第48話 ここまできた

文字数 832文字

 一昨日も父の病院に付き添いました。

 地元の総合病院では診察が出来ないと言われ、転院した病院になって3年ほど経つ。1ヶ月前の診察で前立腺癌の数値が上がり、薬を変え、一昨日は効果が出ているかどうかを確かめる為の来院だった。前回の数値は9。今回は……

「効いていませんね……13になってる」

父は黙って聞いていた。いつもなら

「他の方法はありませんか」

と透かさず訊いていたけれど。

 父は1週間ほど前から食欲が落ちて、どうしたらいいかを私に訊いてきた。飲んでいる薬の副作用に食欲不振があったので『食べられる物だけを食べて』と伝えた。

 診察の前夜、今の体調や気持ちを父に訊いた。そして薬が効かなかった時の意思表示をどうするかも。

『もし、癌の数値が下がってなくて薬を増やせと言われたら、薬は止める』

そう決めて診察に臨んだ。だから父は診察室で黙っていた。医師は続けた。

「この薬が効かないとなると、あとは抗がん剤ということになりますが、お歳のことを考えると現実的じゃない」

 30代後半くらいの担当医は言葉が続かない。つまりは為す術無しということを、高齢の父にどう言えばいいかを迷っているのが分かった。父の意思をおおよそ分かっていた私が

「この先は、近所の内科医に診ていただこうかと思いますが……」

そう口を挟むと、伝える内容を整理したのか

「以前いた総合病院に非常勤で泌尿器科医が来ます。入院となったときには、その方がいいから紹介状を書きます」

 そうか。気付かなかった。近所の内科医で入院は出来ない。これからのことと言うのは、看取りを含めたことになる。分かっているようで、分かっていなかった。

「お世話になりました」

 父は重い口から感謝の言葉を伝え、診察室を後にした。そして私に

「もう、いいら?(もう、いいよね)」

と訊いた。私は頷くことが出来ず

「その話は、後でしよう」

と言葉を退けた。

 いつかは来るだろうと構えていた治療停止。最後の頼みの綱が切れた今、気の小さい父のメンタルを心配しています。

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