第2話 やきもき

文字数 946文字

 今日も実家に来ています。

 先日、母の診察の際に腫瘍マーカーとアンモニアの数値が上がり、MRIの画像に怪しい影が写っていた。癌再発の可能性有りと言われ、今日はエコー検査。母は今まで数え切れないほどの検査をしている。そして今回の結果次第では、手術をするかしないかを選択しなければいけない。

 人には寿命がある。それは誰もが知っているが、自分が何歳で寿命が尽きるかは誰も知らない。高齢になれば、平均寿命や自分の親が生きた年齢を目安に、今の自分の立ち位置を自覚する。母は女性の平均寿命にはまだ届かず、祖母の年齢を今年越えた。

 前回の手術はラジオ波を使って患部を焼くものだった。入院中は看護師さんの手を煩わせることなく、予後も良さそうなのでと、予定よりも早く退院した。ところが退院したその夜から痛みが始まり、数日大騒ぎし、家族が巻き込まれた。その様子は本人よりも家族の方がよく覚えているはずだ。

 そして今回。手術するなら『カテーテル』かもしれないと医師に言われた。母の気持ちは手術に傾いているように感じる。喉元過ぎればなんとやら。私は前回の大騒ぎを思い出す。今の母は周りへの気遣いなど考える余裕はなく、窮地に迫った状況から生きて逃れたいばかりのように見える。あるとき

「もう、私はいつ死んでもいいんだ」

と悟ったように言ったかと思えば

「私には、やることが残っている。まだ死ねない」
と思考が行ったり来たり、バラバラだ。そのときの状況でコロコロ変わる。

 高齢者はそういうものかもしれないが母の場合、大きな物事ほど決めるときほど依存が強いので困る。

「一緒に考えてくれたっていいじゃない。薄情者!」

こう、罵られたこともある。決めることなど難しいとは思わない。私の意見は手術にNOだ。もちろん母の身体を優先してのこと。前回のような予後になれば、患部は取れても相当な苦しい日々を過ごさなければならない。それが残された日々の大半になるかもしれない。私は生活している上で痛みが無ければ、出来る限り穏やかに過ごして欲しいと思っている。だが母の本意と対立することだと分かっているので、敢えて本人に決めさせ言わせる必要があると思っている。

 検査が終わった。結果は『白』
癌は無かった。

 また、しばらくの間、穏やかに過ごせそうです。


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