに忙殺(ぼうさつ)されるだけだ。

 結局、安子は疲労により朦朧(もうろう)とした挙げ句の交通事故で、るいの(ひたい)に大きな傷を作ってしまう。自分も骨折しゲームオーバー。
嫁ぎ先である、岡山の雉真の家に再び戻るのだ。


 で、またすったもんだあっての問題シーン。
 実家の和菓子屋再建の資金を持ったまま消息を絶った、トラブルメーカーの兄を探しに安子は大阪へ。”るい”の小学校の入学式前日のこと。
 雨の中力尽き路上に倒れる安子。
偶然、親しいローズウッド中尉に発見され、介抱してもらう。翌日目が覚めると抱きしめられプロポーズ。

 エキセントリックな女性はモテますよね、私の持論ですが。

 そのとき、母親がローズウッド中尉と抱き合うシーンを、大阪まで安子を探しに来た”るい”が目撃してしまうのだ。

 そして、”るい”が安子に放った「二度と会いとうねぇ」、額の傷を見せながら「I hate you(大嫌い)」

 ……子どもが親に対し、一時の感情をぶつけることってありますよね。
感極まって真意とは別のことを言ってしまうこともある。

 安子は、6~7才の”るい”の言葉にショックを受け、そのままローズウッド中尉と渡米してしまい、まったくの音信不通になるんですよ! えっと、40年くらい?

 ありえない、ありえない。
「るいのためにはそれが一番いいと思った」とか言っているようだけど、詭弁(きべん)だな。
子を捨てて恋愛を選ぶために、”るい”の言葉を利用したと考えるのは穿(うが)ち過ぎますか?

 この朝ドラ感想文、1000字以内で収めるつもりだったけど、全然止まらないな。

 安子と兄が天真爛漫に振る舞う影で、歯車がずれたのは自分の一言のせいだと真面目な人が気に病んでいるんですよね。”るい”しかり、雪衣さんしかり。違うから!

 そういえば安子は、雉真の財力に頼らず貯金をして、”るい”の傷を治すんだと気張(きば)っていた。なのにアメリカでキャスティングプロデューサーとして成功しても、一切”るい”への仕送りが無い。”るい”の養育を丸投げ。そこも許せないポイント。
 あんなに「るい……るい……」と執着したのに、一方的に縁を切り逃げだし姿を消す、この振り幅……ひょっとして毒親?

 ”るい”は母親から見捨てられたと感じただろうな。
そういう背景があるから、まったく生活力の無い優しいだけのダメ男、錠一郎(じょういちろう)と結婚したのかも。
 自分を頼ってくれて自分を必要としてくれる男。錠一郎から依存され、尽くすことで居場所を見つけられたのではないか。

 安子は年老いてからも逃げる、逃げる。滑稽なほどに子どもや孫から逃げ惑う。
”るい”の娘、”ひなた”が追いかけ捕まえ、クリスマスジャズコンサートでようやく親子の対面を果たす。

 ”るい”の万感(ばんかん)の思いが(あふ)れたあの演技と歌は圧巻だった。
安子の気を引きたくて「I hate you」と言ったあのときの運命の齟齬(そご)を修正するため、
「I Love you」
と言い直した”るい”。
安子からの謝罪は無い。ただ涙をこぼすのみ。
最後までちゃんと向き合っていたのは、やはり”るい”の方だった。

 毒親と子どもの立場は逆転する。
毒親はいつまでも無邪気なままで、子どもの方が大人にさせられるのだ。

 夢中になって語ってしまった。2000字越えてしまった。
それくらい毎日楽しみにしていたのは確かです。


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