第28話 春季大会で……
文字数 799文字
「練習と違うて、試合ゆうがは面白いもんやにゃあ」
「ほんまに、あの緊張感らぁたまらんでぇ」
「お前らぁ、ちぃと勝ったばぁで調子にのるなや!」
「練習さぼるヤツぁ試合に出さんち、がた爺が言いよるけんにゃあ」
浮かれる堅悟と耕太郎に二年生たちが釘を指すものの、その顔は笑っている。
皆が満足げに談笑するなか、樹はひとり、懸命に水田を探していた。
行きかう人の波に南野中の顧問の姿を見つけ、思わずあとを追って駆けだす。
「おい樹、どこ行くがか?」
背後から誠の声が聞こえたが、答えている暇はなかった。
人ごみをかき分け、やっと追いついた顧問に、すみませんと声をかける。
振り返った斉藤は「あら」と驚きの声をあげた。
「あなたは、確か西方中の……」
「
樹はぺこりと頭を下げると、息せき切って尋ねた。
「水田は、どうかしたがですか? 今日は、来ちょらんがですか?」
斉藤の顔が、嬉しそうに輝いた。
「心配してくれたの? 水田くんは今朝熱を出しちゃって、来られなかったのよ」
肩の力が、すぅっと抜けていくのを感じた。
もしかしたら、水田はテニスをやめてしまったのかもしれないと、ひそかに案じていたのだ。
「水田に、お大事にと伝えてください。それと……」
樹は急いで言葉を探した。
「春季大会で、会おうって」
斉藤は満面の笑みでうなずいてくれた。
礼を言って戻ろうとすると、目の前に誠の仏頂面があった。
「お前、ここで何しようが?」
驚きのあまり、樹の声が裏返る。
誠はそれに答えず、逆に質問を返してきた。
「お前は何をしちょったがや?」
「俺は……なんもしちょらん!」
やましいことなど何もないはずなのに、なぜだか無性に恥ずかしくなった。
「がた爺にどやされるけん、
樹はさっさと走りだした。