第43話 メンテナンス

文字数 963文字

 しばらく不自由な生活に突入することになりました。

 9月に入り、自宅の外壁塗装をすることになった。築21年目の我が家。ここ数年、外壁の経年変化が否めず、ポストに塗装しませんかとのチラシが入ったり、電話があったり。

『ウチの壁、そんなに汚い?』

 1戸建の塗装工事は新車が買えるほどの費用がかかる。夫には言うに言えず、ここ数ヶ月私の中でモヤモヤしていた。ところが

「来月、外壁塗装してもらうから」

と突然言われ、遅ればせながらの以心伝心かと思い

「いつ、打ち合わせしたの?急だけど」

そう返すと

「5年前から」

だろうな、だろうな。以心伝心は私の驕りだ、恥ずかしい。

 8月上旬になると数種類の塗料の色見本がきた。夫が

「どれがいい?」

と訊いた。私がコレと指差した色が決まった。夫と私は美的センスが似ている。冷戦状態のときも共有する物の購入で、あまり妥協したことがない。ふと思った。もしかして夫が妥協してくれている?まさか……最近、私の思考がおかしい。夫をいい人みたいに解釈するなんて。あり得ん、あり得ん。仮に夫が妥協しているなら、冷戦なんて状態は無かった筈だ。やっぱり、たまたまセンスが似ているということにしておく。

 着工直前に、依頼している工務店の計らいで夫が粗品を持って、近所に挨拶周りをしていた。夫が現役なら恐らく私の仕事。私に声はかからなかった。楽になった。

 翌日朝から足場を組む作業が始まった。お昼過ぎには完成。今回は屋根の塗装(ウチはガラバリウム鋼板)もあるので、家を囲んだ鉄の格子はちょっとしたビルの高さになった。次の日には高圧洗浄機で丸洗い。お隣の物干し場が近いので、気が気ではなかったが、上手くやってくれた。この家に住んで、2階の天井から足音がするなんてことは無かったので

『もしも泥棒が屋根に上がったら、こんな音がするんだ』

 なんて想像した。現実的に言えばウチに泥棒が入れる屋根裏は無い。塗装前最後の作業はビニールでの養生。窓やドアを塞がれ、ただただ暑い。

 翌日から塗装が始まった。ピタッとビニールで養生されていても、シンナーの匂いは家の中に入ってきた。エアコンをつけたら匂いは更に強くなった。

『このままでは中毒になる……』

そう感じながら寝た。翌朝、気にならなくなった。プチ中毒になったかもしれない。

 10月上旬までの辛抱です。








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