第39話 シンプルな嘘 【第2話の続編】

文字数 945文字

 別れ話はけっこうこじれた。
これは「第2話」の続きです。

「じゃあ、生まれ変わったら一緒になろう」
と泣く彼。謝り疲れた私は、仕方なく「うん」と答えた。
ああ、いま、嘘をついたなと。

 私から告白して私から別れを切り出した。
だからなのか、彼はフラれるのを実感していないようだった。
例えば何か個人の意志が通用しないような運命に翻弄(ほんろう)されて、私たちは別れることになったとでも思っている風情(ふぜい)だった。

 慰めるための嘘、穏便(おんびん)にするための嘘、便宜上(べんぎじょう)の嘘など、嘘を薬として使ってきたけど、シンプルな「嘘」の記憶がこれだ。
それは小さな罪悪感となった。元彼とのその約束を、守るつもりはまったく無かったから。

 嘘が本当になったらどうしよう、そんな馬鹿げた不安がかすめた。
本当に来世で一緒になったらどうしよう、あんなに好きだったけど、彼の面倒は現世だけでもう十分。どうせならもっと違うタイプの男とつき合いたい。


 その3年後、私は別の男と結婚して男の子を出産した。

 どうやらあの別れ話のあと、元彼の一部がお亡くなりになったらしい。そしてその一部が息子に転生したように感じる。(一応断っておくが、元彼は生きている)
息子のちょっとした言葉、(たたず)まいに元彼を彷彿(ほうふつ)とさせる”何か”がある。つまり、タイプなのだ。
 この現象に名前はあるのだろうか。



 いや、もう、これは元彼の一部が息子に転生したことにしよう。
「一緒になろう」という約束を親子関係に転写させて、現世で果たしたことにしよう。
課題を来世まで持ち越したくない。
私は夏休みの宿題は7月中に完成させてきた人間だ。絵日記も想像で書いたぐらいだ。

 ところで、元彼の一部が混入した息子だが、我儘(わがまま)も反抗期も元彼の一部の仕業と思えば、まあ仕方ないといったところ。
元気で笑っていてくれればいい、存在するだけで親孝行だからと、小さい頃からそう伝えて公言もしてきた。(しつけ)は厳しいものという、老害思考の持ち主達に叩かれたが、無視した。
 その甲斐あってか、いつの間にか元彼の一部は、息子の中で成仏していた。
息子はオリジナルの息子となったのだ。

 いや、私の目、脳を通じて認識する元彼の一部が消えたのだから、私の問題だな。
意外と引きずったのは私の方だったか。


 どこからが嘘でどこまでが嘘か、わからない話でした。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み