第45話 かわいい猫、かわいい妹

文字数 945文字

 帰り道の商店街で、新規オープンした唐揚げ屋さんの花輪。
お客さんや通行人が引っこ抜いた後の残骸の花を、私はひょいひょい()んで帰路につく。
 帰ってから、流しでクタクタになった花を切り戻して花瓶に生け、「きれいだね、美人さんだね」と声をかければ花は頭をもたげてくる。
 特にアルストロメリアは、華奢な見かけに反して花もちがいい。私の「きれいだね」にきちんと応えてくれる。


 猫も一緒だ。
 中学生の頃、実家の庭に迷い込んだ野良猫に、こっそりカリカリをあげ、
「めんこいね、おまえさんは、めんこい猫さんだ」
食べている(かたわ)らで声をかける。
するとめきめき野良猫はかわいくなるのだ。モップみたいだったのに。不思議だが本当だ。
 そうして私は何匹もかわいくしてきた。


 妹もそうだ。
 四つ下の妹。私が高校生、妹が中学生の頃、やたらと妹がかわいく思えてきた。
愉快で楽ちんで、寝起きが悪く、気が短い妹。頭がいいのにテスト前に付け焼き刃の勉強しかしない。しょっちゅう寝転がって『王家の紋章』を読んでいる。
 妹が母と思いっきり喧嘩しているのを見るのも爽快だった。
私はとてもじゃないけど、母にああは言えない。そのあとの消耗戦が嫌で。

 触れたときのゴムまりのような弾力も好きで、隙あらば妹の背中にひっつき「かわいい、かわいい」と呪文をかけた。
大らかな妹は「またか」というようにされるがまま。こぐまのぬいぐるみのようだった。

 私の日頃の洗脳が功を奏した。

 妹は十代終わり頃、めきめきと可愛くなった。
しかしそれは、私が愛でていたぬいぐるみ的可愛さの延長ではなく、「女」の色香を伴ったものだった。誤算だった。

 妹は急にモテだした。
そしてその特需を、妹はしっかりと満喫するようになったのだ。

 深夜、外でバタンと車のドアの閉まる音を聞きつけ、階下に降りる私。
明度の高いサーモンピンクのワンピースを着こなしたデート帰りの妹がいた。
私は思わず、
「可愛い~」
 いや、ひと言物申してやる。
「違う! 違うんだ! そうじゃない、そういうんじゃないんだ、私が求めたかわいさは、そういう色気づいたものじゃないんだ!」

 だるだるのパジャマで地団駄を踏む私を見て、妹はさも愉快そうにケタケタ笑った。




ちなみにアルストロメリアは上の白い花です。多様な色があります。


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