第123話 陣痛!?

文字数 1,076文字

「痛たた……」

「あんみつ?」

「んん。大丈夫、少し休めば……う痛あ」


 ──早産傾向があります。


「えっ、まさか陣痛じゃないですよね!?

 りんごちゃんが慌てた声を出した。一気にみんなの視線が私に集まるのを感じる。

「んん……大丈夫。……ああ、おさまったかも」

 ふう、と手汗をエプロンで拭った。するとひよりさんがいつになく真剣な顔で「何分かしてまた痛みあったら病院連絡したほうがいいよ」と言う。それって……まさか陣痛ってこと?

「ま、まさか。まだ予定日までひと月以上あるんですよ?」

 ベビー用品は一通り揃えたとは言え、心の準備はまだできていない。

「とにかく横になりな」とみんなから言われて休憩室を借りた。

 横になっても気持ちはそわそわして落ち着かなかった。もう出産? まさか。ひとりきりだと余計に心細くなった。

 また痛い? かも? 間隔……陣痛だとしたら痛みは規則的に来るはず。だけど不安のあまり時間もよくわからない。

 気づけばまた泣いていた。情けないな。お母さんになるのに。強くならなきゃいけないのに。

「ごめんね……」

 誰に? まだ見ぬイチゴちゃんに? それともお店のみんなに? 兼定くんに?

 不安がピークに達したところで休憩室の扉が開いた。

「病院行こう、果実」

「兼定くん……」



 診断は、『切迫早産』。即入院となった。

「店のことは一切考えないで。お腹の子と自分の命。それが最優先だって、常に覚えといてよ」

 兼定くんはそう言って「また連絡するから」と少しだけ名残惜しそうにしながらお店に戻った。

 あとから聞いた話、ひよりさんが「切迫早産かもよ」と言い出したんだそうで。「旦那っちは? 連絡できないの?」との声に、佑くんがすらりと兼定くんを指さして、私たちの秘密が明らかになったとのこと。

 悲鳴を上げたりんごちゃんに対してひよりさんは「やっぱね」と冷静に言っただけで「早く病院!」と兼定くんを急かしたらしい。

 点滴薬のおかげで早産は免れた。あのまま休憩室にいたらもしかして……と考えるとゾッとする。

「ひよりさんに感謝しなくちゃねえ」

 囁いて話し掛けてみると、ぽこん、と中から蹴られた。

 それにしてもこんないきなり抜けることになるなんて。お店はどうなるのか。りんごちゃんとひよりさんだけで本当に大丈夫なのだろうか。クリスマスは……。

 考えるな、なんて言われても考えないでいられるわけがない。お店は、仕事は、私の全てだから。

 もちろん赤ちゃんはいちばん大切。だけどだからってほかを忘れることなんてできないよ。

「帰りたいな……」

 青白い窓に向けて言うと、また涙が零れた。

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