第67話 新人大会

文字数 1,118文字

 沖たちが入部して、およそ二か月が過ぎた。

 十一月は公式戦がつづく。幡多の地区大会が終われば、再来週には高知県冬季大会だ。
 地区大会は学年別の個人戦だった。幸いにも、西方中男子テニス部は部員全員の参加がかなった。
 一年は当初から在籍の井上・西村ペアと池田・坂下ペア。新たに入部した野村・竹内ペアと市川・中平ペアの4組。
 二年が堅悟・耕太郎ペア、樹・佑介ペア、誠・沖ペアの3組だ。

 意気盛んに挑んだ樹たちではあったが、堅悟・耕太郎ペアの二回戦突破が最高記録で、誠・沖ペアが一回戦を辛勝。ほかはすべて一回戦敗退と、散々な結果に終わった。

「そうそう初めっから、上手いこといくもんやないで。この経験を、次に()かしたらえいが」

 誠はそう部員たちを激励した。

「次」とは、当然、二週間後の冬季大会を指す。
 冬季大会は、別名「新人大会」とも呼ばれている。沖たち新入部員の活躍の場となるにふさわしいと、誰もが考えていた。

「今年は、団体戦しかやらんがやと」

 がた爺から冬季大会出場メンバーのリストを預かってきた誠は、開口一番、不服そうに言った。

「ほいたら、4組しか出られんゆうことながか?」

 去年の大会では、団体のほかに個人戦も行われた。団体戦に4組、個人戦には2組のペアが出場できたのだ。

「ほんで、がた爺は誰を選びよったがよ?」

 誠は無言のまま、リストを皆の前に突き出す。

 男子 団体戦出場メンバー

 安岡・間崎
 明神・木戸
 井上・西村
 池田・坂下
 以上

「なんならぁ。新人大会やに、新入りがひとりもおらんやいか⁉」

「…あのくそジジイ、『入部してふた月ばぁのヤツらぁ出さん』ち、言いよったがや……」

 誠のことばに、皆は黙り込んだ。
 確かに、ここで言う「新人」とは、四月の入学と同時に入部した一年部員のことを指すのだろう。
 沖を除く新入部員は、少しばかり残念そうではあったものの、この決定には納得しているようだった。
 むしろ、選ばれた井上たちの方が戸惑った様子で、なんとなく申し訳なさそうに見えた。
 沖は自分が出られないことよりも、自分と組んだことで誠が出場できなくなったことに、責任を感じているようだ。

 一年部員の心情を察した誠は、重い空気を一掃するよう、高らかに笑った。

「なんな? みんなして、お通夜みたいな顔しよってからに。試合らぁ、こっから先やち、こじゃんちゅうばぁあるがぞ」

 うなだれていた一年たちが、いっせいに顔をあげる。

「新しく入ったお前らぁは、まだまだテニスを知らんがやけんにゃあ。今度の大会では、強そうなヤツらぁを探して回るで。ほんで、そいつらぁの試合ぶりをよう観察して、分析するが。ただなんとのう試合するがより、よっぽど役に立つがぞ!」


 


 
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登場人物紹介

明神樹(みょうじんたつき)


主人公。高知県西部の小さな集落にある荷緒小学校出身。おおらかで寛大な性格。共感力が高く、他者との境界線が曖昧なところがある。大人びて見られがちだが、実際は奥手で浮世離れした子供っぽい一面を持つ。

樋口誠(ひぐちまこと)


樹の親友。繊細で面倒見が良く、常に周りに気を配るタイプ。一見温厚そうだが、根は負けん気の強い情熱家。

水田幸弥(みずたゆきや)


南野中軟式庭球部員。小柄だが優秀な選手。幼少期の辛い体験によって、他人に上手く心を開くことができずにいる。その一方で、いったん心を許した相手はどこまでも信頼する素直な一面を持つ。

木戸佑介(きどゆうすけ)


樹の仲間。穏やかで誠実な平和主義者。気弱な性格のため、思うように実力を発揮できずにいる。

安岡堅悟(やすおかけんご)


樹の仲間。体格に恵まれており、仲間うちでは武闘派を自任している。デリカシーがなく、気の短いところもあるが、仲間思いで情に厚い。

間崎耕太郎(まさきこうたろう)


樹の仲間。天真爛漫なムードメーカー。小柄でフットワークが軽く、直感で行動するタイプ。堅悟とは凸凹コンビ。

間崎千代子(まさきちよこ)


耕太郎の姉。しっかり者で姉御肌な情報通。弟たちから頼りにされている。

土居要蔵(どいようぞう)


元西方ジャガーズの捕手。小学校時代に荷緒小チームに敗れたことで、樹をライバル視するようになる。

岡林文枝 (おかばやしふみえ)


西方中女子軟式テニス部の部長。問題意識が強く、まじめな努力家。目立つことと、粗暴な男子が苦手。

山形強(やまがたつよし)


通称〈がた爺〉。西方中軟式テニス部顧問。体罰も辞さないスパルタ教師。テニスの知識も経験も皆無だが、教え子には常に目を光らせている。

沖広義(おきひろよし)


西方中テニス部員。誠のペア。元はバレー部に所属していたが、芽が出ずテニス部に移った。義理堅くまっすぐな性格。

山中淳一(やまなかじゅんいち)


西方中軟式テニス部員。樹の先輩であり頼れるペア。スマートな言動とは裏腹な激情家。

大﨑正則(おおさきまさのり)


南野中軟式庭球部員。幸弥の先輩でありペア。幸弥にとっては部内で唯一心を許せる存在。小心者で不器用だが愛情深く、信念を貫くタイプ。

徳弘大河(とくひろたいが)


南野中軟式庭球部員。大﨑の引退後、幸弥とペアを組む。こだわりが強く、マイペース。万事において納得いくまで追求するタイプ。他人の気持ちを察するのは苦手だが、裏表のない真っ正直な性格。

杉本香(すぎもとかおる)


西方中の不良少女。戯れに樹を誘惑する。

金四郎(きんしろう)


山に捨てられていたのを、誠に拾われた。賢く、忠義心にあふれた日本犬系の雑種。

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