第51話 ムーンライダーズ『DNT’T TRUST OVER THIRTY』
文字数 1,954文字
学生の頃、金持ちで病弱な友達がいました。字面のイメージだと、線の細いお嬢様みたいですね。
出会った頃は少々ぽっちゃりしていた彼女、内臓系の珍しい病気(彼女曰 く)で痩せていき、そのタイミングでコスプレやミニスカートを楽しんでいました。
彼女、アングラも含めてロックが大好きで、アルバムをバンバン買う。そこで私は彼女からお勧めアルバムを借りました。
その中でハマって自分で購入したのが、ムーンライダーズとピチカート・ファイヴでした。
ちなみに、チャットノベル『暗礁上の詠唱』の下書き移行作業中は、ピチカート・ファイヴのアルバム『Bellissima !』『女王陛下のピチカート・ファイヴ』『月面軟着陸』をBGMにしていました。
昔のアルバムだけど、センスがいいので古くならないんですよね。
代わりに私が彼女に貸したアルバムはYMOとP-MODEL。
YMOは、いくら好きなアルバムとはいえ最初にマニアックな『BGM』を貸すという愚行を。P-MODELはちゃんと考えて『パースペクティブ』を貸し、よい反応をいただきました。
ムーンライダーズには好きな曲がたくさんあります。曲名を見ると「これいいんだよなぁ、これも、あ!これも」の連続。
そのなかでも、曲名を見た途端に頭の中で曲が鳴りやまなくなるのが、
アルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』の中の、まさに「DON'T TRUST OVER THIRTY」。
訳して、「30過ぎを信じるな」。
詩の内容はというと、男には愛する妻と子どもがいて、物分かりのよさそうな愛人もいる。社会的にも申し分なさそう。
なのに、この男は失踪しようとしている!
当時十代だった私は、「なんてダメな男だろう」と思いつつも、曲に妙な爽快感を覚えました。渋い歌詞に明るくグルーヴ溢れる曲調。それがたまらない。
後になって、リーダーの鈴木慶一が鬱病を患っていたことを知りました。
そうなるとこの曲は、台風のように迫りくる鬱の気配に、抗 えない男の歌に聴こえてきます。
「24時間砂を食べていたい」「そっと枕木に腰を下ろしたい」
願望です。要するにもうなにもしたくない。
鬱病は再発しやすい病。男の所作にやや余裕がみえるのは、初めてじゃないのかもしれません。
最近、Vegan 飲食コンサルが、
「鬱病を改善するには、薬をやめて、お風呂に浸かって、散歩・運動をして、良質な食事をして」とツイートして医者から顰蹙を買いました。
鬱病というのはそういう次元ではない。脳がうまく働かなくなっている状態。ひどいときは動けないものであると。
多分、ヴィーガンコンサルが対象にしたのは「抑うつ状態の人」だったのかもしれません。が、このあたりは明確にして発信しないといけないと思います。
話を戻して。
十代の自分は、鈴木慶一が鬱であることを知らなかったのに、ダメな男の歌にどうして惹かれたのだろう。
「自由」のようなものを感じたのかもしれない。
ダメになる自由、間違いを選ぶ自由、不幸を選ぶ自由。それを含めての人間の愚かしさ?
