第49話 「小さい冬」が見つからない

文字数 975文字

 
 目隠し鬼さん 手のなる方へ 
 すましたお耳に かすかにしみた
 呼んでる口笛 もずの声

 お部屋は北向き くもりのガラス
 うつろな目の色 とかしたミルク
 わずかなすきから 秋の風



 「小さい秋みつけた」の歌詞が好き。
特に2番、お部屋は北向きくもりのガラス、うつろな目の色とかしたミルク。
曲調と相まると呪文じみて、魂が歌詞に吸い込まれる。お部屋に取り込まれる。


 花や緑がいっせいにほころぶ春、蝉が鳴くほどに静まりかえる夏、金木犀の香りが道にこぼれる秋は一瞬で通り過ぎ、冬がやってくる。

 冬はずっと続くように感じるから、好き。落ち着く。
冬が巡ると、自分を取り戻したような感触を得る。

 曇天の下、手袋をして自転車をこぐ。帰るころには夕闇に包まれ、星がまたたく。家のドアの前で、しばし星を仰ぐ。
 ベテルギウスは500年前の光。
500年前、私の欠片(かけら)はどこにあったのだろうか。生生流転(せいせいるてん)した末に、ここに流れ着いたような、そんな錯覚に酔う。
私はひとり、私はひとりじゃない。


 冬が好き。私の「小さい冬」を探してみる。思いつくまま羅列。


 歯医者の出窓のシクラメン
 曇りの日、柚子ジャム作り
 霜枯れ、木枯らし、揺れる菊
 裏鬼門、まばらな南天の実
 廃家(はいおく)に咲く山茶花(さざんか)のひたむきさ
 夜空にゆるやかに伸びて沈殿する電車の音
 ヒイラギにピラカンサに、降り積もる雪
 花屋に並ぶ葉牡丹、千両、万両
 信号機を見上げると風花
 天気予報を見てあなたを案じる
 除夜の鐘、初詣の足音


 小さい秋のメロディーにあてはめてみる。


 見上げる信号 舞う風花
 夕闇駆け足 家路を急ぐ
 淡く(とも)る山茶花よ

 凍てつく夜空に またたく星よ
 遠くで聞こえる 夜行列車
 紅茶にジャムをひとすくい


 しっくりこない。
だいたい、紅茶にジャムを入れたのなんて、中学生の頃に2、3回ほどだよ……
10時半を回ると眠気で頭が働かなくなるので就寝。

 次の日。


 夕闇駆け足 家路を急ぐ
 遠くで(にじ)むは 赤信号
 風花どこから飛んできた

 冴える夜空に またたく星よ
 かすかに聞こえる 夜行列車
 あしたの支度(したく)を整える
 

 やはりしっくりこない。如何(いかん)ともしがたい。
「赤信号」を「山茶花か」にするか迷ったり。
『小さい秋みつけた』歌詞の、はまり具合の凄まじさを感じる。

 私の『小さい冬』は見つかりませんが、きりがないのでこの辺で。

 みなさま、よいお年を。


 


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