第153話 誠と岡林
文字数 934文字
登校した樹たちは、校門を入ったところでテニス部の同級生と並んで歩く
恵たちは樹たちひとりひとりに会釈をして通り過ぎたが、なぜか佑介にだけは露骨に顔を背けた。
「なんな、あの態度は?」
堅悟は腹立たしげに恵たちを振り返る。
「恵はお前の妹ながやけん、まぁえいとして、ほかの連中にはガツンと言うてやらんかえ!」
佑介をけしかけるが、当の佑介は寂しそうに笑うだけだった。
「仕方ないがや。あいつらぁ、
「フミエち、誰な?」
耕太郎と堅悟は不思議そうに顔を見合わせる。
岡林のことだと知っていたものの、樹はそれを口にする気になれなかった。
さりげなく誠に目をやると、いつものごとく、一切の感情を胸の奥にしまいこみ、無色透明な表情を保っている。
だが、その無表情の奥底には、密かな決意を固めているような気配があった。
佑介と岡林の破局から間もなく、誠は岡林に告白した。
この事実は新旧のテニス部員に衝撃を与えた。
ましてや、
そんななかで、樹はひとり、胸をなでおろした。
佑介には気の毒だが、こうなることは、最初から決まっていたようにも思える。
はじめに岡林を好きになったのは誠なのだ。そして、彼女への想いの強さも、誠の方がはるかに勝っていると、樹は信じていた。
しかし、岡林が誠の想いに応えることはなかった。
それを知ったとき、樹は驚きを通り越して、激しい怒りを覚えた。
いったい、誠のどこが気に入らないというのか?
岡林に対して、ほとんど理不尽ともいえる感情が湧いてくるのを、抑えることができなかった。
それでも、誠はあきらめなかった。
まともに目を合わせようともしない岡林に向かって、誠は辛抱強く話しかけた。
周囲の人々の目に、その姿は、ひたむきを通り越して、むしろ痛々しく映った。
あの堅悟でさえ、誠を茶化すことはできなかった。
部活をやめた樹たちの日常は受験一色となり、季節は秋から冬へと移ってゆく。
何もかもが灰色に変わっていくなかで、仲間たちのあいだにも、重苦しい空気が漂い始めていた。