第24話 桃と牛乳

文字数 879文字

 一昨日、親戚から桃が届いた。子どもたちがいたころは、ほとんど家族で食べてしまったが、今は食べきれない。こんなとき、母からの教えを思い出す。

『お裾分けするなら、いち早く。そして状態の良い物から』

 若いころ、いち早くの意味は分かったが

に引っかかった。『もらった当人が、1番良いものを食べるのが筋では?』とよく思ったものだ。でも、今は何となく分かる。

『今後も宜しくお付き合い願います』

そんな思いを込めて、昨日、近所の何人かに配った。

 先ずはLINEで在宅や帰宅時間の確認をした。LINEは送信しやすいが、気付いてもらうまでに時間がかかる。かと言って僅かな量のお裾分けに電話で伝えるのも仰々しい。返信の来た人から配布しようと出かける前に夫に声をかけた。すると

「ついでに牛乳買って来て」と頼まれたのでハイハイと返事。

 お裾分け行脚は、物々交換行脚になった。Aさんはドリップコーヒー一袋と手作りのフォトスタンド。Bさんは後日ランチにとのお誘い。先ず2件届けて1度帰宅。リビングに居た夫を見て思い出した。

「あ、ごめん。牛乳買ってくるの忘れた。あと2件行くからそのときにね」

「分かった」

 少し間を置いて、Cさん宅へ。こちらも『いただき物だけど』と温室みかんを保冷剤付きで渡してくれた。最後は最近会う回数が増えているDさん。仕事帰りの時間に合わせて行った。スンナリ帰れると思いきや

「ちょっと待って。実家からスイカが届いたんだけど、食べきれないから半分持って行って」

 用意はできなかったものの、お返しの算段を付けていたようだった。スイカを切るまで少し上がってくれと言うので、玄関先からリビングへ。軽く談笑しながらお茶の誘いも受けたが、丁重にお断りした。

大きなスイカの半分を手に意気揚々とリビングへ。

はっ!!!

 デジャヴ……のような感覚。またしても牛乳を忘れた(泣)我ながら流石に凹んだ。再度夫に

「ごめん。また忘れた。今から買ってくるわ」

「……もういい!」

そう言い放たれ、私は晩御飯の支度にかかった。

 何に凹んだか。もちろん牛乳を全く思い出せなかったことにです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み