第49話 いつまで続く?

文字数 868文字

 母が付けていたネックレスを投げました。

 昨日から実家に来ている。今回は父の転院先の受診の付き添い。前回投稿したように父の前立腺癌は治療の術が無くなり、地元の総合病院で経過を診てもらうことなった。今の父はストレスを溜めている様子も無く穏やかだ。

 問題は1週間後に肝臓癌のカテーテル手術を控えている母。相変わらず愚痴が絶えない。気に入らないことがあると物を投げ、矛先を父に向け嘆く。

「私は動けた時に、もっと出掛けたかった。何処にも連れて行ってもらってない。自分ばっかりいい思いをして。今は病院だけで近所のスーパーにも行けないなんて可哀想すぎる……」

 母は、ほとんどの事を父の意思で動いてきた。だから何をするにも父に声をかける。半世紀以上の生活習慣が、ここにきて恐ろしいほどの後悔と怒りで、父の悪口を言わなければ収まらない状態になっている。

「いつもそうだ。自分の事ばっかりでアタシはお爺さん(父)の尻拭いばっかりで……」

 腰が曲がりヨチヨチ歩きになって、私が来た時に片付けている姿を見たことがない。ほとんどが母の指図で動く父の姿だ。

「だからアタシはそう言ったんだよ。そうなると思った」

後出しジャンケン的な言い方。だったら、先に言えば良かったのに。と口を挟もうものなら

「何回言ってもやってくれんから。いつもアタシの言う事なんか聞ききゃあしないから」

 事あるごとに愚痴愚痴が止まらない。私が実家に行く度の光景だ。確かに母だけが悪いとは思えない。父が母を支配しすぎた。良く言えば、何でもかんでも助けて母の決断力を削いだ。今でこそ大人しくなった父だが、思い返せば随分と自分本位なところがあった。それを母は自分を抑え従ってきた。嫌だと思ったこともあっただろうが、楽に生活を送ってきたことも少なくなかった筈だ。人生の土壇場にきて、嫌だという気持ちが溢れ出て止まらない。もう父には抑制できる気力も体力も威厳も無い。ただただ怒りが収まるのを待つ。未だ私は受け流せず、ストレスを溜めるばかりでどうしようもない。

 言ってはいけない言葉を吐き出しそうになります。



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