第16話 救急車を呼びそうになった話

文字数 1,591文字

 職場で人間関係のトラブルに遭ったことがあります。パワハラというか、いじめというか。
その内容は書く気にはなれません。主観が入って上手く書けないし、「そのくらいのことで」と思われるかもしれないし……。


 継続的で良好だったはずの人間関係が、ある日突然(くつがえ)される。そんな予定調和の破綻は、4年前の5月でした。
これはまずい、このままでは壊されると思い、自律神経失調症ということで係替えをしてもらい、窮地を脱しました。
そのときの感覚を体が覚えていて、毎年5月6月には背中と首筋がこわばり、ときに熱くなり頭痛がします。体は記憶するんですね。

 係替えの前、実際にメンタルが追い詰められていたのですが、変な見栄で、
「メンタルを理由にして、休んだりしたくない」
と思いました。そういう人というレッテルは、ずっとつきまとうと感じたのです。

 メンタル以外の、なにかわかりやすい病気、しばらく自宅療養できそうな病気はないか。


 そのとき、自律神経がおかしくなっていたので、右手が震えていました。ずっと考えがまとまらないし、頭は痛いし、力が入らない。喋るのもしんどい。
もしかして脳に異常があるのではないか? もしかして軽い脳梗塞とか、一過性脳虚血発作とか? なにかほんの少しでも異常があれば、大手振って仕事を休める。
私は職場に「頭痛で病院に行くので、一日休みます」と連絡を入れました。

 脳神経外科へ行き、症状を(少し大袈裟に)訴えて脳のMRIを撮りました。
診察の際には「よく無事でここまで来られましたね」と優しく心配してくれた先生でしたが、結果を見て、
「とってもきれいな脳です。まったく異常はありませんでした」
と少々冷めた目で言いました。
いや仮病じゃないんですよ、たしかにそういう症状あるんですよ……。

 でもそこで思い知りました。
自分は本当は健康なのに、自分で自分を病気に追い込んでいる。

 私は観念して、その足で心療内科に行き診断を受け、薬をもらいました。
このときの診察の一部は『心療内科に行ってみた』に書きました。


 私は自宅に戻って夫の帰りを待ちました。
そして最後のあがきともいうべきアイデアを、夫に打ち明けたのです。
最後まで自律神経失調症を認めたくなくて。心の弱い人がかかる病気のような気がしていたのです。

私「明日の朝、私が頭が割れるように痛いって言って、救急車を呼んでくれないかな。救急車で運ばれれば、原因不明でも会社をしばらく休めるでしょ。いじめにあっていて無理なんだよ」

夫「ええ? 俺が呼ぶの? じゃあ俺も会社休まなくちゃいけないの?」
私「病院に着いたら会社に行ってもいいよ」

夫「でも仮病なんでしょ?」
私「……体調は悪いんだよ」

夫「会社遅れていくのは別にいいけどさ、上手くいくかい? 嘘とか演技できないでしょ」

確かにそうだった。

私「そうだね。それに万が一、本当の急病人がいて、私が割り込んだせいでその人が手遅れになったらまずいよね」
夫「そうだよ」
私「やめた方がいいね」

 そのアイデアは却下となりました。今思い返すと、相当混乱していましたね。
夫はお調子者で軽いのですが、このとき頭ごなしに否定せず一応は取りあってくれたので、それは今でも感謝しています。

 結局会社には、そのまま病名を伝え係替えをしてもらいました。
私の職場は管理職も中堅も新人も鬱の病休者が多いので、これ以上増えてはまずいと思ったのでしょう。


 そこで私が言いたいことは二つ。

 一つ目。
逃げるときはカッコ悪くてもいいから、サッサと逃げること。
見当違いな我慢や努力は禁物、見切りをつけるのは早いほうがいい。心身に影響が出る前に。
けっこう後遺症は残りますから。忍耐は美徳ではないと思うのです。

 二つ目。
本当ならいじめる側にこそ治療を受けてもらいたい。
まったく自覚は無いだろうけど、病んでいるのはあなたの方ですよ。
今は別の人をいじめているそうですね。


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