第18話 夢
文字数 712文字
きっと、夜明けが近いのだろう。
覚めてしまうのが惜しかった。
夢のなかでは、まだ幼い子どもだった。そばにいる父の顔には靄がかかっている。父に抱いてほしくて両手を伸ばした。父は大きな体を屈めて幸弥を抱き上げる。体がふわりと浮いて、空を飛んでいる気分だった。声をあげて笑う幸弥を、父は愛しそうに抱きしめる。
いつの間にか、父の顔から靄が消えていた。
見覚えのある笑顔が語りかける。
——はよう けがを なおせ
ハッとして目を開けた。
カーテンの隙間から朝日が漏れて、ほの暗い部屋に一筋の光の道を作っている。
布団に横になったまま、もう一度目をつむり、左のまぶたにそっと触れてみる。
腫れはすっかりひいていた。
幸弥が物心ついたとき、父はすでに亡くなっていた。母はアパートの部屋を、父がいたときのままにしていた。箪笥にしまわれたシャツからは父の匂いがして、部屋のあちこちには父の写真が飾られていた。日々の暮らしのなかで、幸弥は当たり前のように父の存在を感じていた。
父と母は、高校の軟式テニス部で出会った。そこで父とダブルスのペアを組んでいた