第119話 ギラギラお姉さん
文字数 1,766文字
そうして休憩時間を終えたりんごちゃんに「返信来た?」と訊ねてみると「ああ、それが」と不満げに口を尖らせた。
「『無理』ってばっさり言われちゃって。クリスマスも授業あるんだそうです」
なんと……。そうか、大学生は忙しいのかあ。
「お役に立てなくてすみません……。はー。っていうかこれって私より授業の方が大事ってことですかねえ」
いつになく刺々しく言うりんごちゃんに「へ」と驚いた。
「『困ってる』って言ってるのに。協力するつもりがちっともないっていうか」
「いやいや。授業は大事だしね?」
「だけど。クリスマスの三日間欠席しただけで単位落としたりするもんですか?」
「や……それはわかんないけど」
私は大学のことはさっぱりだから。
「あ、わかった。アサヒくん、ケーキ屋さんの販売員がやりたくないだけですよ、きっと」
「え、そうなのかな」
まあたしかに業界外の男の子、特にスイーツ好きでもない人にはちょっと居心地が悪い職業……なのかな?
「学生アルバイトさんは理想的だったけど、そうだね……クリスマス出られないのなら、主婦とかも視野に入れる感じになるのかなあ」
私がそう言うとりんごちゃんは「主婦ですか」と再び思案して「……ヒヨリさん」とつぶやいた。
ん……また知らない名前が出た。
「ヒヨリさん、って?」
「アサヒくんのお姉さんです」
ははあ、彼氏のお姉さん……。
「仲良いんだ?」
「あ、はい。とっても」
にっこり笑って答えてくれた。するとりんごちゃんは「うん」と宙を見て頷く。
「ヒヨリさんなら、いいかも」
「え」
「お仕事上がったら連絡してみます!」
うんうん、と誰相手でもなく何度も頷いて仕事を始めた。いい返事がもらえる確信でもあるのかな。その様子を見て私も期待した。……んだけど。
残念ながら翌朝「ええ!」と言わされることとなるのでした。
「東京に住んでる!?」
それはここからだと新幹線で行くことになる場所。当然自宅からの通勤なんて不可能だよ。
「じゃあ無理だね……」
私がガッカリしながら言うと「それが」とりんごちゃんは嬉しそうに続けた。
「しばらくうちに泊まってもらうことになって。うちから通勤するから大丈夫そうなんです!」
「ええっ」
思いもしない話だった。
「『うち』って……彼氏さんと住んでるっていう?」
「あ、はい。ヒヨリさん新婚なんですけど、旦那さんが結構お仕事忙しいらしくて……。それでちょうどクリスマスも一緒に居られないって言われてケンカになったところだったから、予定も空いてるそうで。十一月からクリスマスまでの二ヵ月間、家出 して来るねって言ってました」
うふふ♡ と笑っているけど大丈夫なのかなそれ。
「あんみつさんのこと話したら、新婚の先輩としてぜひ会いたいって言ってました」
新婚の先輩……。
歳は25歳。『先輩』だなんてとんでもない、私より年上だった。そして兼定くんと同い年だ。
とにかくまずは面接。兼定くんが言っていた通りなら本店勤務になる可能性が高かったけど、面接でのご本人の希望は終始一貫していたそうで。
「二号店じゃないと嫌です」
こうもはっきり言われてはシェフも許可するよりほかなかったみたい。
そんなわけで、木枯らしの吹く十一月。すらりと細い……え。ナマ脚 !?
〈目が点になる〉と言うけれど、本当にそうなったのはたぶん人生で初めてのことだった。
「まじか」とつぶやく声が厨房から重なった。佑くんは少し面白がって。兼定くんはかなり憤って……。
ホットパンツ。それは真夏のアイテムのはずでは。そして脚が丸出しなのに靴はヒール高めのショートブーツ。さらに上半身はもこもこ派手ピンクのショート丈の上着。暑がりさんなのか、寒がりさんなのか。ついでに髪は所々ゴールドとピンクのミックスウエーブスタイル。耳には大ぶりの金色ピアスが揺れて、極めつけに芸能人のような茶色く透ける大きなレンズのサングラス……。
「ひよりさーん!」
りんごちゃんが嬉しそうに寄っていく。ああ、やっぱりこの人なんだね。ギラギラしたお姉さんはサングラスを優雅にずらして挨拶をしてきた。
「どうも。梅田 ひよりでーす。あ、やばかわ妊婦ちゃん発見。ね、『あんみつちゃん』でしょ? ひゃは! まじ想像通りなんだけどー!」
ひいいいい。どうなるの? 〈シャンティ・フレーズ〉二号店っ!
