第5話 闘病生活のブログを書けと言った話

文字数 857文字

 兄は悪性の褐色性細胞腫(かっしょくせいさいぼうしゅ)という難病を抱えている。
1年間で新たに診断される人が、10万人あたり1人いるかいないかという非常に珍しい病。

 あまりに珍しくて病名にたどり着くまでに、かなりの時間を要した。
治療前までの症状としては、常に全速力で疾走(しっそう)しているかのような動悸(どうき)、頭痛、高血圧、激しい倦怠感(けんたいかん)
 確かに兄はいつも「疲れた~疲れた~」と大きなため息ばかりついていた。
そう言いながらも兄はいつも夜更かししてゲームをしていたので、私は単なる口癖だと聞き流していた。


 兄はその治療法として、ガンの摘出(てきしゅつ)手術を2回ほど行っている。術後はひどい有様だった。転移した場所がリンパの近くで大変だったらしい。
 現在は、住まいからけっこう離れた金沢市まで行って、放射線治療を2回ほど受けている。
日本にはその装置が3箇所しか無いらしい。開腹手術に比べたら桁違(けたちが)いに楽になったようだ。ただし費用も桁違い。
その放射線一発1回目300万円、2回目以降150万円の費用は、母が負担している。

 兄のお嫁さんから聞く、放射線治療の体験がなかなか珍しい。
被爆(ひばく)するので、病院ではものすごく厳重に隔離(かくり)されて過ごしたり。家族もしばらく触れあえないし。
それで私は兄にこう言った。

私「病気の経過と治療をブログにしなよ。それか投稿サイト。こういう珍しい病気は、ささいな情報でも欲しい人はいるはずだよ」

兄「書けない」

私「上手に書こうとしなくてもいいんだよ。時系列(じけいれつ)で事実を書いていけば、リアルな記録になるんだから」

兄「めんどくさい」

私「自分の体験が誰かの役に立つかもしれないんだよ。とにかく情報が少ないんだからさ。それに書いていけば、自分もいろいろ整理できるし」

兄「無理、めんどう」

私「ゲームをする時間はあるんだろ? その時間の一部を」

兄は無視して立ち去った。


 小手先(こてさき)のベタなお涙頂戴を排除して、淡々と記録を()せていく朴訥(ぼくとつ)な文章って、迫力あっていいような気がするんだけどな。

(つら)いときこそ文章を書いて吐き出せば、精神安定剤代わりになると思うんだけどなぁ。

それは私達だけですか。



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