第56話 大家さん、ありがとう 【追記あり】

文字数 1,353文字

 息子がアパートを3/20に退去しました。
まだ卒業じゃありません。この4月から大学院2年生で、あと1年あります。
学部卒で先に就職していた彼女と同棲するのです。

 いきさつはというと、息子が彼女のアパートに入り浸り、実質同棲状態だったこと、彼女の両親もOKしたこと、2月に都内企業の内定をもらったことなどから、まあ、いいかな、と。

 実は折に触れ、息子と彼女から同棲を認めて欲しいと要望を受けておりました。
そのたびに「もうちょっと待て」「彼女の仕事が落ち着いてからにしたら?」と、のらりくらり受け流していたのです。

*****

 アパートの退去連絡や手続きを息子に任せると、程なくして不動産会社から解約の書類が届きました。
書類に署名捺印し投函すると、今までお世話になった大家さんに一言お礼がしたくなり。


 大家さんは私の少し上くらいの女性です。
ロングヘアで華やかな美人、バイタリティ溢れる資産家。学生アパートを3棟所有しています。
 アパートを契約した時、大家さんが車で周辺をぐるっと案内してくれたんですよね。
「ここがドラックストア、ここがスーパー、天文台、市場、お弁当屋さん、コインランドリー」というように。

 あの時通った桜並木が続く道路、花弁が無数に舞い踊る景色は、今でも鮮明に覚えています。


 大家さんのポリシーで、家賃は現金払い。
毎月月末までに、学生さん(入居者)が大家さんの自宅(豪邸)に届けます。

「毎月あの子たちの顔を見て、話して、チェックします。あれ? おかしいなと思ったら私はズバズバ言いますし、連絡します」

 息子から聞いたのですが、実際、入居者の学生が(大家さんから見て)お勧めできない女の子と一緒にいるのを目撃したとき、その学生に「あの女の子はちょっと」とか言うそうです。
それを学生が親に言い、その親から大家さんにクレームがきたこともあったそう。

 思わず笑ったけど、学生さん、親にチクるかね。そして親も文句言うかね。
私なら、妙な女の子とつき合っているのかとそっちの方が心配になるけどなぁ。

 今では絶滅危惧種のような大家さんですが、私は心強くて有難かったです。

*****

 大家さんへ電話しました。
「急に退去となってすみません」

「いえいえ、何度か(息子)君から状況を聞いていましたから。隣の部屋の子も、(息子)君ほとんど居ないって言っていたし」
 さすが大家さん把握済で。

「よく彼女と一緒に歩いているのを見かけたの! あの子なら大丈夫よ」
「大家さんのお墨付きをもらったので、安心しました。今まで本当にありがとうございました」


 旦那に「同棲認めたから、で、アパートも解約したから」と事後報告。
「ええぇ? 認めちゃったの~!?」(旦那は当然反対派)
 一瞬だけ騒いで、すぐ風呂場に行きました。


 桜並木の画像がないので、サクラソウを


【4/12 追記】
 お財布の中から、息子のアパートの合鍵が出てきました。万が一なにかあったときに備え、作っておいたものです。

 退去後、あの部屋の鍵は変えただろうから、この鍵に合う鍵穴はもうこの世に存在しない。それでもすぐに捨てるのは忍びない。
息子が一人暮らしを始めた日の、別れ際の情景がまだ宿っているから。


 そしてしばらくしてから、「これどこの鍵だっけ?」となるのかもしれませんが。

 

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