「『無理』ってばっさり言われちゃって。クリスマスも授業あるんだそうです」
なんと……。そうか、大学生は忙しいのかあ。
「お役に立てなくてすみません……。はー。っていうかこれって私より授業の方が大事ってことですかねえ」
いつになく刺々しく言うりんごちゃんに「へ」と驚いた。
「『困ってる』って言ってるのに。協力するつもりがちっともないっていうか」
「いやいや。授業は大事だしね?」
「だけど。クリスマスの三日間欠席しただけで単位落としたりするもんですか?」
「や……それはわかんないけど」
私は大学のことはさっぱりだから。
「あ、わかった。アサヒくん、ケーキ屋さんの販売員がやりたくないだけですよ、きっと」
「え、そうなのかな」
まあたしかに業界外の男の子、特にスイーツ好きでもない人にはちょっと居心地が悪い職業……なのかな?
「学生アルバイトさんは理想的だったけど、そうだね……クリスマス出られないのなら、主婦とかも視野に入れる感じになるのかなあ」
私がそう言うとりんごちゃんは「主婦ですか」と再び思案して「……ヒヨリさん」とつぶやいた。
ん……また知らない名前が出た。
「ヒヨリさん、って?」
「アサヒくんのお姉さんです」
ははあ、彼氏のお姉さん……。
「仲良いんだ?」
「あ、はい。とっても」
にっこり笑って答えてくれた。するとりんごちゃんは「うん」と宙を見て頷く。
「ヒヨリさんなら、いいかも」
「え」
「お仕事上がったら連絡してみます!」
うんうん、と誰相手でもなく何度も頷いて仕事を始めた。いい返事がもらえる確信でもあるのかな。その様子を見て私も期待した。……んだけど。
残念ながら翌朝「ええ!」と言わされることとなるのでした。
「東京に住んでる!?」
それはここからだと新幹線で行くことになる場所。当然自宅からの通勤なんて不可能だよ。
「じゃあ無理だね……」
私がガッカリしながら言うと「それが」とりんごちゃんは嬉しそうに続けた。
「しばらくうちに泊まってもらうことになって。うちから通勤するから大丈夫そうなんです!」
「ええっ」
思いもしない話だった。
「『うち』って……彼氏さんと住んでるっていう?」
「あ、はい。ヒヨリさん新婚なんですけど、旦那さんが結構お仕事忙しいらしくて……。それでちょうどクリスマスも一緒に居られないって言われてケンカになったところだったから、予定も空いてるそうで。十一月からクリスマスまでの二ヵ月間、
うふふ♡ と笑っているけど大丈夫なのかなそれ。
「あんみつさんのこと話したら、新婚の先輩としてぜひ会いたいって言ってました」
新婚の先輩……。
歳は25歳。『先輩』だなんてとんでもない、私より年上だった。そして兼定くんと同い年だ。
とにかくまずは面接。兼定くんが言っていた通りなら本店勤務になる可能性が高かったけど、面接でのご本人の希望は終始一貫していたそうで。
「二号店じゃないと嫌です」
こうもはっきり言われてはシェフも許可するよりほかなかったみたい。
そんなわけで、木枯らしの吹く十一月。すらりと細い……え。ナマ
〈目が点になる〉と言うけれど、本当にそうなったのはたぶん人生で初めてのことだった。
「まじか」とつぶやく声が厨房から重なった。佑くんは少し面白がって。兼定くんはかなり憤って……。
ホットパンツ。それは真夏のアイテムのはずでは。そして脚が丸出しなのに靴はヒール高めのショートブーツ。さらに上半身はもこもこ派手ピンクのショート丈の上着。暑がりさんなのか、寒がりさんなのか。ついでに髪は所々ゴールドとピンクのミックスウエーブスタイル。耳には大ぶりの金色ピアスが揺れて、極めつけに芸能人のような茶色く透ける大きなレンズのサングラス……。
「ひよりさーん!」
りんごちゃんが嬉しそうに寄っていく。ああ、やっぱりこの人なんだね。ギラギラしたお姉さんはサングラスを優雅にずらして挨拶をしてきた。
「どうも。
ひいいいい。どうなるの? 〈シャンティ・フレーズ〉二号店っ!