第55話 漫画『家栽の人』の「CASE:ゴデチア」
文字数 1,918文字
『家栽の人』は大好きな漫画です。
20年以上前の作品なので、喫煙シーンが頻出するなど社会背景は古いのですが、名作と思っています。
ドラマ化もされたのでご存じの方も多いと思いますが、基本情報を。
主人公は家庭裁判所判事の桑田義雄。
父親は最高裁判所判事。桑田自身も優秀で、実務の処理能力が非常に高い。
本来エリートコースに乗るべき人材であり、東京地裁や最高裁への異動を打診されている。
しかし桑田はそれを断り、地方の小さな家庭裁判所に転勤願いを出し、いわゆるドサ回りをしているのだ。
理由は、
「明日、また違う少年達がやってくる。私は彼らのことを考えていたいのです」
(だったと思う)
植物が大好きで裁判所の庭の手入れを熱心に行い、昼休みには近所を自転車で回って植物鑑賞をしている。そして毎回植物を絡めた話になっている。
タイトルが「家裁」ではなく「家
人を裁くのではなく人を育む(栽培)という意味合い。
のほほんとした風貌と掴みどころのなさ、出世に関心がないことから、上司などから「やる気がない」「理解不能」とみなされ、常に低い評価からスタートする。
桑田判事は、どんな事件でも微かな違和感を見逃さず丁寧に扱う。
植物がそれぞれに個性を持つように、いわゆる「不良」も先入観で十把一絡げに扱わない。
自分が納得するまで審判を続行し、調査官に深掘りさせ、自ら現地に出向くなど妥協しない厳しさがある。
常に本質を見定めようとする視点を持つ人物です。
それからですね、特筆すべきは桑田判事は口数が少ないということなのです。
説教めいたことは一切言わない。「気づき」を与えるような感じ。
他の脇役たちはベラベラ喋るし思っていることも全部筒抜けですが、桑田判事がいったいなにを考えているのか、脇役たちも読者も予測がつかない。
人情ドラマの他に推理的な面白さもあります。
*****
私が今でも心に残っている話が「CASE:ゴデチア」です。
ネタバレします、ごめんなさい。
ヒロインは中学生の少女、美千子。
両親は3年前から別居中。離婚調停を重ね、双方とも離婚には同意しているが、最後に残った問題が子ども、美千子のこと。
父親、母親ともに再婚の予定があり、美千子の親権を押し付け合っているのだ。
「オレの名字、どっちに決まったんだよ」
「つまんねぇ名字なんかいらねんだよ!」
荒んでしまった美千子。
調査官に呼ばれて、裁判所を訪れた美千子は、庭で桑田と出会います。
赤いゴデチアの花が真っ盛り。
桑田は、「赤い色は人の憂鬱を晴らすんだと聞いてたくさん植えてみたんです」と言い、
ゴデチアの押し花で作った“しおり”を美千子に渡します。
美千子「何になるのさ、こんなもの」
桑田「君はどっちになりたいですか?」
美千子「何が?」
桑田「赤い花に慰められる人と、慰める赤い花と……」
険しい顔の美千子「……」
桑田「赤い花になりたければ、それをもらって下さい」
しおりをポケットに入れる美千子
桑田「君は何歳ですか?」
美千子「14歳……」
桑田「じゃあ、もうしばらく待ちなさい」
美千子「?」
桑田「15歳になれば、一人でできることもあるんですよ」
美千子「……」
美千子はバイト先で、仕事の合間に受験勉強をします。
問題集にはさんであるのがゴデチアのしおりなのです。
数か月後、離婚調停の席で桑田と出会い、桑田が家事審判官であることを知って、あっけにとられる美千子。
その席で、昨日15歳になったこと、15歳になれば子どもでも自分で養子縁組ができることを知り、叔母夫婦に18歳まででいいから養子にしてもらうよう頼んだことを話します。
(叔母夫婦へお願いするとき、公立高校へ進学してバイトで学費を払うから迷惑はかけないと持ちかけています)
だから、もうお父さんもお母さんも自由であると。
終始、無言の両親。
バイトがあるから帰ります、と席を立つ美千子。
調停室を出る間際、振り向きざまに両親に向かって「さよなら!」
廊下をカッカッと勢いよく歩きながら心の中で、
「勝った!」
「ザマミロ!」
裁判所を出て、以前ゴデチアが咲いていた庭を見ます。
美千子は溢れる涙をこぼさないよう、
「私は赤い花だもん」と心で呟き、顔を上げるのです。
桑田判事は「これから教えようと思っていたのに……」と微笑むのでした。
*****
ここ、ノベルデイズでは、過酷な境遇に身を置きながら、心に響く作品を執筆されている方々がいらっしゃいます。
それで「ゴデチア」のエピソードを思い出してしまいました。
満身創痍でありながら、慰められる側ではなく、創作で人を慰める側に立つ、まるで「赤い花」のようであると。
