第20話 そうだったの③

文字数 930文字

 Fさんがどうしてここに住むことになったかが分かりました。

 築100年ほどの家の玄関は、祖父母の家と同じ匂いがした。それを言うとFさんは

「これでもファブっといたんだけどな。やっぱりカビ臭い?」
*ファブ=ファブリーズ

家の匂いは訪問者にしか分からない。余談だが我が家の玄関は20年経っても、木の香りがすると言われることがある。私には分からないが。

 玄関脇には大きく成長した金魚の水槽が置いてあった。畳横幅ほどの廊下が玄関から家の奥まで伸びていて、その脇に二間続きの和室、縁側、反対側には階段と台所、応接家具のある洋室の仕事部屋。黒光りした床板、欄間、座卓、柱時計……部屋の窓からは伸び伸びの草むらとその先には森が。

「2階の方が景色いいから」

 そう促され上へ。確かに。森が見え、直ぐそばの小川もいい感じ。窓際に席を設け、腰を落ち着けた。さっきお昼ご飯を一緒に食べた時点で、仕事当時の和気あいあいさが戻っていたので、お互いの20年余りのあれこれを話した。私が1番知りたかった、この地にした理由は、病弱だったお母様の静養の為だった。住んでいた所からそう遠くない場所として見つけたそうだ。ただ移住はお母様が亡くなってからで、最初は別荘のような形で使っていたとか。Fさんが思いやりがある人だと知っていたが、再確認した。

「そう言えば、今日はこっち方面にホテル取ったんですよね。なんかシングル3つとかって聞いてますけど〜」

 少し悪戯っぽい口調でFさんが言った。もちろん私が事前にメールで流した情報。夫にも気を遣ってくれてるのか、真意が知りたいのか。まあ、私も理由を聞いていなかったのでちょうどいい質問だったけど。夫は少し早口で照れながら

「だって、好きな時にトイレを使いたいじゃないですか。ツインで取るとそれが出来ないから……」

 TさんとFさんには本心だと思われたかな?私は納得出来た。以前の投稿で善光寺に行ったことを書いたが、あのとき私は確かにトイレ兼洗面所を占領していた。夫は私に

「トイレ使うからどいて」

などと言わず、スーッと部屋から姿を消していた。そう、私たち夫婦は、今もこういう間柄なのだ。

 次回は奈良の観光地のあれこれです。

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