第32話 埼玉県訪問診療医 射殺事件 ②渡辺容疑者の不可解

文字数 987文字

 私がこの事件で最初に驚いたのが、92才の母親が亡くなって、怒った66才の息子が、44才の有能な医者を殺したということ。意味がわからなかった。

 私は、そんな理不尽な犯行をするには、なにか理由があるはずだと考えました。
というより、ほんの少し、ほんの少しでいいから理由が欲しい。

 すぐに思ったのは、母親の年金で生活しているのだろうということでした。母親がいわゆる「寝たきり大黒柱」。
どんな状態でも心臓さえ動いていれば、年金は支給される。だから心臓マッサージを強要したのだろうと。

 それが違ったのです、母親と渡辺容疑者はどちらも生活保護を受けていたのです。

 母親が亡くなっても自分の生活保護費がある。最低生活費の上限額を受け取れる。
だから92才の母親が亡くなったら、介護が無くなる分肩の荷がおりて楽になるはずで、激昂するようなことはなにも無いと思うのだが。
高齢の母親だって、いつまでも永らえるのは辛いものがあるはずだ。

 それから渡辺容疑者は、少しでも母親をないがしろにされたと感じたとき激昂したといいます。
例えば病院で10分待たされたとか些細なことで。先に診ろと騒いだそうです。

 それは母親を大事にしているからではなく、母親を盾に自分の鬱屈した感情を爆発させてすっきりさせているだけだと私は思う。
社会に対する呪詛をまき散らすために、母親を使っているのではないか。
そして「焼香に来い」と、人の善意を利用するやり口、絶対に精神疾患などで逃がさないで欲しい。

 これを書くにあたって渡辺容疑者の経歴を確認しました。
「信金エリートから借金人生転落」という週刊誌の見出し。
ネットで読んだら、朝日信用金庫勤務中に住宅ローンの借金をして、その後会社の金を横領して懲戒解雇。それで住宅ローンが返せなくなったと。
エリートでもなんでもない犯罪者、自分で墓穴掘っているだけ。
貧すれば鈍する、鈍すれば貧する、相乗効果の人生のデフレ。


 こんな凶行に及ぶには何らかの理由が……無かった。
情状酌量の余地無し、なにも同情できない身勝手さ。
でもこういう人って、“いる”んですよね。自分の感情しか見えない獣のようなクレーマー。
例えていうなら、目の奥に光が無いというか……真っ黒。
関わらないのが一番。薄情な人間と思われてもいいから関わらない。

 たまに、人間の中に“獣”が混ざっている、そうとしか思えないことってあります。


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