第22話 気になる人々⑤

文字数 821文字

 旅の出合いは、観光地ばかりではないですよね。

 お昼の食事処で居合わせた真横の席のカップルは、少し前に来たようだった。私たちは早速メニューを見る。(私の中では既に決まっていたんだけど)素麺と柿の葉寿司のセット以外は茶蕎麦と柿の葉寿司など麺類を変えたメニューになっていた。私が口を挟む

「ここはね、奈良の名物の三輪素麺と柿の葉寿司が一緒に食べられる店なんだよ」

と言ってから、直ぐに後悔した。隣のカップルの席には

と柿の葉寿司が運ばれて来て……カップルの男子が

「美味しそうやな、この



 と言い放つ。私は悪気は無かったとは言え、何だか喧嘩を買われたような気がした。そんな私の気持ちなど気付くはずもなく、Tさんと夫は迷わず素麺を選んだ。その後、素麺も柿の葉寿司も美味しく食べたが、時折隣の会話が耳に入り、スケべ心の自分が情けなかった。店を出た後、長谷寺の境内でもカップルを見かけ、ふと夫と見合いしたころを思い出した。

 そう言えば、最初に行った室生寺でも印象的な人が。私たちがヒーヒー言いながら辿り着いた奥の院でのこと。少し場違いとも思えるヤンキー兄ちゃんが小走りで、社務所目掛けてやって来た。

「すみませ〜ん。骨壷ココでいいですかぁ?」

 その手には確かに白い布で包まれた物が。声のトーンがあまりにも明るいので何となく違和感を覚えた。そっか、ここは寺だった。奥の院まで来て初めて観光地という見方を離れ、今も新しく供養される人がいる現役の寺だと気付かされた。室生寺の檀家さん。それだけで何だか(うやうや)しい一族が入るイメージがある。少し訂正。兄ちゃんの後に、似た者家族がゾロゾロと現れる。

「骨壷納めたんかいな」

 母親らしき人が関西弁で言った。総勢6人ほど。全員揃うと、みんなでおみくじを引いてワイワイと騒いでいる。身内の納骨だったようだが、この人たちのお別れは可笑しいくらい作業的で何故だか好感が持てた。

 骨壷の中にいる人は、明るい遺族を見て安心したかな。
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