言葉を連ねれば連ねるほどに、曲から遠ざかるなぁ……
開き直ってひとことで言えば、大人でカッコいいんです、曲調も。
**********
『DNT'T TRUST OVER THIRTY』
昨日の朝 トーストを食べて 子供に言った パパは帰らないよ
外は寒く 吐く息は白いよ
いつか贈るよ 小さな手袋 きみはわがままをそれで包み込め
一生今のパパの気持ちが わからなくてもいいから
昨日の夜 ちょっとしたバーで 彼女に言った ぼくはいなくなるよ
そして冬は 瞳に流れた
彼女の夕暮れはいつでもブーツに 涙をあふれさせてやって来た
ぼくはけものみたいにやさしく 今まで抱きしめていたつもりさ
Don’t trust anyone over thirty
憎むよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
悲しむよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
怒りよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
嘆くよりも先に
おとといの夜 行為を終えて 女房に言った きみを愛してる my love
だからぼくの好きにさせてくれ
冬の海まで車をとばして 24時間砂を食べていたい
長い線路をひとり歩いて そっと枕木に腰をおろしたい
Don’t trust anyone over thirty
憎むよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
悲しむよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
怒りよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
嘆くよりも先に
出会った頃は少々ぽっちゃりしていた彼女、内臓系の珍しい病気(彼女
彼女、アングラも含めてロックが大好きで、アルバムをバンバン買う。そこで私は彼女からお勧めアルバムを借りました。
その中でハマって自分で購入したのが、ムーンライダーズとピチカート・ファイヴでした。
ちなみに、チャットノベル『暗礁上の詠唱』の下書き移行作業中は、ピチカート・ファイヴのアルバム『
昔のアルバムだけど、センスがいいので古くならないんですよね。
代わりに私が彼女に貸したアルバムはYMOとP-MODEL。
YMOは、いくら好きなアルバムとはいえ最初にマニアックな『BGM』を貸すという愚行を。P-MODELはちゃんと考えて『パースペクティブ』を貸し、よい反応をいただきました。
ムーンライダーズには好きな曲がたくさんあります。曲名を見ると「これいいんだよなぁ、これも、あ!これも」の連続。
そのなかでも、曲名を見た途端に頭の中で曲が鳴りやまなくなるのが、
アルバム『DON'T TRUST OVER THIRTY』の中の、まさに「DON'T TRUST OVER THIRTY」。
訳して、「30過ぎを信じるな」。
詩の内容はというと、男には愛する妻と子どもがいて、物分かりのよさそうな愛人もいる。社会的にも申し分なさそう。
なのに、この男は失踪しようとしている!
当時十代だった私は、「なんてダメな男だろう」と思いつつも、曲に妙な爽快感を覚えました。渋い歌詞に明るくグルーヴ溢れる曲調。それがたまらない。
後になって、リーダーの鈴木慶一が鬱病を患っていたことを知りました。
そうなるとこの曲は、台風のように迫りくる鬱の気配に、
「24時間砂を食べていたい」「そっと枕木に腰を下ろしたい」
願望です。要するにもうなにもしたくない。
鬱病は再発しやすい病。男の所作にやや余裕がみえるのは、初めてじゃないのかもしれません。
最近、
「鬱病を改善するには、薬をやめて、お風呂に浸かって、散歩・運動をして、良質な食事をして」とツイートして医者から顰蹙を買いました。
鬱病というのはそういう次元ではない。脳がうまく働かなくなっている状態。ひどいときは動けないものであると。
多分、ヴィーガンコンサルが対象にしたのは「抑うつ状態の人」だったのかもしれません。が、このあたりは明確にして発信しないといけないと思います。
話を戻して。
十代の自分は、鈴木慶一が鬱であることを知らなかったのに、ダメな男の歌にどうして惹かれたのだろう。
「自由」のようなものを感じたのかもしれない。
ダメになる自由、間違いを選ぶ自由、不幸を選ぶ自由。それを含めての人間の愚かしさ?
言葉を連ねれば連ねるほどに、曲から遠ざかるなぁ……
開き直ってひとことで言えば、大人でカッコいいんです、曲調も。
**********
『DNT'T TRUST OVER THIRTY』
昨日の朝 トーストを食べて 子供に言った パパは帰らないよ
外は寒く 吐く息は白いよ
いつか贈るよ 小さな手袋 きみはわがままをそれで包み込め
一生今のパパの気持ちが わからなくてもいいから
昨日の夜 ちょっとしたバーで 彼女に言った ぼくはいなくなるよ
そして冬は 瞳に流れた
彼女の夕暮れはいつでもブーツに 涙をあふれさせてやって来た
ぼくはけものみたいにやさしく 今まで抱きしめていたつもりさ
Don’t trust anyone over thirty
憎むよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
悲しむよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
怒りよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
嘆くよりも先に
おとといの夜 行為を終えて 女房に言った きみを愛してる my love
だからぼくの好きにさせてくれ
冬の海まで車をとばして 24時間砂を食べていたい
長い線路をひとり歩いて そっと枕木に腰をおろしたい
Don’t trust anyone over thirty
憎むよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
悲しむよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
怒りよりも先に
Don’t trust anyone over thirty
嘆くよりも先に