昇華された作品に、私は感銘を受けるのです。
ゴデチアの花
20年以上前の作品なので、喫煙シーンが頻出するなど社会背景は古いのですが、名作と思っています。
ドラマ化もされたのでご存じの方も多いと思いますが、基本情報を。
主人公は家庭裁判所判事の桑田義雄。
父親は最高裁判所判事。桑田自身も優秀で、実務の処理能力が非常に高い。
本来エリートコースに乗るべき人材であり、東京地裁や最高裁への異動を打診されている。
しかし桑田はそれを断り、地方の小さな家庭裁判所に転勤願いを出し、いわゆるドサ回りをしているのだ。
理由は、
「明日、また違う少年達がやってくる。私は彼らのことを考えていたいのです」
(だったと思う)
植物が大好きで裁判所の庭の手入れを熱心に行い、昼休みには近所を自転車で回って植物鑑賞をしている。そして毎回植物を絡めた話になっている。
タイトルが「家裁」ではなく「家
栽
」。人を裁くのではなく人を育む(栽培)という意味合い。
のほほんとした風貌と掴みどころのなさ、出世に関心がないことから、上司などから「やる気がない」「理解不能」とみなされ、常に低い評価からスタートする。
桑田判事は、どんな事件でも微かな違和感を見逃さず丁寧に扱う。
植物がそれぞれに個性を持つように、いわゆる「不良」も先入観で十把一絡げに扱わない。
自分が納得するまで審判を続行し、調査官に深掘りさせ、自ら現地に出向くなど妥協しない厳しさがある。
常に本質を見定めようとする視点を持つ人物です。
それからですね、特筆すべきは桑田判事は口数が少ないということなのです。
説教めいたことは一切言わない。「気づき」を与えるような感じ。
他の脇役たちはベラベラ喋るし思っていることも全部筒抜けですが、桑田判事がいったいなにを考えているのか、脇役たちも読者も予測がつかない。
人情ドラマの他に推理的な面白さもあります。
*****
私が今でも心に残っている話が「CASE:ゴデチア」です。
ネタバレします、ごめんなさい。
ヒロインは中学生の少女、美千子。
両親は3年前から別居中。離婚調停を重ね、双方とも離婚には同意しているが、最後に残った問題が子ども、美千子のこと。
父親、母親ともに再婚の予定があり、美千子の親権を押し付け合っているのだ。
「オレの名字、どっちに決まったんだよ」
「つまんねぇ名字なんかいらねんだよ!」
荒んでしまった美千子。
調査官に呼ばれて、裁判所を訪れた美千子は、庭で桑田と出会います。
赤いゴデチアの花が真っ盛り。
桑田は、「赤い色は人の憂鬱を晴らすんだと聞いてたくさん植えてみたんです」と言い、
ゴデチアの押し花で作った“しおり”を美千子に渡します。
美千子「何になるのさ、こんなもの」
桑田「君はどっちになりたいですか?」
美千子「何が?」
桑田「赤い花に慰められる人と、慰める赤い花と……」
険しい顔の美千子「……」
桑田「赤い花になりたければ、それをもらって下さい」
しおりをポケットに入れる美千子
桑田「君は何歳ですか?」
美千子「14歳……」
桑田「じゃあ、もうしばらく待ちなさい」
美千子「?」
桑田「15歳になれば、一人でできることもあるんですよ」
美千子「……」
美千子はバイト先で、仕事の合間に受験勉強をします。
問題集にはさんであるのがゴデチアのしおりなのです。
数か月後、離婚調停の席で桑田と出会い、桑田が家事審判官であることを知って、あっけにとられる美千子。
その席で、昨日15歳になったこと、15歳になれば子どもでも自分で養子縁組ができることを知り、叔母夫婦に18歳まででいいから養子にしてもらうよう頼んだことを話します。
(叔母夫婦へお願いするとき、公立高校へ進学してバイトで学費を払うから迷惑はかけないと持ちかけています)
だから、もうお父さんもお母さんも自由であると。
終始、無言の両親。
バイトがあるから帰ります、と席を立つ美千子。
調停室を出る間際、振り向きざまに両親に向かって「さよなら!」
廊下をカッカッと勢いよく歩きながら心の中で、
「勝った!」
「ザマミロ!」
裁判所を出て、以前ゴデチアが咲いていた庭を見ます。
美千子は溢れる涙をこぼさないよう、
「私は赤い花だもん」と心で呟き、顔を上げるのです。
桑田判事は「これから教えようと思っていたのに……」と微笑むのでした。
*****
ここ、ノベルデイズでは、過酷な境遇に身を置きながら、心に響く作品を執筆されている方々がいらっしゃいます。
それで「ゴデチア」のエピソードを思い出してしまいました。
満身創痍でありながら、慰められる側ではなく、創作で人を慰める側に立つ、まるで「赤い花」のようであると。
昇華された作品に、私は感銘を受けるのです。
ゴデチアの花