第1話 ヘンゼルとグレーテルというより姥捨て山

文字数 817文字

 みなさん、自分の中に何人かキャラがいますよね?

 私の場合、デフォルトで前面に「内向的」なキャラが設定されていました。
内向的なキャラを『ハチワレ』と命名します。

 物心ついてから私は、「まずいな」と思いました。とにかく生きづらいのです。空想ばかりしていて実務ができない。

 私は『ハチワレ』に、「悪いけど、このままだと……」
(みな)まで言わなくとも『ハチワレ』はわかってくれました。自分なので。

 私は『ハチワレ』の手を引いて、山の中へ行きました。
ある程度歩いたところで、「じゃ、悪いけど」とハチワレを置いてきました。

 『ハチワレ』はヘンゼルとグレーテルのように戻ってこようとはしませんでした。
『ハチワレ』は(うば)捨て山のお婆さんのように、捨てる私に(うら)み言一つ言わず、(ねぎら)うような表情さえ浮かべました。
なんならお役御免(やくごめん)で少しホッとしているようでした。

 私は手持ちのカードの中で、かろうじて実務ができそうな『キジトラ』を前面に()えました。
『キジトラ』は四苦八苦(しくはっく)して傷だらけになりながらも、よくやってくれました。
たまに『ハチワレ』のことも思い出しました。


 迷子(まいご)の夢をよく見るようになりました。


 桜が満開の川沿いの先に、夕陽が落ちていくのが見える。
誰かが側にいて、それを指さす。私は夕陽を見ているうちに不安に()られる。そして気がつくと一人きり。ここはどこだろう、ここにはどうやって来たんだろう。

 道の真ん中に着ぐるみの頭だけがあって、私の名を呼んでいる。ここはどこだろう。

 誰かと一緒に歩いていたのに、その誰かは蒸発(じょうはつ)したかのように消えていて、()(がら)のように服だけが残った。
私はここがどこなのかわからないのに、どうしたらいいんだろう。


 (うら)みがましい顔はしなかった『ハチワレ』。迷子(まいご)になった『ハチワレ』。


 私は2年ほど前から「作り話」を書くようになって、山の中に置き去りにした『ハチワレ』を探しにいくようになりました。

『ハチワレ』の手助けが必要だと思ったのです。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み