第42話 出来過ぎ

文字数 985文字

 気持ちいい秋空に誘われて、突然、夫に言ってみました。

 前回の投稿の怒りも冷めやらぬであろう昨日、あまりにも心地いい空気と天気に押されて夫に

「ねえ、今日、ひま?」

と声をかけた。夫は小声で「ひま」と言ったかどうか分からなかったが、コクンと頷いた。

「じゃあ、ドライブしよ!彦根城まで」

 一瞬えっ?って顔。そりゃそうだ。声をかけたのは午前8時半。ウチから高速道路を使っても約2時間の距離。それに本日は土曜日だ。いろいろと難しそうな条件だが、我ら夫婦は現役引退組。時間なんてどうにでもなる。ただ、夫婦で行くとなると運転は、よほどのことがない限り夫。だから長距離のときは夫の体力次第って感じ。

 声をかけたのには多少のご機嫌伺い的な気持ちがあった。そんな気遣いなら近場でいいとお思いだろう。ダメダメ。アラ還の私には妥協する場所なんてない。これからは気持ちの赴くままに。この十数年、冷戦という形だったが、随分と夫に合わせてきた。変化を感じている今、このくらいはと思えることは積極的に試していく。

 前置きが長くなったが、文句も無く行くことになった。下調べ全く無し。ナビ頼り。ルートは夫任せ。たとえ一般道を使っても怒るまい。とにかく天気とドライブを楽しんだ先に彦根城が有ればいい。

 案の定、夫は一般道を選択した。まあいい。運転手は君だ(このフレーズに反応する人は、お仲間ね)結局、休憩を挟んで4時間もドライブした。目的の城はすぐそばにあったが、その前に近江牛で腹ごしらえ。ランチ時間はとっくに過ぎていたので、貸切のような店内は居心地満点。

 いざ、彦根城へ。小山の頂にある城は、長い石段の先にあった。1階の窓からでも街並みが見渡せる。

「この城、意外と小ぢんまりしてるね」

夫にそう話しかけると

「山の上に建っているから、高く大きな城を建てる必要はないんだよ」

 なるほど。少し前に行った松本城は平地に建っていたから、あんなにも高く大きかったのか。井伊家の歴史に思いを馳せながら、ひこにゃんとの遭遇も果たした。奴は自分を知っている。取り巻く観光客の前で確実に可愛いだろうポーズをとっていた。

 帰路ももちろん一般道。途中、夫がいつの間にか調べていた天麩羅屋で晩御飯。絶品。綺麗な満月を追いかけるように車を走らせた。途中、目の前を打ち上げ花火が夜空を照らした。

 この日は多分一生の思い出になるでしょう。





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